クリスマス市のグリューワイン

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feat: Mary and Joseph 第九話

パンテラはその後、時々神殿にやってくるようになった。彼は良い給金をもらっている身のようで、たいてい市場で買ってくる菓子や高すぎない装飾品を携えてマリアに会いにやって来た。
彼は祭司たちからの評判も意外と良かった。彼がローマ人であり、神殿の祭司には新ローマ的なサドカイ派が多いという理由も勿論なくはないだろうが、それを差し置いてもパンテラは素直に好青年と呼べる品が良く親しみやすい人物だった。
ローマにとってイスラエルは属国にすぎないと最初からユダヤ人を見下してかかるものも少なくない中、パンテラは全く威張り散らしたところがなく友好的にふるまっていた。だからパンテラがいるときだろうがいない時だろうが、彼の評判はとてもよかった。
中でもやはり、マリアの仲間たちからの評判は段違いだった。
彼が彼女たちの暮らす空間に入ってくることなど勿論ないが、それでも彼女達は神殿を通りかかる彼を仕事中に視界の端に入れるだけで色めき立ったものだ。あれほど華やかな男性が神殿に度々現れることなど、まずなかったのだから。

「いいよね、マリアは」
同年代の少女の一人、ハダーサがある日そう言った。全く関係ないことについて話されていた中だったので、マリアは最初何の事に関してかわからず「なにが?」と言った。
「パンテラさんのこと!マリアだけ、パンテラさんと仲良くして、パンテラさんもマリアに会いにくるし、本当、羨ましい」
「あ、私もそう思う」
「マリア、いいなー」
口々に言葉が出てきて、マリアもどう対応すればいいのか良く分からなくなってきた。急に、自分がパンテラと顔見知りの中であることが恥ずかしく思えてきて、普段は陽気で口数も多い彼女も閉口した。仲間の少女たちに、一切の悪意も嫉妬と呼べるほどの感情もなく、ただ単に軽い羨み程度のものであることは承知の上だったのだが、それでも彼女にとっては若干気恥ずかしさがあった。
ツェルヤがその空気を察し「それくらいにしてお上げ」と静止の言葉を述べてくれたのは、マリアにとって救いだった。彼女らも、普段なら明るさを失わないまま何とか返してくるマリアがだんまりになってしまったことに、若干の気まずさを覚え始めていたのだろう。すぐに黙った。特に発端であるハダーサは「ごめんね」と言い、マリアはいつも通り笑って「いいよ、気にしてないから」と返した。
「マリア、パンテラさんはいいお方?」ツェルヤが質問する。
「あ、はい!すっごくいい人です!」
「ふふ、そう」彼女の優しい微笑みは、マリアを安心させた。「それなら、何よりよ。良い方と知り合うことほど、素晴らしいことはないわ」

ちょうどその次の日の午前中、パンテラは神殿に来た。そして、井戸端で洗濯をしているマリアと出くわした。
「こんにちは」とあいさつを交わす彼にマリアも挨拶を返す。マリアは洗濯をする手は休めないまま、彼と世間話を始めた。そしてその中で、先日仲間の少女たちが言ったことも語った。
「私と知り合いなことが、羨ましがられるほどの事かな」パンテラは端正な顔を少しだけ歪めて、宙を見つめながらそう言う。そうですよ、とマリアが言い返す前に、パンテラは言った。
「でもそんなことなら、遠慮なしに会いに来てくれていいのに。私だって、そう言ってくださるお嬢さん達とは是非お近づきになりたいものだが」
「ほんとですか!?」と、マリア。
「もちろんだとも」
彼は屈託なく笑った。
「あ、でも、あの……」
「どうしたね」
マリアは言い淀んだ。自分たちは男を品定めするが、それは人目を隠れての事だ。自分たちは、本来ならば男に興味など示さず、清楚で純朴であることを望まれているのだ。(不思議なことにそれは「求婚してくる男の愛を拒み続けろ」という意味ではなく、むしろそうすると生意気な女と非難を浴びることについては、彼女たちの間でも理不尽だともっぱら言われていたことだった)。いくら美男子のパンテラと近づきになりたいという思いがあったとしても、それを堂々と行っては万が一祭司に見つかるとどんな大目玉を食らうかと考えればたまったものではない。かといって、この複雑な感情をパンテラにそのまま告げるのもはばかられた。
だがパンテラは察しのいい男だった。彼はマリアの懸念事項を聞いてもいないのに「私が皆に会いたいと望んでいるんだ」と言った。「厄介なことになったら、みんなこの私の責任にしてくれて構わないよ」
パンテラに責任を負わせる罪悪感を軽減させるような親しみやすい笑顔で、彼はそう言った。マリアはそれに喜んだ。確かにそれなら大義名分ができる。「男に忠実たれ」とはよく言われていることなのだし、少なくとも手放しで非難されるいわれはない、はずだ。
「いつになったら大丈夫かな?」
「あの、今日の午後の祈りが終わったころなら、皆暇ですが……」
「じゃあ、さっそく来よう」パンテラは笑顔で言った。「楽しみにしているよ」


マリアは昼過ぎの作業の際、そのことを言った。皆最初のうちは驚いたが、「で……誰が来る?」とマリアが言うなり、皆二つ返事で手を挙げた。それはそうだろう。マリアだって、他の少女がパンテラと仲良くなり、なおかつこのような事態になったのならばすぐに手を上げる自分がいるだろうとは簡単に思えた。ツェルヤまで、穏やかに笑いながら小さく手を挙げていたのだ。
「じゃあ、午後の祈りが終わったら、皆井戸端にね!」マリアは言った。


西に日が傾き始めるころ、確かにパンテラはそこに来た。そしてその場に集まる十数人の少女たちを見て、目を丸くした。
「やあ……まさか、こんなにも素敵なお嬢さんたちが待っていてくれたとは」パンテラの整った顔がにこりと明るくなる。
「初めまして。ローマ弓兵第一コホルス隊長ティベリウス・ユリウス・アブデス・パンテラだ」彼はそう纏めて自己紹介したのちに、その場に居た少女たちと順繰りに握手し、彼女たちの名前を聞いて回った。彼は少女たちに自己紹介されるたびににこやかに笑い、彼女たちに対してそれぞれ賛辞の言葉を述べた。その友好的な態度は自分が最初にパンテラにあった時、彼がとってくれた態度と全く変わらない物であることをマリアは悟った。そして、それに何とも言えない、安堵のような気持ちを覚えた。
彼が最後に握手したのはツェルヤだった。さすがの彼も、ツェルヤに対しては一瞬ぱちりと目を見張った。「これはこれは」彼は言う。
「薫り高い花の群れにあっても、一層鮮やかな薔薇に相対したかのようだ」
「それはどうも。光栄に思いますわ、パンテラ将軍」
ツェルヤは品よくパンテラに挨拶する。其のまま彼女たちは、パンテラを囲んで世間話を始めた。パンテラは彼女たちの話を面白く聞いてくれて、つい話も弾んだ。
パンテラの隣に座ったのはツェルヤだった。マリアも、特に嫉妬のような気持ちはなかった。むしろ美女美男同士よく似合っている。ツェルヤに恋人さえいなければ、よっぽどこの二人の間に恋が芽生えなどしないかと想像してしまうところだ。
「イスラエルの、それも神殿の外にもろくに出ない世間知らずの私たちの話が、そんなに面白くって?」ツェルヤは嬉しそうに笑って言う。
「もちろんだよ、ツェルヤさん」パンテラもこともなげに言い返した。「国を沢山まわっていれば、世間を知っているということになるものかい。君たちは神殿の外に出なくても、実によく神殿の人々を観察しているじゃないか。そんな話が面白くてなくて、なんだというんだろう。ましてや、こんな素敵なお嬢さんたちが話してくれる話でもあるというのに。」
「まあ……」ツェルヤは口を押えてくすくすと笑う。「でも、貴方のお国の話もうかがいたいですわ。素敵なあなた様のお口から出る言葉なら、特にね」
「あ、私たちも知りたい!」
「ローマの話、聞かせてください!」
「そうか。まず、何から話そうかな……」
パンテラが考え込んでいる時だった。地面を踏む、軽い足音が聞こえた。
「おやおや、皆お揃いで?話題のパンテラ将軍まで!」
その声とともに現れたのは、神学生カイアファだった。

「カイアファ!」
「おいおいツェルヤ、そんなに彼とべったりくっつかないでくれよ。妬けるじゃないか。結婚もしてないうちから、浮気はなしだぜ」
「ウフフ、ごめんなさい」ツェルヤは恋人であり、婚約者でもあるカイアファの言葉を軽くあしらうように笑い飛ばし、彼女とパンテラの間に少しの空間を開けた。
「もしよかったら、貴方がここに座る?」
「あはは、面白いね。無論のこと、喜んで」
もっとも、カイアファもカイアファで本気で嫉妬していた様子もない。彼は優雅に少女たちの中を通り過ぎ、パンテラの隣に腰かけた。パンテラも、少女たちにしていたのと全く同じような態度で、目の前にやってきた少年に挨拶する。カイアファも挨拶した。
「あなたを見たことはありますが、話をするのはいつもご年配の方々ばかりでしたから、是非僕もあなたと話をしてみたいと思っていたんです。パンテラ将軍」
彼は少女たちにも負けないほどうきうきとパンテラに話しかけた。
「ずいぶんもてるじゃありませんか。僕とも友達になってくださいよ。僕はローマに、とても興味があるんです」
「ああ、勿論さ、カイアファ君。これからよろしく」
その様子をじっと見て、マリアは考える。パンテラはもてるにはもてるが、世の色男がされがちなように男に嫉妬されることもなかなかない。事実ヨセフだって彼には懐いていた。
美男子と言うことを差し置いても、彼のこういうところは素直に尊敬がおける、と彼女は思った。
パンテラは要望に応えて、ローマの話をした。ローマの剣闘士の話、最近の流行の芝居の話、政治の話…言われるまま、彼は何でも語ってくれた。

いい具合に時間が過ぎ、少女たちもそろそろ持ち場に戻らなくてはならなくなった。パンテラと歩いていても何ら責められる謂れのないカイアファが率先して「門までお送りしましょうか、将軍」と言った。
「是非頼むよ。お嬢さん方、またね」
彼が手を振りながらそう言い、少女たちも声をそろえて返答した。「無事お送りしてね」とツェルヤは言い、勿論さ、また今度二人で会おうとカイアファは返す。
彼らを見ていると、マリアは本当に不思議な、憧れにもよく似た気持ちになる。恋人と呼べるような存在に、彼女も憧れを持っていた。自分もツェルヤのようになりたい。
彼女達は引き上げていき、カイアファとパンテラは門に向かった。しかし、その時だった。ちょうど、ヨアザルが通りすがった。
彼の眼には、引き上げる少女たちもきっちりと映っていた。彼女らがパンテラと会っていたことは容易に想像できた。
「おや、ヨアザルさん」
「祭司殿。ご機嫌麗しく」
二人は挨拶する。だが、ヨアザルは「何をしていた?」と言った。
「ああ、私が……」
「僕の友人パンテラ将軍との世間話に、僕の愛する婚約者を連れました。そうしたら、彼女を良く慕う彼女の後輩たちもついてきました。何か、おかしいところでも?」
カイアファはパンテラの発言を遮って言う。にんまりと笑って言う彼に、ヨアザルは「……特に、何もない。なぜ、私が君たちを責めるつもりでいたかのように話すのかね。不愉快だ」と返した。
「それはそれは。眉間にお皺を寄せていられたのでてっきりそう思ったまでです。ご無礼をお許しください。さ、将軍、暗くなるまでに帰りましょう」
そう言って彼は、パンテラ将軍を連れてスタスタと歩いていってしまった。

「お嬢さんたちは、難儀なものだね」パンテラが語る。「あんなに明るい子たちなのに、コソコソとしていて」
「頭の固い爺さん方は、彼女たちに男、色などに見向きもしない清らかな乙女であることを望んでいるんですよ」カイアファは言う。「まあ、特にモーセが語らない勝手な口伝律法まで信じているようなファリサイ派はそう言うところも顕著で……」
「難儀なものだ。我々もそうだが、男性は、いくつになって女をえり好みするのに……」
「見向きもするな、と言ったって、いざ自分が女に求愛して相手にされないと生意気だと怒るのも、その手合いですしね」カイアファは笑った。
「結局、そんな言葉詭弁にすぎないんですよ。あの言葉が示しているのは、つまるところ『ほかの男には見向きもせずに、自分にだけは無条件で体と心を差し出せ。自分が気がねなく楽しむために他の男には触れもしない清らかな存在でいろ』と言う欲望にすぎないんです」
彼のあけすけな言葉にパンテラは苦笑する。カイアファはにやにや笑って「そうじゃありませんか?」と告げた。
「少女が美男子に心ときめかすことを嫌う人々だって、その少女が自分の見た目を好いてくれたら、果たしてそれを嫌いますかね?……ほぼ、ないことだと思いますよ。そりゃあさすがに行動に及んでしまうのは様々な観点から問題がありますがね、貞操とか、病気とか。でも誰かにときめくことくらい、何の問題があるんでしょうね」
カイアファは悠々とそう語る。「君のあの美しい婚約者が、君ではない他の男に惚れてもかい?」彼は言う。
「そうしたら何度でも僕に惚れなおさせるまでですよ。それすらできない男になる気はありませんので」
間髪をいれず自信たっぷりに返してきた少年の顔を見て、しみじみと、パンテラは言った。
「素晴らしいことだね」


夕食の後片付けをしていると、マリアの所にヨアザルがやってきた。
「マリア。パンテラ将軍を知っているのかね」
ヨアザルはいつになく恐ろしい表情をしていた。それはまるで、自分がヨセフと仲良くしているのをとがめる表情を、さらに強くしたようなものだった。
ヨセフと違って、などと言うのは心苦しいが、誰からも評判のいいパンテラなのに、なぜ……と思いながらマリアは「はい、知りは……」と返す。
「あんな男と話すものではない。美しい男だからとそうするなどそんなことは、売春婦がすることだぞ」
だが、ヨアザルは彼女のそんな予想も打ち砕いてマリアを叱ってきた。彼女がおどおどしていると、彼は「無論、そのようなことはしないと信じているがな」と返してくる。
「ありがとうございます……分かりました」
マリアがそう返せば、ヨアザルも満足したのか、帰っていく。マリアは困った。なぜ、ヨアザルはああも、マリアが親しくしたい相手を嫌うのだろう。
新ローマのサドカイ派であるカイアファはともかく、ヨアザルはファリサイ派だ。ファリサイ派は、イスラエルを押さえつける異教国であるローマを嫌っている。だからパンテラが嫌いなんだ。きっと、そうだとマリアは納得しようとしたが、納得したところでそれでも心は晴れないままだった。


その夜の事だった。パンテラはイスラエルに赴任して初めて、ヘロデ大王の晩餐会に呼ばれた。
目を見張るほど豪奢な宮殿、ローマの貴族の晩餐にも匹敵するほど贅沢な食事に見世物。パンテラはそれに、素直に圧倒された。反面、それがどこか空虚なものにも見えていた。まるで、張りぼての美しさを見ているかのようだ。
彼の眼はふと、一人の少年に吸い込まれた。空虚な、張りぼての美しさの中にあって、彼と、彼の隣にいる少女の美しさは、最上級の水晶のように透き通った純粋な美である、と間違いなく感じた。
その少年、ヘロデ・アンティパス王子は、長髪に覆われていない片目、十前後の少年とは思えないほど艶めかしい目つきで、パンテラを射抜いた。かと思うと、少女、ヘロディアを彼女のもう一人の隣人であるフィリッポス王子に任せて立ち上がり、勝手にパンテラの隣に寄りかかってきた。
「パンテラ将軍だね。うわさは聞いているよ」
「光栄です。ええと……」
「王子ヘロデ・アンティパスさ」彼は笑う。そして、舐めるような目つきでパンテラを見つめた。パンテラはそれに、いささかばかりの不気味さを覚えた。
「美しい人だ。あなたほどきれいな男性は、なかなか見ないね」
「おほめにあずかり光栄です。王子」
パンテラがそう返すと、アンティパスは不意に、彼の体を撫でてきた。
「ローマはそっちの方も盛んなんだってね。イスラエルは神の律法が、男と男の行為は禁止しているんだ」アンティパスは透き通るような高い声で、パンテラの耳元に囁く。
「僕もぜひ、本場の味を知りたいな」
幼い子供の戯言とするには、到底不可能な文句だった。パンテラはそっと彼の手を抑えて戻し、「王子殿下、お身体は大切にするものです」と返した。
しかしそう言っても、アンティパスは薄い笑いを浮かべたままじっとパンテラの方を見つめる。気まずく思って、彼は無礼とは知りながら、宴会の席を中座した。

ヘロデ大王の宮殿の中庭も、宴会場と同じようなものだった。豪奢で美しいが、その美しさには、どこかむなしさがあった。
冷たい空気を吸い込み、パンテラは月を見上げた。ローマに出ているのと、同じ月だった。
だが、ほどなくして月の他にもパンテラの目を射止める存在があった。彼は中庭の真ん中に立ち、星の光を浴びていた。
彼も、アンティパスと同じだった。空虚な美しさの中で、唯一しっかりと実態を持ち、美に光り輝いていた。黄金を細く伸ばしたような色のしなやかな髪、星明かりを受けて輝く白い肌から、彼がイスラエル人でないことは簡単に見て取れた。黒いターバンと衣装を飾る黄金の装飾品は、ヘロデ大王を飾る彼らとは全く違う輝き方をしていた。
彼の金のまつ毛に縁どられた深い青色の目は、彼が中庭に来た時からずっとパンテラの方を見つめていた。そして彼は静かに、威厳を持って、パンテラに語りかけた。
「やあ、こんばんは」
パンテラがしどろもどろになりながら挨拶すると、彼は静かに笑いながら言った。からかうような内容であったにもかかわらず、彼の笑いはいっそ、神秘的ですらあった。
「何があって、宴会を?その美貌だ、さしずめアンティパス王子に誘惑でもされたかい」
「なっ……」
パンテラが言いよどむと、彼は満足そうに、クスクスと笑って言った。
「あの子は、実に楽しくやっているようだ。良かったよ」
「なんだって?」
「あの子に色を教えたのはこの私だよ」
彼は初対面のパンテラにこともなげにそう言う。
パンテラはどういっていいのか分かりかねるところもあったが、「あんな小さい子に……」とひとまず怒ろうとした。だが、彼はパンテラを遮るように言う。
「私たちに何ができる物かね。私達は人間でしかない。この世を救うお方ではない」
彼の星をかたどった装飾のローブから、パンテラはようやく思い出した。この男は確か、今回の晩餐の招待客になっていた外国の占星術師の一団にいた男だ。諸国を周遊していて、定期的にイスラエルにも顔を出すらしい。この金髪の青年の名は、確か、メルキオール。
彼はまるで彼自身が地上に振ってきた星屑であるかのように優雅に中庭を歩き回りながら語った。
「救い主様は、いつ現れるのだろうか……哀れだ。この宮も、この国も、全ては、実に哀れだ」
「……失礼する」
これ以上ここに居たら気がおかしくなってしまいそうだ、とパンテラは判断し、彼は宴会場に戻った。アンティパスはとっくにヘロディアの側に戻っていた。
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