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クリスマス市のグリューワイン

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feat: Eve 第六話

「悪魔!?」
ウリエルのその報告に、ガブリエルも悲鳴を上げる。
「どういうこと!?詳しく説明して頂戴」
「……俺が、エデンの園を監視していた時だ」
ウリエルはぽつぽつと語りだした。彼がエデンの園を監視していた時、天使の一団がエデンの上を通り過ぎようとした。しかし、彼はその中に不審なものを見つけたのだ。彼はそれが悪魔だと分かった。
彼はそれをしとめようとした。しかし当てが外れ、彼に傷だけは負わせたものの肝心のその悪魔はエデンの園に墜落し、行方が分からなくなってしまったのだそうだ。
「……すまない。俺の責任だ」
「そうね……神様に申し開きして頂戴。貴方とも思えない初歩的なミスだわ」
「面目ない……」
そう語り合う天使たちの後ろで、イヴは怪訝そうにしていた。
「あの、ちょっといい?」
「なあに?イヴ」
「悪魔、って何?」
彼女はまず、そこから聞いた。天使たちが当たり前のように話している悪魔と言う存在を、イヴは知らないのだ。
「ええっとね……」とガブリエルが答えに困っているさなか、ウリエルの方が「……神を信じず、神に反乱する者達の事だ」と答えた。
「神様を……信じない?でも神様って、偉くて、すごい方で、だから必ず信じないといけないんでしょ」
「ああ……だが奴らは信じない。だから……奴らは悪い奴らで、俺たちは、奴らを根絶やしにするのが仕事のうちなのだ」
「ふうん……」
イヴは分かるような、わからないような感覚だった。このエデンでは、誰もが神に感謝し、神を信頼している。そうでないものが、はたしてこの世にいるのだろうかと言うのは彼女にとって疑うところであった。
「イヴ。いいこと。悪魔たちはね、とにかく悪い存在なの。絶対にかかわらないことよ」
ガブリエルは珍しく厳しい顔で、イヴにそう言い聞かす。
「うん、わかった……」
「……すまなかった。俺の責任にかけても、必ずきゃつを見つけ出し、……神様の名のもとに八つ裂きにしてくれよう」
「そうして頂戴。ぼやぼやしているとアダムやイヴが危ないもの。わたしも協力するわ。神様の所にも付き添ってあげる。……貴方の責任ではあるけど、悪魔どもが頭が回るのは事実だしね。完全にあなただけが悪い事でもないわ。弁護してあげるわよ」
「ああ……有難い、ガブリエル」
そう語る天使達に、イヴは「わたしは?」と言った。
「イヴは心配しなくていいのよ。イヴは何も悪くないんだから」
「……君たちに、平和な暮らしを守るのが……俺たちの仕事。……君たちに一切の害が及ばぬよう、尽力しよう」
「わたしたち、ちょっと神様のもとに行ってくるわ。イヴ、後は一人でも大丈夫?」
そう穏やかに語りかけるガブリエルに、イヴは笑顔で「うん、大丈夫!」と返す。すると彼女は笑って、去り際にこう言った。
「イヴ。もし万が一悪魔を見つけたら、絶対に私たちに言ってちょうだいね。約束よ」
「うん、約束するわね!」
そうイヴが言ったのを聞き届け、ガブリエルは微笑んでから天に昇っていった。ウリエルの巨体も彼女と全く同じように身軽そうに浮き上がり、天に消えていき、ほどなくして見えなくなった。

イヴはエデンの園を一人、ぶらぶら歩いた。歩いていると、彼女は途中で、蛇に会った。
「あ、蛇さん」
「どうした、考え事か?イヴ」
「うーん……」
いつもの通り自分の首元に巻きついてきた彼に、イヴは言う。
「蛇さんは、悪魔っての、あったことはあるの?」
「……あるよ」
「どんな人たちだったの?」
「ろくでもない奴らだったよ」
蛇は少し昔の事を思い出したらしく、懐かしささえ込めて彼女に語った。
「エデンに悪魔が入ったんだってな?」
「しってるの?」
「俺は何でも知ってるよ。イヴ、気を付けるんだぞ。悪魔たちは、実際……悪いと言うよりも、本当に、ろくでもない奴らばっかりだ。関わり合うもんじゃない。関わりあって、いい事なんて起こらない」
「うん。ありがとう、蛇さん」
イヴは蛇とそんな話を交わしつつ、アダムのいる所に戻った。アダムも悪魔に関することを聞いていたらしく、彼もやはり、イヴにそのことに関して釘を刺してきた。そろそろ言われるのも三回目なので、イヴは適当に聞き流していた。


次の日、ガブリエルは来てくれなかった。まだ忙しく、神への申し開きなどをしているのだろうか。それとも、別の仕事だろうか。それは分からなかった。
なんとなく気分で、イヴはその日エデンを一人でぶらぶらと歩いた。ガブリエルや蛇がおらずたった一人真昼のエデンを歩くのも、また結構なものだった。
彼女の足は、まだ彼女が行ったことのない方向に向かっていた。すたすたとその道を歩いていけば、やがて彼女はうっそうとした密林にたどりついた。
エデンにはこんなところもあったのか。彼女は新鮮に思い、密林の入口になっている深い草をかき分けて、体をその中に滑り込ませた。なるほど、見た目の通り、中もまるで普通の森とは違う。
木漏れ日となって差し込む光は森と比べてもほんのわずかなもので、夜の暗さとはさすがに比べ者にはならなかったが、それでも密林の中はずっと暗かった。よくガブリエルや蛇と遊ぶ森のさわやかさよりも、そこは重く冷たい空気が立ち込め、生命感に乏しかった。普通の森ではこだまする鳥の声や獣の足跡も、一切が聞こえず、ただイヴが地面を進む音のみが響いた。イヴにとってそれは、また一味違った神秘性を感じさせるものだった。
彼女は足の下に何かを踏んだ。ぬるりとしたその感触に、彼女はびっくりする。慌てて彼女が足を上げると、その下には彼女が初めて見るものがあった。
湿った土の黒色とそこに生える様々な緑色の中の鮮やかな赤い色は一見花のようにも見えたが、花のように花弁も、花粉もない。赤くて丸く、黄色い粒をいくらかつけたそれを、イヴは次に木の実が土に落ちたものだと思ったが、それも違った。それは赤くて丸いものを、下に生えた太い茎で支えた、れっきとした地面に生えているものだった。
草だろうか。草にしては変だ。だが、草だろうと草では無かろうと、イヴはその丸っこい体と赤と黄色の色の取り合わせを、非常に可愛らしいと感じた。花のようなきらびやかさには欠けるが、このしっとりとした密林の雰囲気によくあった可愛さと美しさは、花よりもこの場に相応しいと思える。
よくよく注意してみれば、似たようなものがそこかしこにあった。地面のみならず、太い木の上にも、彼らの仲間らしきものが生えている。花で言う花弁にあたるところはそれぞれだ。赤だけではなく黄色もあれば百合のような白色もあるし、木の幹に溶け込みそうな黒色や茶色もある。丸っこくなく平たいそれを持ったものもあれば、茎の方も様々で、がっしりと太短いもの、ひょろりと細長いもの、その中間のもの色々とあった。
イヴはキノコと言うものを知らなかった。だからこそ、彼女はこれの名前についても後で聞かねばならない、と思い、彼らの姿を目に焼き付ける。普段の森ではあまり出会えないような素敵な発見を見つけたことに、イヴの心は浮足立った。
もっと彼らの仲間を探そう。そう思って黒い地面を注視するイヴの眼に、ふいと灰色の羽が目に留まった。
彼女はそれを拾い上げる。それは確かに、羽だった。イヴはこの森にも鳥がいるのか、と思った。
よくよく見てみれば、同じような羽がもう一本落ちている。それは、いくつもいくつも転々と落ち、道になっているのだ。彼女はその羽を拾い集めながら、その後をたどった。
やがてその終着地点のようなものが見えた、それは森の中心の、巨大な木のうろだった。イヴは「鳥さん、こんにちは!」と中を覗き込む。と、同時に、その中から、悲鳴が起こった。
中に居るのは、鳥ではなかった。天使たちと同じように、自分たちの姿に似ていながら、背中に翼を生やした生き物だった。


そう、天使だ。彼は天使に一番似ていた。しかし、いつも誇り高そうにしている天使達とは一味違い、彼はうろの中を覗き込んだイヴを、がたがたと震えながら必死で睨みつけていた。
背中から生えた一対の翼は灰色をしていて、見事に根元から折れていた。おまけに大量の水を吸って重そうで、ぐったりと地面にまとわりついている。
翼と同じような灰色の髪の毛はぼさぼさで、ほとんど目が見えなかった。これも水に濡れて天使らしからぬ不潔そうな印象すら与えた。
「どうしたの?あなた誰?」とイヴは声をかけた。
「俺に近づくんじゃない!」
彼の第一声は、それだった。
「良いか、そこから一歩でもこっちに来てみろ、殺してやるから」
初対面の相手に急にそんなことを言われたのは、イヴにとって初めての事だった。こんな時、蛇かガブリエルがいればもう少し彼らは現状を説明してくれたのだろうが、あいにく、彼らは二人ともいないのだ。とにかく、自分で何とかするほかはない。イヴは少し戸惑った後、まず疑問に思った一つの事を言った。
「殺す、って何?」
「煩い!」
彼はもう一度、きっとイヴに向かって言った。
「俺を攻撃するんじゃない、したら、たたじゃ済まさんぞ」
イヴはますます意味不明になって首をかしげた。この目の前の生物は一体全体、何を言っているのだろうか?攻撃?なぜ、イヴが彼にそんなことをする必要があるのだろう?
「落ち着いて。攻撃なんてしないわよ。でもあなた、背中の羽、怪我してるから」
「いいんだ、ほっとけ!俺がここにいたと誰にも言うなよ、いいな!」
「でも、痛そうじゃない」
イヴは彼の警戒をものともせず、手を伸ばして彼に近づいて背中の折れた羽に手を触れた。彼がそれに、びくりとすくむ。
「ほら、折れてる」
「貴様に何の関係もないだろう!ほっておけと言ったんだ!」
「そうだ!ラファエルを呼んでくるわ、ラファエルは何でも治せるから」
「ラファエル!?」彼の顔から血の気が引いた。「やめろ!そんな奴死んでもここに呼ぶんじゃない!」
「どうして?」
「どうしてもだ!」
彼はとにかく、必死なようだった。話しかけるイヴを彼は必死で拒み、怪我の事を持ち出せば絶対にラファエルの事は呼ぶな、の一点張りだった。
しかし、イヴはやはり彼の事が心配だった。大丈夫だ大丈夫だと言っているが、明らかに大丈夫ではないことくらい、いくら彼女にも見てわかる。このまま放っておくべきではない、と彼女は思った。
踵を返そうとする彼女の後姿に、彼は「お、おい、貴様!」と怒鳴った。
「良いか、俺がいたことを誰にも言うなよ、ここに誰も呼ぶな、命が惜しかったらそうしろよ!」
「うん、わかった!」彼女は元気よくそう言いかえして、いったん密林を駆け足で出た。そして、よくなじみのある日差しの満ちた空間に出ると、声を上げてラファエルを呼んだ。
ほどなくしてその場に光がみち、ラファエルと、彼と一緒にいたらしいミカエルが現れた。

「ラファエル、こんにちは!それにミカエルも!久しぶり!」
「よう、こんにちは、イヴ!今日も元気そうだな、何よりだぜ!」
「久しぶりだな。アダムとは仲良くやれているのか?」
「うん、もちろん!」
ラファエルとミカエルはいつもと変わらない、人懐っこい笑顔と、真面目そうながらも美しい微笑を持って彼女に相対した。
「それで、何の用でオレを呼んだんだ?イヴ。見たところ怪我はしてないみたいだし……まさか、悪魔見つけたとか!?ハハハ!」
「ラファエル……」
彼の冗談に鋭く釘をさすように、ミカエルが低い声で一言いう。
「……冗談だろ。で、どうしたんだい?イヴ。遠慮なく話して御覧」
「私じゃないんだけど、怪我している子がいるの。その子、羽を折ってるんだけど……どうすれば治るか、ラファエル、教えてもらえない?」
「どうすれば、って……」ラファエルはそれを聞いて、まず当然の疑問を投げかけた。
「その子、鳥かな?今すぐオレのとこに連れてきな!あ、もしかして大きくてイヴじゃ運べないとか?だったらその子の居場所を教えてくれよ、オレが一発で治してやるぜ!」
「駄目!それはだめなの!」
イヴはそれに関して反論した。ラファエルは、きょとんとしていた。
「なんで?」
「その……私が、治したいんだから……」
あの彼がだれだかは知らないが、とにかくラファエルは呼ぶな、自分の事を誰かに知らせるな、と言った以上、それは守らなくてはならないだろう。彼もエデンの住人なのだ。エデンの住人は、皆イヴの友達だ。友達との約束は守らなくてはならない。
ラファエルはそれを聞き「ははぁん、そう言うことか……」と言った。
「おい、ラファエル」唐突にミカエルが口をはさむ。「あまりイヴを知恵づかせるのも……」
「いいじゃねえか、これくらい。イヴは自分の手で困った鳥を治してやりたい、って思ってんだよ。優しい子じゃねえか。『あいつ』にはこんなセンスなかったぜ。イヴが完全に成功した子、って証拠だ。むしろ神様の望まれた通りだろ」
「むう……そう言えんこともないが」
彼らはイヴの目の前で、いまいち彼女には理解できない会話をした。だが、ラファエルはミカエルとの舌戦に勝った見えると振り返り「良いぜ。教えてやる」と言った。それを受けて、イヴも笑顔になる。
ラファエルはふっと手のひらを広げ、念じる。すると、彼の掌に炎の鳩が湧き上がった。だが、彼は密林にいた彼と同じように、翼を折っていた。
ラファエルはその鳩を空中で固定すると「いいかい、イヴ。翼を折っている鳥には、まずね……」と説明を始めた。


密林の中、イヴは一目散に木のうろの中に駆け寄る、例の彼は同じように、昨日炉の中で折れた羽を抱えながら息をひそめていた。彼は戻ってきたイヴに気が付き、そしてビクリの彼女に反応する。
「だ、誰だ!?……何だ、またお前か……何の用だ、何故戻ってきた!」
「治し方、聞いてきたわよ!」
その言葉に目を白黒させる彼を尻目に、イヴはひょいとウロの中に入る。彼女は、長い草の蔓を持っていた。
「な、何だ!何する気だ!」彼はうろたえながら後ずさる。
「暴れないで。折れた羽はね、固定して安静にしているのがいいんだって」
彼女は彼が木のうろの奥に入りこみ背中を向けたことをいいことに、先ほどのラファエルの見よう見まねで彼の羽に蔓を撒きつけ、折れた羽を固定しようとした。
「や、やめろ、俺に触るな!勝手に治る、勝手に治るってのに!」
「暴れないでってば……暴れさせるのが一番よくないって、ラファエル言ってたわ」
と、その時。彼があまりに暴れるのと、イヴ自身こんなことは初めてなのが手伝って、イヴは力加減を間違え思いっきり蔓を締め上げてしまった。当然彼に襲い掛かった痛みは凄まじいらしく、彼は悲痛な叫びをあげる。
「ご、ごめんなさい……」
「き、貴様ぁ……」
彼は荒い息で後ろを振り返りながら、肩ごしに彼女に話しかけた。
「いい加減にしろ、俺に何をするつもりだ!」
「何って、翼、治してあげようと思って」
「ふざけるな、俺にそんなことする奴がいるか!理由がないだろ!」
「理由って……だって、貴方、エデンの住人でしょ?だったら、私のお友達じゃない」
「……は?」
きょとんとする彼に、イヴは続ける。
「エデンに居るのは皆私のお友達って天使がみんな言ってたわよ。さ、じっとしてて。今度は締め付けすぎないようにするから。ごめんね」
「友達……?俺が……?」
彼はようやく反抗するのをやめた。彼の思考は、別の所に行ってしまったようだった。彼はイヴに何を言われたのかわからない、と言う風だった。しかし、イヴにとってもそちらの方が好都合だった。彼女はすっかり、彼の羽を蔓で固定できた。
「できたわ!……貴方、名前、なんていうの?」
「……お前は?」
ようやく逡巡から戻って来たらしいその相手は、逆にイヴに言い返した。
「私はイヴ!」
「イヴ……」
彼はその名前に、何か思うところがあるらしかった。だが、イヴにそのことは分からなかった。彼は暗いうろの中で自分が名乗るのをじっと待っているらしいイヴに、ぼそぼそとした声で言った。
「俺は……サマエルだ」
「サマエル!」イヴは、いつもの通り、言葉を覚えるにあたってそれを復唱した。
「サマエル、また来るわね!」
そう言ってイヴは、戸惑っている彼を残し、彼のもとを離れた。


その夜の事だった。イヴの去った密林は、光るキノコだけがぼんやりと緑磯に輝いていた。サマエルはうろの中から這い出てきて、密林からわずか除く空を見つめながら、うめく。
「ルシファーさん……ルシファーさん……聞こえないんですか?俺です、サマエルです。すぐに来てください。天使……あのバカ力のウリエルに翼を折られました。見つかったら、殺されます……どうして返事して下さらないんですか?俺を見捨てたんですか?お願いです、助けてください、ルシファーさん……」

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