クリスマス市のグリューワイン

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feat: Judith 第五話

《三日目》


気が付けば夜明け近くになっていた。また泉の同じ場所で水浴びをしながら、ユディトは赤く染まろうとしている東の空を見ながら神に祈った。ミルツァもともにそうした。
彼女は思った。願わくば、本当に、過去の預言者たちのように神が預言を下してはくれない者か。イスラエルの民を救うという旨の預言を。
だって、先日話したこと、あれはでっち上げなのだ。ベトリアの民は今なお忠実に、神への信仰を守っているに違いないのだ。
エリヤの生きた時代の北イスラエル王国の民のように神に不信心ならさておき、今なお神を信じ、雨を待っているであろう彼らの願いを聞いたという預言を神は自分に下してはくれないものだろうか。少しでも、この心を和らげてはくれないだろうか。
ユディトは水から上がった体を太陽に照らしながら、心の底で神にそう訴えかけた。


その日も、ユディトたちはホロフェルネスに奴隷たちの手伝いをするよう言いつけられ、それに従っていた。ユディトは当然焦っていた。もう三日目になる。今日が終われば、期限の半分が過ぎてしまう。
ホロフェルネスの心を溶かすどころか、昨日はろくに話もできないまま終わってしまった。このままではいけない。しかし、どうすればいいのか。
ユディトがそう考えながら甕に水を汲んでいると、不意に、一つ甕が浮かび上がった。
「手伝いますよ」
そう言いながら現れたのは、メロダクだった。

少年と言えども、やはり男である。メロダクの助けは非常にユディトとミルツァにとって有難いものだった。
「ありがとう、メロダクくん」ユディトは言った。
「でも、あなた、こんなところに居ていいの?あなたも兵隊でしょ?」
「良いんですよ。どうせ僕がいても邪魔ですから」ミルツァのその問いに対して、メロダクは言った。
「家の体面のためだけなんです。この戦に駆り出されたのなんて。ぼく、本当は戦ができるほど強くもないし、皆さんにも迷惑がられてるんですよ。だからこういう仕事をさせてもらえる方が実は嬉しいんです」
彼はそう言って苦笑いした。
「なんか……ひどい話ね」と言ったのはミルツァ。
「そもそも、ネブカドネザルがプライドを傷つけられた仕返し、なんて言ってこんなにバンバン戦してるわけでしょ。そのことくらい許せばいいのに、心の狭い奴!」
「はは……陛下の事をあんまり悪く言わないでくださいね」
メロダクは苦笑しながらミルツァにそう言う。
「特に、ホロフェルネス様の前では気を付けたほうがいいですよ。閣下は本当に、国王陛下に心酔しておられますから」
「そうなの?」とユディトが聞く。
「はい。……あの、ご存じないかもしれませんが、閣下は生粋のバビロニア人ではないんです。……流れ者で、相当いろいろなことがあって、バビロニアにたどりついたとき、ネブカドネザル様に拾われたんだそうです。そのことから、本当に陛下には感謝していらっしゃるんですよ」
ユディトはそれを聞いて、ちくりと心が痛んだ。存じていないわけがない。彼がそうなる原因は、ベトリアにあるのだから。
「閣下は、どんな時でもネブカドネザル様のため、って言うんです」
彼のその言葉を、ユディトはきっとそうなのだろうという気持ちd家いいていた。ちらりと話したおととい、ホロフェルネスはネブカドネザルの事を語っていた。彼にとっては、本当にかけがえのない絶対的君主なのだろう。
やがて水汲みが空陣地に入ると、ユディト達は水瓶を地面において一息入れた。その時、メロダクが彼の祖父に所用で呼ばれた。
「すぐに行きます」彼は素直にそう答えてから、ユディト達の方を向き直って、まだ、少し顔を赤くしてこう言った。
「あの……何か困ったことがあったら、なんでも手伝いますから、気兼ねなく言って下さい。それじゃあ」
「ありがとう」という間もなく、メロダクは立ち去って行ってしまった。


メロダクがいなくなってから、ユディトとミルツァはしばらく二人きりで兵士たちの物品の整理をしていた。太陽が天の一番上に昇っていた。
早く、早くホロフェルネスにもう一度話さなくては、ユディトの心にそんな焦りが生まれていた矢先の事だった。不意に彼女の視線の外で、ミルツァのうめき声が聞こえたのだ。
「ミルツァ!?どうしたの!?」
彼女がそう言って振り返った時、二人の兵士がそこにはいた。メロダクとは違い、体も屈強で、いかにも兵士と言った風の二人だった。ミルツァは彼らに猿轡を噛まされ、体を押さえつけられて何か言いながらもがいていた。
ユディトは、急にぞっと背筋が寒くなった。二人のうちの一人がミルツァを押さえつけると、彼らは口で合図して、今度はもう一人がユディトを押さえつけ、地べたに押し倒した。
これから何が起こるかなど、言わなくてもわかることだった。

「や、やめて!」
彼女は叫んだ。だが、二人の兵士は返事すらしなかった。
「お前が先でいい、でも次は俺だからな」こんな会話を二人の間同士でしているだけで、彼らは全くユディトの言葉に耳など貸さなかった。猿轡を噛まされたまま必死で抗議しているミルツァなど、全く意にも介していないようだった。抵抗しようにも、力の差は歴然だった。
「やめてってば!」
ユディトがそう叫んだ時、彼女を押さえつけている兵士は彼女の細い両手首を片手で押さえつけ、彼女の上に馬乗りになった、ユディトは、またったく身動きの取れない体制にさせられた、眼前に、今まさに自分を犯そうとしている兵士の姿が間近に見えた。
彼女はそのうち、声も出なくなった。当の兵士は、ハアハアと息を荒くして、いよいよ彼女に口づけしようと顔を近づけてきた。彼の膨らんだ下半身の感触を、彼女は衣服越しに太ももの間に感じた。彼女はいよいよ身振るいし、目をぎゅっとつむった。耳に聞こえるのは、彼の荒い息遣いとミルツァのくぐもった声だけだった。

か、のように思えた。
「何をやっている?お前達」
ユディトの唇に来るべき感触が訪れるよりも先に、非常に冷たい声がその場に響いたのだ。
ユディトは自分を押さえつけていた兵士が体を起こし、自分を解放したのを悟って、目を開けた。目の前には、ホロフェルネスが経っていた。

「しょ、将軍閣下!」
兵士は慌てて声を上げた。
「こ、これは、その……」
「その、何だ?」
ホロフェルネスはその霜のような冷ややかな目で、地面に四つん這いになる兵士を見下しながら言った。
「ぜひ、聞かせろ。お前たちは何をしていたのだ?」
兵士は慌てて何か取り繕おうと二人とも慌てたが、しどろもどろにしか言葉が出ない、ホロフェルネスは目つきだけはそのままに口門を笑うように歪ませて「さっぱり要領を得んな。お前たちは何をしていた、と俺は聞いているのだが」と彼らに詰問した。
「い、いや、そのう……」
「貴様ら、この俺が、この女が陣地に来た時、なんと命令したか覚えているのか?いないのか?」
ホロフェルネスは彼らにそう言った。
「どうなんだ?」
「は、それは……」
「よし、覚えているのだな。復唱してみろ。俺は、この女の処遇について、なんといった?」
兵士たちは顔を真っ青にして口をパクパクしえ知多。だがホロフェルネスは地べたを段と踏み鳴らし「復唱しろ!」と言った。
「か、閣下は、おっしゃいました……この女は、戦が終わり次第、ネブカドネザル様の女奴隷として献上する、と……」
「そうとも。全くその通りだ」
ホロフェルネスは相変わらず口元だけを歪ませて、彼らに言った。
「ネブカドネザル様は何者だ?」
「お、お慈悲を……閣下……」
「ネブカドネザル様とは何者か、と俺は聞いている」
ホロフェルネスは彼らの胸ぐらをつかんだ。彼らは今にも死にそうに、「わ、我々が仕える誰よりも偉大な、神に等しきバビロニアの帝王、でございます……」
「そうとも。ネブカドネザル様こそ、世界を統べる王。神に最もふさわしき存在……良く分かっているではないか」
ホロフェルネスは、彼らに畳み掛けるように言った。
「……わかっていながら、貴様らはその帝王にさし上げるべき貢の品を、貴様らごとき下賤な者の汚い手で汚そうとしたのだな!?」
「お、お慈悲を、お慈悲を、閣下……」
彼らはまるでつい先ほどまでユディトがそうしていたように、がたがた震えて恐怖におののいていた。
「こちらへ来い」
ホロフェルネスは、そんな彼らに手招きをした。
「お慈悲を……」
「司令官は俺だ!俺が来いと言ったら来い!」
ホロフェルネスは飛び切り威圧的に、大声で彼らにそう命じた。彼らは震えながら立ち上がり、ふらふらとホロフェルネスについていった。
「貴様ら!」続いて彼は、ユディトとミルツァにも命令した。
「貴様らも来い!」

彼は、人知に残っていたバビロニア軍を招集すると、その縛り上げた二人を彼らの前で晒し者にした。
「皆の者、よく聞け!」ホロフェルネスは大声で言った。
「この者は、バビロニア軍でありながら、仕えるべき主であるネブカドネザル様のものであるべき、この女、ユディトを犯そうとした!」
彼の声はよく響いた、縛り上げられた二人は、もう気絶しそうなようにも見えた。ユディトはふと、その演説を聞いてざわついているバビロニア軍の中にメロダクの姿も見つけた。メロダクは、信じられないものを見る目で二人を見ていた。
「我らは、いわばネブカドネザル様に仕える奴隷……ネブカドネザル様に無礼を働くことなど、あってはならぬ」
「お慈悲を……閣下……」
なおもそううめく彼らの声も聞かず、ホロフェルネスはすらりと剣を鞘から抜いた。良くとがれた銀色の刃面が、真昼の厚い陽光のもとに煌めいた。
「良く見ておけ、これが偉大なる王をないがしろにした不忠義者の末路だ!」
銀の刃が振り下ろされた。
次の瞬間、二つの首がごろんと地面に転がった。そして、勢いよく二つの胴体から大量の血が吹き出て、たちまち地面を赤く濡らした。

「貴様らも覚えておくといい」
ホロフェルネスはいきなり処刑された二人に右往左往するバビロニア軍にもはっきり通る声で言った。
「ネブカドネザル様に少しでも仇なす者が、この俺の刃を逃れられると思うな」

ユディトは目の前で起こったことのあまりのショックに、気絶してしまいそうな思いですらあった。
ホロフェルネスが、人を切り捨てた。それも、自分の味方の兵士を。彼らの助けを求める言葉にちっとも耳を貸さずに、眉一つ動かすことなく、彼は二人を殺したのだ。王、ネブカドネザルへの忠誠のためだけに。

ホロフェルネスはバゴアスに怒鳴って言った。
「死体を片付けろ!けがらわしい反逆者の体だ、とっとと焼いてしまえ!」
そして、彼はバゴアスの返事も聞かず、さっさと自分の天幕に入って行ってしまった。

ユディトは、反射的に体が動いた。「あっ、奥様!」というミルツァの声は聞こえなかった。幸いバビロニア軍の殆どは先ほど切り捨てられた二人の兵士に釘付けで、彼女のことなど注目してもいなかった。
彼女は、ホロフェルネスの天幕に体を滑り込ませた。

「ユディト?」
自分も天幕に入ったばかりのホロフェルネスは、まるで先ほどの彼らを見下すような冷たい目で、ユディトの事も見た。
「ホ、ホロ、フェルネス……」
「和平の話なら、受け付けんぞ。お前らの事を俺は許さん」
ユディトはそれを聞いて、なぜ自分がここに来たのか、良く考えれば自分自身でも良く分からないということが分かった。ただ、反射的に体が動いたのだ。先ほどのようなことを行ったホロフェルネスを目の当たりにし、彼と話さずにはいられないような思いだったのだ。
「なんで、何で、貴方……?」
「……は?」
「貴方の味方、だったんでしょ……?」
「……ふん、いかにも天使と呼ばれるお前らしいな。自分を犯そうとしていた相手に同情か」
彼はユディトを冷笑した。
「そ、そう言うわけじゃなくて……」
「ちょうどいい。この際だからお前にも言おうか。自分の身の事は気をつけろ。ネブカドネザル様にお前を受け渡すとき、不備があるなど論外だ。今日の見せしめは、お前にも向けたつもりさ、俺はな」
「なんで、味方を……」
ユディトは身震いしながら、彼に詰め寄った。犯されそうになったことはショックだったが、そんなものはもう吹き飛んでしまうほど、ホロフェルネスのやったことは彼女の心に深い衝撃を与えたのだ。
「あなたは……とても、周り思いで、優しい人で……私たちを恨んでも、たどり着いた先の人たちには……変わらずに」
「変わらすにいたとでも思ったのか?味方?俺に味方などいない」
ユディトの言葉を、彼はうるさそうにさえぎった。
「俺に居るのは、敬うべき君主、ネブカドネザル様のみだ!」
「あなた……」
ユディトは自分自身が何に打ちのめされたのか、ようやく分かった。記憶の中のかつての恋人、ホロフェルネスと、今の彼のあんまりと言えばあんまりなほどに開けた違いを、目の前で見せつけられたことに対するショックだったのだ。
「さっきからずっと、ネブカドネザル様、ネブカドネザル様……それ以外の事は何も言いやしない」
「当たり前だ。俺にとって、ネブカドネザル様以外などいないも同じだ」
彼はユディトに吐き捨てた。
「あの方だけが、俺を救ってくれた。あの方だけが、一人きり、生きているか死んでいるのかもわからなかった俺を救ってくれたんだ。俺を、見つけてくれたんだ……」
「ホロフェルネス……」
まだ何か言おうとする彼女に、ホロフェルネスはもう一度強く言った。
「もう一度言うぞ、ユディト!出て行け!俺はお前たちを許す気もないし、ネブカドネザル様に賜った命令を捨てるつもりもない!お前たちは滅ぶべき者共だ!俺の母を殺し、ネブカドネザル様を侮辱したお前たちに生き延びるだけの価値があるなど、全くお笑い草だ!……とっとと出て行け!俺はお前の顔など見たくない、その天使面はもううんざりだ!」
「そんな……」
なおも言う彼女に、ホロフェル杜松は一息つくと、言った。
「ユディト、お前たちは俺に言ったな。俺たちは悪魔だと。……アッシリア人は、悪魔だと」
「私、そんなつもりは……」
「いや……いいのさ。正直な話、俺はそのことを今信じたよ。俺の母さんはともかく、俺自身はきっと、悪魔なのだろう」
彼はユディトに顔をグイと近づけると、毒々しい口調で言った。
「だってそうじゃないか?俺はお前という天使を、ここまで憎んでいるのだから!人間ならば天使を愛するものなのだろう!?なら、天使を憎む俺は、間違いなく、悪魔だったんだ!そう言うことだな!ああ、正しいとも、お前らは正しかったよ!そこに関してだけは、お前らの正しさを認めてやろうじゃないか!」
彼はそう怒鳴りたてると、ユディトの肩をつかみ、彼女を強引に天幕の外に追い出した。それきり、何の返事もしなくなってしまった。

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