クリスマス市のグリューワイン

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feat: Judith 第二話


《一日目》

黄昏時になって目の前に現れたユディトの姿をいて町の長老、オジアにカブリス、カルミスは驚いた。ここ三年間喪服にしか身を包んでいなかった彼女が、香油を塗り、豪華なドレスに身を包み、丹念にすいた髪の毛にはいくつもの髪飾りをつけ、美しい靴を履き、アンクレットに腕輪、指輪、イヤリング、付け得る装飾品は余さずに見つけていたからだ。彼女は、彼女のできる最高の装いをし、ベトリアの城門の前に現れた。どんな男でも、これほどの美女に心を惑わされぬことはないだろう。そうとすら思える装いですらあった。
ただでさえ美しい彼女がこうも美しく着飾って、彼らは感嘆した。
「ユディト殿、神様が貴女と、このイスラエルを祝福してくださるように」彼らは言った。
「ええ……ありがとうございます。さあ、城門を開け下さい、長老様。……貴方方の言葉を、私が成就させるために」
その言葉を最後に、ベトリアの城門は開かれた。貴婦人の装いになったユディトは、バビロニア軍への大量の贈り物、ワインにオリーブ油、煎り麦、干しイチジク、上質のパンなど……を持ったミルツァと一緒に、たいまつの光を頼りに山を下り始めた。

「ホロフェルネスに簡単に会われてもらえるとは思いません。ただ和平のために来たと塀に言っても、その場であしらわれるのが落ちでしょう」彼女は言った。「……良いこと。表向きは、私たちは、ベトリアを裏切ったという体にしましょう。そうすれば、彼らは私たちを油断し、将軍のところにも案内してくれるかもしれません。お前にまで、それに付き合わせるのは酷なことですが…」
「いいえ、奥様。私は信仰と貴女のためなら、どんなことでも怖くありません。たとえ、自分自身の心を裏切ることでも」
ミルツァはそう笑顔で答えた。事実、その算段の方が公算が高いように思われた。彼らはユディトの美貌の前に、簡単に油断するはずだ。

やがて、彼女たちが歩いていると、バビロニア軍の陣地についた。
彼らはやはり、ユディトを見て一瞬、びくりとすくんだ。彼女の美貌の故にだろう。だが、彼らは少しした後落ち着きを取り戻し「止まれ、貴様は何者だ」と言った。
「兵隊さま。我々はベトリアのものです。貴方方に降伏すするため、侍女とともに町を抜けてまいりました」
「降伏だと?」
「はい……皆様。どうか私に、道案内をさせてくださいませ。私は貴方方が抑えた道よりももっと良い道を知っております。それを教えますから、どうぞ、私たちの命だけはお救いになってくださいませ」
高貴な女主人が下賤なバビロニア兵にそんな口をきいていることに、ミルツァは激しい不快感を持った。しかし、これもユディトのためだと思えばこそ、彼女も跪き、同じように彼らに懇願した。
彼らはしばらくの間話し合っていたが、「分かった。我らとともに山を下りるがよい。我らの将軍、ホロフェルネス閣下に判断を仰ぐためだ」と言った。彼女たちは、百人ばかりの兵に護送され、山を下って行った。


山を下り、バビロニア軍の陣営を通り過ぎる間、ずっとミルツァは女主人に向けられる視線に敵意を持っていた。彼女の立派な人柄を知るベトリアの民ならいざ知らず、彼らにとっては降ってわいたこの上ない美女でしかないのだ。そのような視線を向けることにも無理はなかろう。だが彼女は、やはり、優しいユディトが侮辱されているような気がしてたまらなかった。
やがて彼女たちは、とある立派な幕屋に案内された。「将軍閣下」と、一人の兵が言った。。
「どうした?」
幕屋の中から聞こえてきた声に、ミルツァは驚いた。将軍と言うから年のいったものだと思っていたのに、意外と若い男性の声だったのだ。
「ベトリアの女が二人、我らに降伏し、道先案内をしたいと申しております。どうぞ、ご判断を」
そう言うと、静かに彼が起き上がる音がした。そして、足音とともに、豪華な銀色の燭台を何本も点し、非常に明るい天幕の光が現れ、その中から将軍ホロフェルネスが姿を現したのだ。

ホロフェルネスの姿は、またもやミルツァを驚かせた。彼はその声にたがわず、若かった。多く見積もっても三十ばかり、ユディトと同じくらいだろう。そして、彼はぞっとするほど冷たい美貌の持ち主だった。顔かたちは非常にスマートで、しかも、それに不気味なほどの冷やかさをたたえていた。長いまつげに縁どられた鋭い目が、二人を見ていた。
ミルツァは最初、彼もまた女主人に彼の部下たちが向けていたような下品な視線を向けるのだ、と思った。しかし、どうも勝手が違った。彼は石のように冷たく、固い表情を解かないまま、ただ二人を見ていた。
「入れ」
彼は何も聞かず、短く彼女たちにそう言った。
その言葉に怯むミルツァを期にもせず、彼は言った。
「入れと言ったんだ、俺の天幕にな」
彼がそう言って、明るい天幕の中に自分は踵を返して入っていく。「ミルツァ、行きましょう」というユディトの声に従って、ミルツァも入った。そして、彼女たちを護送していた百人ばかりの兵にはこう言った。
「お前は結構だ。俺は、この女たちだけと話す」
その言葉を聞いて、兵のリーダーは「……承知いたしました、閣下。それでは」と一応は軍事然とした態度で言う。だが、その中には確かに、少しばかりの冷やかしも混ざっていた。他の兵たちすらも、ああ、つまりそう言うことか、と笑っているようにすらミルツァには思えた。
ホロフェルネスは先ほどまで自分が休んでいたのであろう紫布を敷いた寝台の上にどっかりと腰かけるると、ユディト達が口を開く間もなく、次の言葉を言った。
「来ているものをすべて脱げ」
彼は全く淡々と、そう言ってのけたのだ。

その言葉に、いくらなんでもミルツァが素直に従えなかったのは当たり前だろう。「なんですって!」と彼女は声を上げた。
「脱ぐんだ」
だが、彼の言葉は変わらなかった。彼はその大理石のような硬い表情を崩さないまま彼女たちに告げる。
「言うに事欠いて……貴方達の兵隊もそうだったけど、私たちを何だと思っているの!私たちは売春婦じゃない!」
「むしろ貴様こそ、自分たちを何だと思っているんだ?」彼は言い返した。「ここはベトリアじゃない。バビロニア陣営だ。貴様らがベトリアでどんな身分だったかは知らんが、ここでは売春婦以下だ」
「なっ……」
「降伏とはそう言うことだ」
「お……お前みたいな男なんて!」
頭に血の上ったミルツァの肩に、ふと、柔らかい手が置かれた、ユディトの手だった。
「ミルツァ……脱ぎましょう」
「お……奥様!」
「彼の言うことの方が正論です」
そう言ってユディトは、恐る恐る、静かに飾り帯をほどいた。そして。全身に付けた宝石を取り……静かに、全身に纏ったドレスを脱ぎ始めた。敵の将軍が見ているその前で。
ミルツァは怒りと屈辱に気が狂いそうであった。しかし、自分の女主人がしているのに、まさか侍女である自分がしないなどと言うことはできない。彼女は悔しさに震えながら、自分も服を脱いだ。天幕の中に大量に置かれた燭台の明かりに、二人の裸体が照らされた。
やがてユディトが何も言わないうちに、ミルツァが言った。
「ぬ……脱いだわよ、これでいいでしょ」
だが、ホロフェルネスはあい変わらずの冷徹さを持って、彼女たちにこう告げた。
「俺は全て脱げ、と言ったのだ。何故貴様ら、腰巻を残している」
「……」
ユディトは黙っていた。ミルツァは、彼女は周知の屈辱のため言葉が出ないのだと判断した。
「……いい加減にして!」
「いい加減にするのは貴様だ。貴様は姫君扱いをされにバビロニア軍に来たのか?先ほどから、大層な態度だな」
両手で必死に上半身を隠しながら、ミルツァはホロフェルネスに抗議した。だが、ユディトがぼそりと呟いた。
「……従いなさい、ミルツァ。私達は、その覚悟はあったはずです」
「奥様……」
パラリと、ユディトの腰巻がほどけ、彼女の秘所があらわになった。それを見て、ミルツァは惨めさや悔しさに涙をこぼした。
地獄に落ちてしまえ、こんな下種なバビロニア人なぞ。そう心の中でホロフェルネスを呪い、彼女は自分の腰巻もほどき、全裸になった。
それを見届け、ホロフェルネスはゆっくりと座っていた寝台から立ち上がり、まっすぐにユディトとミルツァのもとに向かった。そして、二人の体など一切興味を示さずにかがみこむと、二人の来ていた服をつかみ、探り始めたのだ。
ミルツァははっとした。やがて、彼がミルツァの着ていた服の中から一本の短剣を見つけたからだ。
「……用意がいいな」
彼はそれをミルツァに見せびらかしながら言った。
「ミルツァ!?」
ユディトは驚いて彼女の方を見る。それはそうだ。ユディト自身は武器など持っていくつもりはなかったのだから。
彼は彼女たちの残りの服をみんなミルツァが持ってきた手土産の袋にぶち込み、代わりにそばに置いてあった石造りの箱を指さして「その箱に奴隷用の服がある、それを着ろ」と告げた。
「貴様らはバビロニア陣営に居る間、イスラエルから持ってきたものは一切合切に身に着けることは許さん。……いつまでそんな見苦しい恰好をしている?バビロニア将軍の前で」
彼は裸のユディトとミルツァに蔑むような視線を送ると、自分は彼女たちの服と手土産の持った袋を持って天幕の外に出た。
「これを灰になるまで燃やせ」彼が言う声が天幕の中から聞こえた。
「ベトリアの民のものだ、何を仕組んでいるかなど分かったものではないからな」

奴隷の服を着たユディトを見て、ミルツァは「……奥様!」と、言葉にならないうめきを上げた。
「仕方がありません。ミルツァ。……それより、何故勝手に、武器など持ってきたのです」
「だって、だって……」
バビロニア軍に行くにあたって、少しでも無防備でいることなど彼女にはできなかった。いや、あわよくば、そのホロフェルネスを隙を見て殺してしまえればベトリアは救われる。そんな思いすら、彼女にはあったのだ。
彼女は、イスラエルに対する誇りを捨てきれなかったのだ。彼女はそこまで、ベトリアと、民族に強い誇りを持っていた。
だが、ユディトの咎めるような視線の前に、ミルツァは謝罪の言葉しか出てこなかった。
「……ごめんなさい」
「謝る必要などない。持っていようといまいと、どうせ俺は貴様らを味方としては見ないからな」
気が付けば、ホロフェルネスが戻って来ていた。
「ひとつ言ってやろうか。俺はお前たちなどこれっぽっちも信用しないし、油断もしない。貴様ら、少しでも特別扱いをしてもらえると思ったら考えが甘いぞ」
これっぽっちも信用しない。油断もしない。それは、先ほどの行為でも明らかになった通りだ。彼は周囲のバビロニア人とは、明らかに違っていた。色欲故ではなくただ自らの身の安全のため、彼は彼女たちに恥辱を与えたのだから。その証拠に、彼は少しでも顔色を変えず、服をまさぐる間、ちらともこちらに視線を向けず、裸になった自分たちに鼻の下を伸ばすどころか侮蔑の視線すら与えたのだから。
「馬鹿な兵隊どもがどう思おうと」彼は冷たく、美しい……そう、まるで、ユディトに匹敵するのではないかと言うほどの美しい顔で、ユディトに向かって言った。
「俺は今さらお前の美貌ゆえに心を緩めたりなどせん……お前にも分かっているだろう。ユディト」
ホロフェルネスはそう言った。
彼がなぜ自分の女主人の名前を知っているのだ?ミルツァは混乱した。自分たちは彼の前では名乗らなかったはずだ。名乗る時間もなかった。なぜだ?それに……「今さら」とはどういう意味だ?


彼女たちに割り当てられた粗末な天幕の中で、ユディトはミルツァに言った。
「……変だとお思いでしょうね。ミルツァ。あの将軍、ホロフェルネスのことを」
彼女はミルツァが当より早く、話を切り出したのだ。
「は、はい……」ミルツァは素直に答えた。
「なんで彼が私の名前を知っているのか。なんで私が彼の事を気にしていたか……それに、なんで彼が、ベトリアの攻略法を知っていたか、すべてお前に教えるわ。ミルツァ。私達は、ここまで来てしまったんですもの」
一本だけ照らした蝋燭の光のもと、ミルツァの女主人は語り始めた。

「ホロフェルネスは……あの人は、お前が生まれる前の話になるけれども、ベトリアに住んでいたの。そして……私と、あの人は、愛し合っていたの。心の底から、誰よりも……愛し合っていたの。でも……ベトリアと、そして、私は、あの人をまるでごみくずをそうするように、捨ててしまったのよ」

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