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クリスマス市のグリューワイン

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feat: Solomon 第六十話


「なるほど。では、ひとまず私と共に現地まで行くか?」
エドム王家の生き残り、ハダドがエジプトに居ないという情報を聞いたときの、ソロモンの第一声がそれだった。
「へ、陛下、よろしいので?」
とはいえ今はシバ王国との交渉などの仕事が目白押しであまり王自身はすぐには動けないのではないか、と思っていた分、ベナヤは驚いた。せいぜい派遣される程度だと思っていた。エツヨン・ゲベル、およびエイラットは地中海ではなく、紅海のアカバ湾に面した港町で、エルサレムからは離れている。
「いや、実はだな、そのシバの女王陛下とともに、明日にでもエイラットに行くのだ」
「えっ?」
「私がオフィル金山の権益を貰い受けたことは知っているだろう?」
その話は確かに、前日された。確か、シバ王国のレバノン方面への交易の補助と引き換えの話だった。
「そのオフィルだが、我々の航海技術では行くのが難しいかもしれんのでな。ヒラム王の船団の技術を引き続き借りたいのだ。と、言う手紙を送ったら、ちょうど自分の方も船団を見に行く用事があるからエイラットで会って打ち合わせをしないかという返事が返ってきたのだ。で、今このような状況だろう?レバノンの貿易に関して、ビルキス女王も彼と話したいことが沢山あるだろうしと思って同行しませんかと誘ったら、彼女の方も二つ返事で了承してな。と言うわけで、急きょ話し合いが決まったのだ。お前の部下もつれて同行し、ハダドに関する情報を探ればよい。我々の護衛にもなろう」
「は、はあ」ベナヤは急な話に少々戸惑っていた。まあ、でも幸いなことではある。いざということが起こっても、すぐに王の判断を仰げるのは素直に安心できる。
「それでは、さっそく精鋭を整えます。出発は明日ですね」
「うむ」ソロモンはそう返した。

幸いなことにエイラットへの道中は何事もなかった。イスラエルも、言葉の通じないシバの護衛兵もお互い双方の君主を守りながら、無事エイラットにある迎賓館にたどりついた。
迎賓館では、一足早くヒラム王が招かれていた。
「お久しぶりですな、ソロモン王!」
久しぶりに会った彼は、白髪が少し増えていたが、それ以外は至って元気そうであった。ティルスの貿易も、ここの所非常に好調と聞く。
「お久しぶりです、ヒラム王」ソロモンは丁寧に挨拶した。「そして、ご紹介いたします。こちらが、お話ししておりましたシバの女王、ビルキス様です」
「ビルキスです。初めまして。ご機嫌麗しゅうございますわ。ティルス王ヒラム様」
ビルキスは片手をヒラムの方にまっすぐに伸ばす。ヒラムもその手をしっかりと握った。
「おお、初めまして!お噂はかねがね伺っております。いやあ、お綺麗な女性だとは聞いておりましたが、想像以上ですなぁ。それにお美しいだけでなく、ただ住まいからも聡明さがあふれ出ているかのようだ」
「あら、嫌ですわ」ビルキスは軽く笑って見せた。
「それにしてもソロモン王、オフィルの黄金を一手に得られるとは羨ましい。あれは全オリエントの至宝と言ってもいい代物ですぞ」
「ええ……全てこの女王陛下のご好意のおかげですよ」ソロモンも笑う。
「やあ、いろいろと話もありましょう、さっそく話し合いたいものですな!オフィルへの道筋の事もうかがいたいことですし……」
「ええ、それはもちろん。ねえ、タムリン?」
ビルキスが、少し後ろに控えていたタムリン隊長に声をかける。おや、とヒラム王も視線をそちらの、背の高い老人に移した。
タムリン隊長は王同士の挨拶とは少し違う、寄り敬意を払った挨拶を持ってヒラムに挨拶する。
「初めまして。シバ王国国営隊商『ヤツガシラ』の隊長、タムリンでございます。オフィル金山へのルートは、全て私共が担っておりました。この度は、地図、および海図も持参しております。両王陛下に、全てを伝えさせいただく所存にあります」
「おお、タムリン隊長!」
ヒラムはどうも、彼の名前は知っているらしかった。
「私も商売人の端くれ、お噂はかねがね伺っておりますぞ。一度お会いしたいと思っていたところ」
「それはそれは……光栄でございます」タムリンはシバの女王の隣に付きながら。ひとしきり頭を下げる。
「では、皆様」ソロモンがその流れを切った。「会議室へ。会議室の準備はすでに整っていると報告が入っております」
などと話しながら、彼らはあっという間に会議室に消えてしまった。残されたベナヤはこほんと咳払いをしながら、部下たちやエイラットに駐在している兵達に言う。
「それでは、我々はこれより二手に分かれる。人班はエイラット、人班はエツヨン・ゲベルに向かいエドム王家の生き残り、ハダドに関する情報収集にかかれ。良いな!少しの油断も許されぬ。相手はイスラエルに尋常ならざる恨みを抱いている相手だ、火の粉一つも王宮に届くことはあってはならない!」
「はっ、将軍閣下!」
その言葉を皮切りにイスラエルの兵隊たちもエイラットの町の中に散り散りに去っていった。ベナヤ自身は、エツヨン・ゲベルに向かった。

エイラットからエツヨン・ゲベルは目と鼻の先ではありすぐに到着はしたが、到着してからの時間はすぐに過ぎてしまった、太陽が非常に高い。ベナヤはようやく真昼になったのだと気が付いた。聞きこみは難航の一路だ。誰一人、ハダドらしき人物を見たりはしておらず、旧エドム王国に関係する人物が不審な動きをした様子にも覚えがないと言う。部下から来るのも、弱気な言葉ばかりだ。
たしかにエツヨン・ゲベルの件が仮にきっかけであっても、そこに現れる保証はない。当てが外れてしまっただろうか。ベナヤは木陰で暑い日差しを避けながら、弁当を食べつつ心の中でため息をついた。紅海ののどかな波の音が逆に腹立たしいくらいだ。王に何と報告したものだか。

一方、迎賓館で行われた話し合いは、イスラエル兵達の難航とは裏腹にスムーズに進んだ。ヒラム王も、別段ただで協力してくれたわけではない。オフィルへの航海の手助けをする代わりに、オフィルの金を交易品としてティルスにも数割回すことで話が付いている。
ヒラムにしても前々から恒常的に取り扱えればどれほどの利益を生み出せるか、と思っていた対象だ。張り切らないはずがない。この王は、王と言うよりも商人の気質なのだ、と、ソロモンはヒラムに対して感じていることであった。そうして自分らしく遠慮なく生きていけるのだから、結構なことだ。
タムリン隊長とビルキスは本当に、包み隠さずオフィルの情報を話してくれた。話は次第に進み、オフィルの事が終わり次第、シバ王国の西方進出に関する話になった。
「地中海の事ならお任せを。このヒラム、地中海の貿易ならばタルシシュまで及びます」
「なんと!」「まあ、噂には聞いておりましたが……」と、驚くタムリンとビルキス。タルシシュと言えば地中海の西の果て、現在で言うスペインにある土地である、ここも、金属の供給地として有名なのだ。そして、ことティスルは「タルシシュの娘」と形容されるほどにかの地とのかかわりが強い。
「あなた方のインドやアフリカへの貿易と合わされば、まさに鬼に金棒。世界中をまたにかけるのも夢ではありません」
「魅力的なお話ですわね」ビルキスはニコニコ笑いながら、しかし真面目に聞いている。ソロモンもその話には積極的に交わる。両国の利益はそのままイスラエルの利益だ。
昼食の時間になるころには大体の話し合いは終わった。ベナヤからの報告はないままだった。ひとまず今日いっぱいまでは待ってみるか、とソロモンが思案していたいたところで、ビルキスが口を開いた。
「ところで、ソロモン様」
「な、なんでしょう?」不意をつかれて彼は一瞬どもった。彼女に話しかけられた時、心臓がはねたような気がした。
「ここからはティムナ渓谷も近いのですね?」
「ティムナですか。はい。確かに」
ティムナ渓谷とはイスラエル屈指の銅山地帯だ。小麦やオリーブに並んで、ティムナの銅もイスラエルの重要な輸出品である。ここも、エツヨン・ゲベル同様に先代のダビデ王がエドム人から奪い取った土地だ。
「せっかく南へ来たのですからそこにも足を運びたいものですわ。ティムナ渓谷の銅の品質も良く聞こえておりますし……」
「お、私もごいっしょできますかな、ソロモン王」ヒラムもにやにや笑いながら話に入ってきた。「紅海方面に来るのは久々ですから、迎賓館でゴロゴロしていたくもない。老け込む元でもあります」
ソロモンは少し考え込んだ。ティムナは近いとはいえ日帰りできる距離ではない。「少々、お待ちを」と二人を待たせ、部屋の外で控えていた侍従に聞く。
「ベナヤから報告は?」
だが侍従が返してきたのは、申し訳なさそうな「ございません」の一言だった。自分が迎賓館を離れれば、ベナヤの報告をすぐには受け取れないが……
だが、彼は結局ティムナ渓谷に行くことにした。「ベナヤが帰り次第、ヨシャファトに報告を入れるように伝えてくれ」彼は別室でタムリン隊長とともに昼食をとっているヨシャファトの名前を上げた、ひとまず、ここにきている中では彼が二番目の責任者だからだ。
「承知いたしました」
「我々はこれよりすぐティムナ渓谷に行く、用意をたのむ」

荒涼とした荒野を北上すれば、やがてティムナ渓谷につく。イスラエルの南部は砂漠地帯だ。港町で生まれ育ったヒラム王にはどうも慣れないらしいが、逆にシバ王国の面々は砂漠の国の出身とあって全く慣れた顔だった。
ティムナ渓谷にへは数時間の距離だった。太陽が沈まないうちに、一行は広大な渓谷にたどりつく。
ヒラム王はひらりと馬車から飛び降りるなり「さあ、どうぞ。女王陛下。お怪我のなきように」と手を差し伸べた。長いドレスの裾を乱さないように、慎重に馬車から降りようとしていたビルキスはそれを見て、面白そうに笑い「ありがとうございます」とそれを受ける。
だがヒラムが一瞬おや?と思ったのは、それを見つめるソロモンの目が一瞬、普段こうして人をからかう自分に対する苦笑ではないことの気が付いたからだった。何と形容できるものでもないのだが……とにかく、違った。ソロモン自身もそれを自覚してはいなかった。むしろ自分に対する、ヒラムの表情が微妙に変わったことから、初めて自分の表情の異常を知った。
「おや、ソロモン王、嫉妬ですかな?」ヒラムは場の空気を戻そうと、からかい気味な口調でそう言った。あくまで、冗談めかして。
「君はここしばらく彼女をもてなす大役にあずかっているのですからな、今日ばかり私にエスコートさせていただいてもよかろう」
ソロモンも、それは承知の上だ。彼ははっとし、普段通りのペースを取り戻して言い含めるように言った。日よけのためにマントを目深にかぶりなおしながら。
「やれやれ……女性をからかいたがる癖も大概になさいませんと、奥方様に告げ口しますよ」
「それは困る!私はオリエント一の愛妻家だ」
そう言ってなんとかその場は不自然では無く収まった。
だが、ソロモンは銅山の監督に挨拶されたり、案内されながらもしばらくそれについて思いをはせていた。言ったとおり、ヒラムは先ほどから足もとの悪い中ビルキスを転ばないようエスコートして歩いている。なので彼一人思案に暮れることが許されていた。
嫉妬、と彼は言った。そのような物だろうか。要するに彼ではなく自分が彼女の手を引きたくて、彼に先を越されたのを不快に思った、と分解すればそのようなところだろう。はたしてそのような感情だったのだろうか……そうであるような、そうでもないような思いがしていま一つピンとこない。
まず冷静に考えても、ヒラム王は別に本気で彼女を口説きたがっているわけではない。彼は権力者には珍しいほどの愛妻家なのだ。それは自分がよく知っている。ヨシャファトに聞いたファラオの噂が真実であったと仮定しても、ヒラムはおそらくその限りではないはずだ。自分はそれを、この通りキチンと頭で理解できている。
だが一方で、それを全否定できない自分もいる気がするのだ。何となく心がもやもやする。
人、特に異性に心奪われる、というのはありていに言えば恋愛感情の事を言うのだろう。自分が幼い時一回だけそれにも似た気持ちを持ったときは、同時に尊敬していた、しているつもりだった兄のためにそれをあきらめた。そこに微塵の未練もなかった。自分は好かれるはずはないのだから、アドニヤの方が魅力的なのだから、この感情を持ち続けて誰にもいいことはない、だから持たない。そんな思考のもと、自分はその心を消すことができた。
もしも自分がヒラムに一瞬でも嫉妬したというのならば、子供の頃の自分の方がまだ論理的だ。しかしそれ以前に、自分がビルキスに持っているのはあの時と同じ感情なのだろうか。それがそもそもわからなかった。しかし、あの時アビシャグに対して持っていた感情が恋愛感情だという保証もない。むしろ大きくなってから話を聞くたびに、恋愛感情と言うのはおいそれと捨てられたら世話はない、というのが世間の総意だと分かってきた。自分はおいそれと捨てられた。では、あれは子供の頃の憧れの気持ちにすぎず、恋愛感情ではなかったというのだろうか。
自分はなんて無知な人生を送って来たのだろう。ソロモンは我ながら自分に呆れた。ヒラムとビルキスは、銅山の責任者が持ってくる胴の純度に感心しているところだが、自分のミニにはあまり入ってこない。
「……あら?」ビルキスの声が聞こえた。「何かしら、これ……」
それは、銅鉱に混ざって転がっていた青緑の石だった。ビルキスは膝をかがめてそれを拾い上げる。彼女は宝石の交易に詳しいのだから、石の名にも詳しかろうと思った。だが、彼女はその石を見ても首をかしげた。
「なんでしょう。素敵な石ではありますけど……普通の青い銅鉱石、とは少し違いますわね。トルコ石……によく似てるけど、やっぱり違うし……」
その言葉を聞いて、ソロモンの注意はビルキスの手に握られる石に吸い寄せられた。「どれ?少々、拝借」
彼はビルキスの手から青い意志を貰い受ける。確かに、宝石の原石として自分が見たことの無いようなものだった。銅に起源をもつ青色をしたただの石ころ、と片付けてしまうのは許されないほど、その石は魅力的な輝きを纏っているかのようだった。
「孔雀石のようにも見えますな。しかし純粋な孔雀石ならこんな色をしているはずはないし……」
「ええ……あ、私にももう少し見せてくださいな」今度はビルキスがソロモンの手から意志をかすめ取った。
「孔雀石……というよりも、クリソコラの色に似てはいいませんこと?」
「いえ、それも分かるのですが此処にご注意」と、ソロモンは彼女の手のナアにあるそれを、自らの細い指でさす。よく見れば、単純な青緑と言うよりも、青と緑が複雑かつ緻密に絡まりあったような色合いをしていた。
「この緑の輝きは、私には孔雀石としか思えませんのです」
「あら、本当。でも、ソロモン様、それをおっしゃるのなら……」
議論はたちまちのうちに白熱した。見れば見る頬彼らの手の中を行きつ戻りつするその石は正体を隠すようだった。彼は、ソロモンやビルキスの知る様々な青や緑の石のうち、全てでもあるかのような独特な空気を持っていた。
真昼のティムナ渓谷は大変熱い。砂漠のど真ん中にあるのだから無理もない。議論の高まりも相成って、ソロモンは自らの頬が上気するのを感じ取ることができた。しかし、それでも謎の石に関する議論は止めるに値しないものだった。
「ひょっとすると」終わらない議論に、ヒラム王がいい加減口を挟んだ。「我々の知らぬ新しい宝石が生まれたのではないですかな。このティムナの渓谷で……」
「……かもしれませんな」と、ソロモンが言った。
「持ち帰って職人に磨かせてみましょう。また別の事がわかるかもしれない」
「ええ、そうですわね……」
彼らの手の中を行ったり来たりしっぱなしだった意志は、最後にビルキスの手からソロモンの手に映った、その時、ソロモンは彼女と目が合った。
彼は、驚いた。
自分が子供のころアビシャグに持った感覚と、先日自分が感じた感覚を結びつけるものは、一つあった。それは、彼女らの視線を受けた時の感覚についてだ。
14歳の頃、自分はアビシャグと一緒にいることを恐れていた。恐れていたのに、一緒に居たい気持ちもあり、その理不尽な感情を理解できず身悶えしたものだ。そして、目の前のシバの女王に関しても、自分はあの日、彼女の純金の瞳を見つめるのに自分の赤い瞳は汚らわしすぎると感じたのだ。彼女と見つめ合うのが揺るされないような気がした。
視線を受けたくない気持ちと受けたいという、相反する気持ちがないまぜになる理不尽な感情として、二つはかろうじて同じものであり得た。其れだと言うのに、その瞬間、もうその共通点すらも瓦解した。
その視線はもはや、恐怖に値しなかった。あの時自分に自我を保たせていた、このオフィルの金にも匹敵しようかという金無垢を汚らわしい血糊で汚してしまうのは許されぬ、という恐怖のようなものが、意味をなさなくなっていた。
それは金を汚していい、という思いではなかった。むしろ、逆だ。まるで流れる血のようだ、汚らわしい、縁起が悪い。そんな言葉を幼いころむけられ続けていた自分の目に対して、ソロモンは初めて感じる自覚を持った。
彼女の目が純金なら、自分は透き通って輝くルビーの目だ。自分が指にはめるダビデ王家の指輪にも勝って鮮やかな色のルビー。
自分の目に関して、卑屈になることを忘れても、特別誇ったこともなかった。彼にとってその発想は、全く新しいものだった。
煌めく純金の隣に透き通ったルビーが合ったとて何の不都合があろうか。この視線に抱かれていたい、この時を共有していたい、その気持ちはもはや絶対的なものとなり、歯止めをかけ得る感情は存在しないかのようだった。

とはいえいつまでもそうしておくわけにもいかない。ソロモンは気が付けばごく普通に、エイラットへの帰路についていた。夜道をゆくのは危険なので彼らはティムナで一泊してからエイラットに戻ったのだが、その夜の事をソロモンはあまりよく覚えていなかった。
なんだか、不思議な感触だ。恐怖よりも、それはやはり、幸福であったのだ。自分の目に誇らしい言葉をかけてくれた人物など今は亡きアドニヤただ一人だ。しかもそのアドニヤも、ただ自分を油断させるために言葉をかけていたに過ぎない。
昼すぎ、三人の王は無事エイラットに帰った。留守中のベナヤからの報告は、やはりなかった。ヒラム王は一足早くティルスに帰るとのことでソロモンは見送りをしたが、別れ際、彼はこのように言ってきた。
「ソロモン王、差支えなければ伺いたいことが……」
「はあ、なんでしょう?」
「お宅の兵がエイラットを血眼でうろついていたのが気になったのですが、もしや、何かありましたかな?」
余り巻き込みたくはなかったが、答えないわけにもいくまい。ソロモンは素直に事情を離した。ヒラムは少し考え込んでいたが、言った。
「直接関係はないかもしれませんが、思い当たる節があります」
「なんと?」
「あまりそちら側には迷惑をかけていないようですが、北方の穂で、わがティルスの貿易を悉く邪魔するレゾンと言う賊がいるのです。我々ティルスとしてもとっちめてやりたいところですが、なかなかつかまりませんでな。……しかし、どうもそのレゾンが最近、拠点としているダマスコを離れたらしいのです」
「して、ハダドと何の関係が……?」
「レゾンは……今や賊の王に落ちぶれておりますが、昔はツォバの将軍で、王家に対する深き忠誠で知られた男であったとか」
それを聞き、ソロモンも顔色が変わる。ツォバも、かつてダビデが完膚なきまでに叩き潰した国だ。
その男もハダドと……手を組んでいる可能性が考えられる。
「ありがとうございます。ヒラム王。貴方の情報、無駄には致しません」
「どういたしまして。万が一のときには、遠慮なくお呼びください。我らは盟友であるということをお忘れなく」
そう言って、ヒラム王は返っていった。

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