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クリスマス市のグリューワイン

feat: Jephthah 第二話


イスラエルの長老たちはトブの中心にある家、そう、エフタの家に通された。エフタの命令通り、万が一に備えて、何人もの若い者がエフタの家の周りに取り巻いていた。彼らがエフタを慕う余りだ。もっとも、あんな力のない長老や貴族後時に闇討ちされたと手エフタならばなんとかなるという信頼も、彼らは同時に持ち合わせてはいたが。

「で、何のお話だったか、もう一度聞かせてもらえねえか?おいストルジェ、こいつらに酒」
エフタは彼らを前に、どっかりと椅子に足を組んで座ってそう発言した。
「エフタよ」
ギレアドの長老は震え声で、そんなあからさまに無礼な態度を取る彼に言う。
「我々の町に戻り、我々を指揮し、アンモン人と戦ってくれ」
やはり、何度聞いても同じか、とエフタは彼らを睨みつけながら思う。彼らの顔なんて見たくもない。そんな気持ちは、この年になっても一向に変わらない。今まさにこの時の彼らの表情も、彼をそんな気分にさせた。頼みに来たのは彼らの方だというのに、誰もかれも、屈辱に耐えかねる、今にでもここを逃げ出したい、という表情をしている。なぜ自分たちがエフタに頭を下げ頼み事などせねばならないのかと思っている顔だ。何も変わらない。自分を追い出した時から、相変わらず、ギレアドの住民は何も変わってないのだ。
「興味ねえな。勝手にてめえらで戦ってろよ。イスラエルの神様とやらがお守りになってくださるはずさ」
エフタはそっけなくそう言いかえした。
まず、予想できた言葉に口をふさぐギレアドから来た客たちの前に、ストルジェは「はい、酒」とこれまたそっけなく言って乱暴に人数分のコップを置いた。
「兄さん」
口を開いたのはゼブルだった。
「ギレアドを、故郷を、救いたいと思わないのかい?兄さんにとっても、故郷のはずだ。そして私たちは、ギレアドで生まれ育った家族のはずだ」
「故郷?俺の故郷はトブだ。家族はトブに居る奴ら全員の事だ。お前ぁ誰だ?赤の他人じゃねぇか」
エフタはゼブルにそう言い放った。
一人の若者が自分を睨み返したのをエフタは見つけた。彼はまだ、ハモルの名前を知らなかった。こういう状況において、一番早く義憤に駆られるのは決まって若者だ。血気盛んだからだ。実際、窓から見ている部下たちの中で、そんな彼らの態度にあからさまに腹を立てているのも若いものが中心だ。
なんてことはない。エフタは、彼らが来た時から答えなんて決めていた。彼らのために戦う義理があるはずなんてない。
「俺が戦うのは、トブと、こいつらのためだけだ」エフタは言い切った。
空気がピリピリと張り詰める。お互いのプライドが、こいつにだけは頭を下げてなるものかと言いあっているのだ。そして、お互いが相手こそ本来、自分に無条件で頭を下げてしかるべきなのだだと思っている。エフタ達は、そもそも彼らの問題に関して頼みに来たのだからという理由で。ギレアドの金持ちたちは、エフタ達のような社会からの脱落者と自分たちは全く身分も育ちも違うのだという理由で。

「エフタよ、頼む、帰って来てくれ」ついにギレアドの長老が、その根競べに白旗を上げた。彼は初めて、はっきりと「頼む」という言葉を使ったからだ。
「我々の戦力では限界がある。お前の指導力があれば、我々もアンモンと戦える」
「やなこった」
だが、エフタはこれに対しても、やはり承諾などしなかった。
「てめえらは俺を追い出したじゃねえか。さんざん、俺をのけ者にしたじゃねえか、それが困ったことが起こったからって今頃頼みに来るってかい?ええ、爺さん。てめえみたいに育ちの良いお方様ならよ、この言葉も当然知ってんだろ。……『虫がいい』って言葉だよ!」
そろそろ根競べも長引いてきて、エフタ自身も自分のいら立ちを隠せなくなってきた。彼が折れたのをきっかけに、彼も自分に感情的になることを許して、こうどなりつけた。そもそも、承諾する気などなかったのだから。それに、彼らに対して紳士的であろうとも思わなかった。彼らの心情と、彼らから見た自分の姿を気遣うくらいなら、自らの誇りを、あの日傷つけられた少年の日の自分を必死で庇う方が、自分にとってずっと価値のあることだとエフタは思っていた。
彼らから受けた屈辱を忘れたことなどない。一日たりとも。トブに生きるのは、皆、そう言う人間たちだ。
エフタはそれだけ言って、椅子の足を組み直し彼らを見下ろした。窓から見ている自分の部下たちも、そろそろしびれを切らしかかっているのが彼にはわかった。
どうせ彼らにとっては力づくで屈服させるなんて真似も到底無理だ。エフタは彼らを睨みつけて言った。
「黙ってるな。もう話すことはねえのか。じゃあ足もとが明るいうちに帰んな。もう二度と俺らの町に顔出すんじゃねえ」
その言葉でいよいよ我慢の限界が訪れたのだろう、エフタの部下たちも「そうだそうだ!」「無事でいられるうちにとっとと帰れ!」と家の外から言い出した。それだけではない。「そうだよ、あたしらをなめんじゃねえよ!」という声が台所からすら聞こえたのだ。明らかにストルジェのものだった。
「……なんて、下種な……」とうめき声が聞こえた。先ほど、真っ先に自分を睨みつけた若者、ハモルの言葉だというのがエフタには分かった。彼は、ハモルのその言葉は全く無視した。こんな相手には突っかかりたい気もしなかった。エフタは、彼らが立ち上がるまで待付きでいた。

「……いや、違うんだ。聞いてくれ」
だが、自体はエフタの予想通りにはいかなかった。ゼブルが、口を開いたからだ。
「違うだぁ?何が違うんだ」
「今さらになって来た、と……兄さんは言うな。そんな言い方市内でくれ。今だから来たんだ。私達だって……別に、ただで頼みに来たのでもない。……代償を、持ってきた。ああ!何も言わずに聞いてくれよ、頼むから。別に私たちは、兄さんたちがやったことをすべて法的に許すとか、そんなものを代償に持ってきたんじゃないんだ。というのも、どうせ私たちがそれをしなくても、兄さんたちは実質、自分の力でそれらを成し遂げてしまっているからね……違うんだ。もっと、兄さんたちじゃ確実に手に入れられない報酬を、私たちは持って来たつもりさ」
「俺たちじゃ得られない報酬だぁ?」
その言葉に、さすがにエフタも反応する。外の声も、いったん静かになった。ストルジェも、怪訝そうに台所から顔だけ出して反応していた。
ゼブルの声が今まで以上震えてている。これから先の事を云うのは相当、彼のプライドが許さないことなのだ折るというのが推し量られた。しかし、彼はとうとう自分自身のプライドを押さえつけて言った。その言葉に、思わず、エフタもそりゃあ声も震える、と納得した。
「……もしも、アンモン人と戦ってもらえるのなら……私たちは、兄さんを……ギレアドの子エフタを、ギレアド全住民の頭に……イスラエルの士師にするつもりだ」


「……なんだって?」
その言葉を聞いて、さすがにエフタも言葉が止まった。彼の部下もだ。
「……てえと、なんだ?俺がお前らのところに帰りゃ、俺をお前ら全員の頭にするっていうのか?」
「……そうだ。どうだ?兄さん。私達が出せる、最大限の謝礼ではあるが……」
エフタは目を瞬かせた。さすがに、これはゼブルや長老たちは屈辱を感じても当然だ。彼らの対する憎しみをもってして、当のエフタ自身もそう思えるのだから。
ゼブルは懐から、一枚の文書を取り出した。そこには文字が書き連ねてあった。
「ここに、すでに証文はある。兄さんが私たちの望み通りギレアドに帰ってくてくれれば、兄さんを頭に据えるとね。すでに、ここにいる私たちは了承し、サインもしてある。……私たちは、本気だ」
「正気かよ……」
エフタは戸惑い、ゼブル達は屈辱隠せないまま、それでも話は進んだ。
「……私たちとて、虫のいいことをしているという自覚はある。……だが、私達が頼める中で、一番頼れそうなのが兄さんであるのも事実なんだ。私達の軍隊は、とてもアンモン人にはかなわないから……だから、これが私たちが見せられる、最大の誠意だ」
ゼブルは証文をエフタの前に広げると、がばりと頭を下げた。
「兄さん、ギレアドの家を代表して、私があなたに今までしてきたことを謝るよ。……本当に、すま……なかった!私たちがやったのは、家族の、する、ことではなかった……貴方が起こるのは当然だ!だが、私たちの気持ちも汲んでくれ!イスラエルを守りたいんだ!力を貸してくれ!」
ゼブルは震え、途切れ途切れに、自分のプライドを必死で押し殺して、そう言っているのがわかった。エフタはそれを見て、しばらく黙りこんでいた。
「……エフタさん、騙されるわけないとは思ってますけど、騙されちゃなりませんよ」
気が付くと、窓の外からそんな声が聞こえた。エフタが数ある部下の中でも最も信頼をおいている男、アブドンのものだった。
アブドンは窓から身を乗り出して、彼らの方を覗き込んでいた。
「そんな奴らの言うことが信じられますかい!どうせ一連の事が終わりゃ、何もかも反故にするに決まってまさ。……そいつらは、そう言うやつだ!」
「違う!」エフタの言葉も聞かずに、ゼブルがあわてて反論した。
「お前は兄さんの部下か?なら、何故兄さんが出世しようとするのを邪魔するんだ!それでよく、兄さんに親切な言葉がいえるな!」
「は!あんたにエフタさんを語られたかあねぇな。エフタさんはあんたの事を話してたぜ、エフタさんの事を人間とも思ってなかったってよ!そんな奴がその軽い頭一つや二つ下げたからなんだってんだ、そんなんではいそうですかと信用するくらいの奴ぁ、このトブに住んじゃいねえよ!」
アブドンの言葉のほうが、どちらかと言えば的を得ているかのように思えた。ゼブルがエフタの事を考える、などにわかには信じがたいし、さっきの謝罪もエフタの機嫌を取るために必死で言っていることは明らかだ。そもそも、このような、エフタの身になってすれば当然の謝罪にすら「必死」にならなければいけないほど、ゼブルはエフタを今なお見下しているのだ。ゼブルの言葉は、明らかにエフタを自分の方へ誘導するため、邪魔な意見をかき消すため、それだけのものでしかない。そして、それをアブドンもよく分かっていたのだ。
ゼブルや長老たちが何か言おうとした時、また窓の外が騒がしくなった。
「そうだ、てめえら!」
「信じられるか、んな約束!」
「エフタさんはてめえらの都合のいい道具じゃねえぞ!」
声はどんどんエスカレートしていった。いつの間にか、トブのめぼしいものがほとんどエフタの家の前に集まってきてしまったかのようだった。
エフタは無言のままだったが、それでも、彼の心は決まっていた。こんな約束、突っ返してやる。そう思った。ひとまず、彼らが若いものを好きなだけ怒鳴らせておこうと思っていた、その時だった。

「てめえらギャーギャーうるせえぞ!寝てもらんねぇじゃねえか!」
そう、その場を引き裂くような、その場全体を圧倒する大声で怒鳴り散らしながら、客間に殴り込んできた人物がいた。イフィスだった。しかも、もう日が明けてからそうとう経っているのにまだ寝てたらしく、神は輪をかけてぼさぼさで、肌着一枚だった。

イフィスの一声と彼女の登場で、その場は水を討ったように静かになった。イフィス跳ね起きの不機嫌そうな眼をこすって、見慣れない客をじろじろ見つめた。
「なんだ?誰だてめえら」
彼女はそう言ったが、その台詞はギレアドの金持ちたちこそ言いたい言葉であったろう。彼らにとって、女性は慎み深くあって当然だ。それなのに、今、彼らの目の前に堂々と男のような大声を上げて現れ、長い髪をベールで覆い隠さずもせずに、そして……ここが彼らにとって一番重要なことで立たが、大勢の男の前でその瑞々しい若い体を肌着一枚にしか包んでない状態で、年頃の、態度は豪快でも美しい若い娘が現れたのだから。こんなことは女性も男性と同じく品とは無縁なトブでは当たり前だったが、彼らがそれを知るはずもない。
彼らはあきれを通り越し、完全に目のやり場に困っているようだった、一番若いハモルなどは、女性の体を見たところどころか、女性と触れ合ったこともおそらくないのだろう。顔を真っ赤にして怯えながら、それでもイフィスから目を離せないようでいた。
「あ?てめえ、じろじろ見んじゃねえよ」
イフィスはそんなハモルをじろりと睨みつけて大股で歩く。
「お、おい、てめえら!俺の娘だぞ、変な目で見んじゃねえ!」
エフタ自身もあわてて彼らにそう釘を刺したあたりでイフィスは窓辺にたどりつき、アブドンに聞いた。
「アブドン、何が起こってんだ?話せ」
「は……はい、お嬢様」
アブドンも戸惑いながら、起こったことを話した、彼らはギレアドから着て、エフタに戦乗合をしたということと、戦の代償にエフタをギレアドの長に据えるということ、そして今、自分たちがそれに反対していたということ。
一連の事を聞き終えると、イフィスは「ふーん」とだけ言うと、父親に聞いた。
「父ちゃん」
「おう、なんだ?」
自分の隣にどさりと座ってきた娘に、エフタはそう言う。
「受けてもいいんじゃねえの?こいつらが全員父ちゃんの言うこと聞くようになるんだろ?悪い話じゃないって、あたいは思うんだけどな」
この場で初めて出る意見を、イフィスはこともなげに言ってのけた。

「あのう、お嬢様?」
窓の外からアブドンが声をかける。イフィスのおかげでギレアドの長老たちが冷静でいられないのをいいことに、彼らは落ち着いて話し合った。

「そりゃ、エフタさんが偉くなるに越したこたないですよ。こいつらの上に立つってのだってスカッとする話でさ。でも肝心なことがあります。こいつらはですね、きっと約束を反故にしますよ」
「あ?てめえら、そんくらいの事であんだけギャアギャア騒いでたのかよ」
イフィスはさらっと言ってのけた。
「んなもん、こいつらが約束を反故にできない状況にしちまえばいいだけの話だろ?」
「と、おっしゃいますと」
「簡単さ」
イフィスは立ち上がると、ギレアドの長老の前に仁王立ちになった。長老は驚いて目をそらそうとするが、イフィスは彼の禿げあがった頭をつかみ、強引に自分の方を向かせる。
「おい、爺さん。答えな。お前らにとって、一番大切なもんってなんだ?」
「……は?」
「一番大切なもん、だよ」
詰め寄る彼女に、彼は恐る恐る答える。
「それはもちろん……イスラエルの神だ」
「だとよ、父ちゃん」
そう言ってボサボサの髪をたなびかせながら自分の方を向いたイフィスを見て、エフタにも合点がいった。
「イフィス。……お前、本当に俺の自慢の娘だなあ」
彼はそう言って笑うと再び自分の隣にどっかり座ったイフィスの背中をバンと叩いて、そして長老たちに言った。
「お前ら、そんなに神様のことが大事か?なら、誓えるか?俺がお前らの味方になってアンモン人と戦えば、この山賊の頭である俺をギレアドの頭にするってことを、お前らが最も大切にしている神様にかけて、誓えるだろうな?」
エフタのその言葉に、長老とゼブルは一瞬うっと言葉を詰まらせる。神にかけて誓う、というのは神を敬虔に信じる彼らにとって、非常に重要なことだった。だがエフタは彼らに「本当に約束する気があるんなら、そんくらい簡単に言えんだろ?」と詰め寄った。
「……もちろんだ」
そして、ゼブルはそう答えた。
「……神が、我々の一問一答の証人だ。私達は間違いなく、そのようにするよ。兄さん」
「おっしゃ。その言葉、父ちゃんとあたいとアブドンと、トブ中の奴らが聞いたからな」イフィスはそう言って笑った。
「……で、これでどうする?父ちゃん」
「ふん……断る気でいたけどよ」
エフタは急に、豪快に笑い出した。
「可愛い娘におぜん立てもしてもらったことだし、ちっと気が変わったな!てめえらの上に立って見返してやんのも、悪かねえ!」
「ほ、本当か、兄さん!」
「エフタさん!?」
その言葉に、その場がどよめいたのは言うまでもない。
「ただし!もうちっと条件を付けてもらおうじゃねえか。ひとつ、俺だけじゃねえ、このトブにいる俺の部下ども全員の権利も回復して、俺がお前らの頭になった際には全員俺の部下として抱え込むのは許可してもらおう!」
「そ、それは……」
「いやなら降りるぜ?さっきも言ったが、俺に問っちゃお前よりこいつらのほうが、よっぽど俺の家族でな」
エフタさん!とアブドンの声が聞こえる。アブドンだけじゃなく、何人分も聞こえた。彼らは、嬉しそうだった。それを聞いて、エフタも嬉しくなった。
「……の、飲もう」ゼブルは言った。
「兄さんの部下たちも、兄さんの率いる戦力で、我々が求めている強さには直結しているわけだしね……」
「よし、じゃあ、それとっとと証文の端っこにでも書いとけ。で、二つ目だ」
彼はエフタを見上げるゼブルに言った。
「アンモン人と戦うだけでそれが来る、ってのが気に食わん。俺はお前らの上に立つのはまんざらでもねえが、お前らからの施しばっかりはまっぴらごめんよ。俺らは盗賊だが、乞食じゃねえ。お前らは俺がギレアドに帰るだけでそれをよこす、って言ったが、その条件……アンモンの戦で俺が勝ったら、に書き換えとけ」
「なんだって!?」
その言葉に、ゼブルが驚いた。エフタ自身が、どちらかと言えばエフタの損になることを言ったのだから無理はない。
「それで異論はねえな?お前たち!」
だが、エフタは窓の外に向かってそう叫ぶ。そして帰ってきたのは、スk添いのためらいの色も見えない「もちろんでさ!」の合唱だった。
「さっすがエフタさん、よく言ってくれました!」「そうだそうだ、施しなんざいらねえよ!」
イフィスも満足げににっこり笑っている。
ギレアドから着た彼らは、全く状況が呑み込めていなさそうだった。トブの住民に、いっそ不気味さすら覚えていた。彼らは、トブがこういう土地であるということをわかっていなかったのだ。
ただ、ゼブルは言われるままに証文の内容をさらさらとその場で書き換えた。「終わったよ」と彼が言うと、エフタはそれをひったくり、自分の懐に収めた。

「てめえらの今の陣地は?」
そしてしまい終わるや、彼は言った。
「……ミツパだ」
「聞いたか、野郎ども!」エフタは叫ぶ。「ミツパに向かうぞ、全員、準備だ!」
「はい、エフタさん!」
窓の外の彼らは散り散りになって、自分たちの家に急いで帰っていった、そしてエフタも「ストルジェ!」という。
「まかしときな、昼までに終わらせてやるよ。イフィス!いつまでも下着一丁でいないで、お前も手伝いな!」
「分かったよ母ちゃん」
イフィスは慌てて立ち上がってストルジェの後をついていった。「……エフタ」長老が、恐る恐る聞いた。
「ま、まさか……もうすぐ、行く気かね?故郷の町にも帰らずに?」
「長老さんよ、事は一刻を争うんだろ?」エフタは言う。「時間は一瞬でも惜しいんだ」
そう言うエフタの顔は、すでに、指揮官のそれになっている。ゼブルは不思議に思った。それは彼にとって、初めて見る兄の表情だった。彼は、迫害される兄の表情しか見たことがなかったのだ。堂々と生きるエフタの姿は、ゼブルにとってたまらなく違和感のあるものだった。

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