クリスマス市のグリューワイン

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feat: Solomon 第六十一話

エルサレム郊外の裏路地。ソロモン王の栄光の届かない汚い土地を、乱暴に歩く男がいた。人相は悪いが羽振りのよさそうな衣服は着ており、一見するとあまりこの裏路地に似つかわしくはない。その先頭慣れしてそうな顔立ちがなければ、裏路地を歩いて大丈夫かと心配になりそうなほどだ。
行き止まりの道に入って右手に見えたその建物の惨状に、思わずその男も舌打ちする。人が住んでいい場所かこれが、と彼は呟く。
どんどんと激しく戸を叩く。やがて聞こえる足音。
「お父さん、私にも、祝福をお与えください……」
扉の向こうから聞こえる合言葉に、男は迷いなく答える。
「お前の弟がやってきて、祝福だまし取ってしまったのだ」
すると、ギイと立てつけの悪い音を立てて扉があいた。
「レゾン殿か」そう答えたネバトに、レゾンはぶっきらぼうに言う。
「そうだ。ハダドは?」
「二階に」
レゾンが入ると、中に居て豆の煮ものを食べていた女が悲鳴を上げて部屋の隅に置いてあったわら布団に引っ込む。その調子に豆の煮ものの壺を倒した。床はただでさえ不潔で、一瞬で食べられたものではない状態になる。
「おい、ツェルア!貴重な食料を……」
ネバトは呆れたように言うが、ツェルアは部屋の隅で目を爛々と輝かせながら震えるばかり。言葉にならないうめき声をあげて。
「気にしないでいただきたい。最近では以前にもまして精神が弱って、怯えやすくなって、初めて会う男相手には必ずこうなのです」
気にするもしないも、レゾンは茫然とした。食べ物をぶちまけるのも問わず部屋の隅にすっ飛んで行って怯える、全身皮膚病に犯された汚らしい生き物は、人間と言うよりもドブネズミの方に近いような気がして、改めてこの場のすさまじさに頭痛を覚えた。
抜けそうな階段を慎重に上がりながら二回につくと、おそらく娼婦の部屋であった一室で、レゾンはようやく見知った顔に出会った。
「ハダド殿」とあいさつをし、ようやくハダドはレゾンの方に気が付く。
「レゾン殿……来てくださったのだな」
「あなたの呼びかけとあったから来るには着たが、なんなのですか、この様は!仮にも元王族であった貴方が」
「ヤツに一番近いエルサレムにも拠点を構えておきたかっただけの事」
「それにしたって、もっといい場所が終わりでしょうに……」レゾンは頭を抱える。
「ネバトはなかなかできる奴だぞ。貧しい生まれだと言うのに、頭が下がる」
「それにしたって私に頼って頂ければ、もっとましな……ああ、何とも哀れなハダド殿!」
レゾンは歯噛みした。
「哀れとは言ってくれるな。ダビデが我が祖国を滅ぼしてから……ずっと、私は復讐の事を考え続けていたのだ。ダビデが死んでからも、十年間も……」
「それはつまり」と、レゾン「あのソロモンに関する情報が一さなかったからですな?」
「うむ、そうだ。ダビデの跡を継ぐのは長男のアムノンか優秀で知られていたアブサロムのうちのどちらかだと思っていたのに……ソロモンなどと言う王子、そもそも存在自体掴んでいなかったからな。得体もしれんし、情報もない……だが、結局。奴も父と同じだ。エジプトの奴隷民族の出のくせに、厚かましくも我らがエドムの土地を利用して豊かに富み栄えおって……」
ハダドは拳を握り固めた。お可哀想に、とレゾンは思う。自分は王家に仕えこそすれ王族ではなかった。彼の屈辱など、自分がイスラエルに抱える憎しみに比べれば比べものにもならないはずだ。
「ハダド殿、このレゾンはあなたの味方にございます」レゾンは、ハダドの握り拳を握り、床に膝をついてそう言う。
「我々は賊ではありますが、既にダマスコを拠点にアラム一帯の支配は我らが握ったも同然、大いなるお力添えができることと存じます。ハダド殿、なにとぞ、ご遠慮なく……」
「うむ……恩に着る」ハダドも声を落ち着けて返答した。
「私とハダド殿が揃えば、イスラエルなど砂上の楼閣にも同じ……」無論、レゾンもソロモンが油断の置けない人物だということは知っている。祖国の恨みを胸に抱きながら生き続け、ソロモンの治世になってからも自分とてイスラエルに関することは常に聞き及んできていたのだ。しかしこの目の前の男に、弱気な事を言う気にはなれなかった。
「忘れるな、ネバトもだ」ハダドは釘を刺すように言う。レゾンはどもり「し、失礼足しました」と言う。これはあくまでもダビデに滅ぼされた王族に連なる者達の集いあんな男を対等な同志とは思いたくないのだが……という思いを秘めながら。
「それと……私としてはもう一人、仲間に入れたい相手がいる」
ハダドはにやりと笑った、レゾンは目を瞬かせ「は、誰でしょう?」と問いかけた。


ヒラム王が提供した以上の情報は得られないまま、ソロモン達はエルサレムに帰還した。色とりどりのシクラメンの咲き乱れる王宮は、変わらずに彼らを出迎えた。
王宮に帰ってからほどなくして、ビルキス女王からモリヤ山の神殿を見たいという申し出が、サラヒル女史を通じてソロモンの所に届いた。先日ヒラム王が板場で、神殿の話題も出た、その際にビルキスが興味を持ってくれたのだ。ならば連れていくと言う約束をしたのはもちろん覚えている。ソロモンは快諾した。
さっそく馬車が誂えられた。ソロモンが一足先に来て馬車の中で待っていると、やがてビルキス女王も来る。つい先日までは旅衣装だったが、今日は久しぶりに真珠と宝石をちりばめた女王に相応しいローブを着ていた。
「どうぞ」と自分で言ってから、ソロモンは馬車の上から手を差し伸べた自分に気が付いた。先日のヒラムの言葉を思い出してハッとする暇もなく「ありがとうございます」と、ビルキスはドレスの裾を起用に抑えながらその手を取って、馬車に乗り込む。ああ、やはり同じだ、変わっていない。彼女の金色の目を見て自分が思う感情が。
この金の目とともにあるとき、自分の赤い目は忌々しい血の色でなく、燦然と輝くルビーとなり得るのだ。
「どうしましたの?ソロモン様」ビルキスが、そんな彼に聞いてきた。ソロモンはそう聞かれた途端、なんだか素直に答えるのも恥ずかしくなり言った。
「いえ……女王、初めて会った時より思っていたのですが、貴方の目は非常に美しいと。……金のうちオフィルの黄金に勝るものがあるとすれば、貴方の瞳でしょうと思うのです」
「まあ……詩的ですこと」ビルキスは恥じらうように笑った。
「私の目は少々色が明るい方ですが、本来こんな目はシバ人にはそこそこありふれている方ですのよ」
「そうなのですか?」ソロモンは聞いたが、確かに言われてみればタムリン隊長もサラヒル女史も、少し色は薄かれど似たような系統の色なように思えた。
ビルキスはソロモンの目に言及し返すことはなかった。だが少なくとも、彼女がこの目を、昔自分を罵った人々のように忌々しきものと感じていないことは分かった。代わりに馬車が動き出しても、長い間彼の目をじっと見つめていた。昔は皆、一瞬でも見ればそらしてしまい、じっと見つめるときなど、威嚇するため睨みつけるとき程度だった。彼女のように穏やかに見つめ続ける人などいなかった。それだけでも、ソロモンは満足だった。
馬車はあっという間にモリヤ山についた。イスラエルの参拝客も、異国からの参拝客も大勢いて、今日もモリヤ山はにぎわっている。
神殿の周辺にも、ぎっしりとシクラメンが咲き、ヤツガシラが飛び回っていた。すっくと伸びた若いアカシアの木の上からヤツガシラが鳴き、シバの女王の来訪を祝福しているかのようであった。
「王よ!」
ほどなくして、祭司長であるザドクがやってきた。隣のビルキスを見て、少し慌てたような顔で。
「わが陛下よ、シバ女王ビルキス様よ、ご足労、誠に感謝いたします。しかし……」
「存じておりますわ、ユダヤ人以外は至聖所には入れないのでしょう?」ビルキスはあくまで穏やかに言い返す。
「私も、無理に貴方方の神の聖域を汚すつもりはございません。ただ伺った、職人の巧みな技の建築物を、可能な限り目に留めたいと思いまして……」
「ご理解のほど、誠に感謝いたします」ザドクはぺこりと挨拶をする。彼の信心深くはあるが頑なではなく、異邦人を片端から見下す方ではない性質は、これから外国人も多く訪れるイスラエルの神殿を預かる者として相応しい、と、ソロモンには今一度思えた。
「では、外陣の中だけではありますが、僭越ながらご案内をさせていただきす」
ザドクはそっと、神殿の内部に二人を案内する。ソロモンも来るのは久しぶりでも何でもないのに、ここに入るたびに胸が震えるような感動を覚える。エルサレム神殿に来るたび、ヒラム・アビフが死んだことを何一つ信じられなくなる。それほどまでに、ここには彼の生命の躍動が、そっくりそのまま会った。
「まあ……」シバの女王は恍惚としたような声で言った。床から壁、うんと高い天井の隅々、幾何学的に均整のとれた設計から、隅から隅へと削られた緻密かつ正確な彫刻にまで、その金色の目を光らせながら。神殿の中には参拝客もおり、王と賓客が来たことに彼らはすぐ気が付いた。黒衣を纏った白皙の王と、輝くばかりに美しい異国の女王なのだから、どうしたって異常に目立つ。彼らはそそくさと道を開ける。あるいはひそひそと話したりするものもいたが、彼女は全く彼らなどには構わずに、ただ今は亡き職人ヒラム・アビフの技巧に見入っていた。エルサレムに来た時と同じだ。
ふうとため息をつき、彼女は言う。
「参りましたわ、ソロモン様……私、大変な後悔をしました」
「後悔とおっしゃますと」
「つまり、私が去年にマーリブのアルマカ神殿を改装したことですわ」
アルマカとは、シバ王国で崇められている太陽神の名前らしい。
「先王の趣味が気に入らなかったものですから、神殿の改装は即位以来私のたっての望みだったのですが……ここまでの技巧に彩られた神殿があったのならば、まずそちらを見て参考にするべきでしたわ。その方が、聖なる太陽の都マーリブにより相応しい神殿にできましたものを……」
ビルキスは口調こそ穏やかなものの、どうもお世辞と言うよりは本気で悔しがっている様子だった。
「それはそれは……光栄ですな」と、ソロモン。
「私も貴女の前にあっては、見苦しき傲慢の鎧など一切を脱ぎ捨てる所存ではありますが、ただ一つ、この神殿に関しては一切の謙遜は致しません。私はこの神殿こそ、この世で最も素晴らしき建設物だと思っておりますから」
「知恵にあふれた御身に、傲慢の鎧など最初から似合いませんわ」ビルキスははっきりと言い返す。
「それに見合わぬものが白金の鎧や金の衣を着たところで、その輝きに飲まれかえって不格好な物。しかし、この神殿を誇る貴方様は、不恰好どころか、なんというご威光を持って私の前にたたずんでいることでしょう。太陽の光も、オフィルの金の煌めきも、そのご威光と比べれば新月の光にも劣ってしまいます。貴方のその誇りが、傲慢どころか、この世のうち貴方しか身に纏えぬほどに、貴方に相応しき感情であるという証拠ですわ」
シバの女王はそのように、手放しでエルサレム神殿を褒めた。彼女は心底、感動している様子であった。
「なんという調和が、この空間を作り出していることでしょう!この設計をなさったのは、ソロモン王、貴方なのですね?」
「いかにも」
「確かにあなたのような空気を感じます。繊細で、隙がなくて、英知と秩序に満ち溢れた……しかし、貴方の持ち得ぬ野生的な、それでいて貴方の魂と完璧に調和する魂を同時に感じますわ。幾何学の美と秩序を熟知し、それに対する愛に満たされた魂を……先日、話してくれた職人とは彼の事ですのね」
「ええ、ティルス人、ヒラム・アビフです」ソロモンは答えた。
「立派な男でした。世界一の職人と言ってもそん色のない男でした。まだ生きてさえすれば、もっと多くのものを作ってほしかった……それに、貴女の元へも派遣させたかったものです。貴女の望み以上の太陽神殿を、作り出してくれたことでしょう」
「どれほどの職人であるか、良く分かろうものですわ!……いいえ、しかし、それには及びませんでしたでしょう。この美しさは、貴方の魂と職人ヒラムの魂の調和あってこそ、私相手ではとても出せませんわ。ソロモン王。その方は貴方にとって……とても掛け替えのない、ご友人でいら知ったのではなくって?」
「おや……分かりますか」
確かに先日ヒラムの話題は出した。だが、深い話には至らなかったはずだ。ソロモンは今一度舌を巻いた。この彼女は、この神殿を、自分とヒラムが一心同体になり作ったこの建築物を見て、自分たちの魂の結びつきを言い当ててしまったのだ。
「陛下の指輪も、ひょっとするとそのヒラムの作ではありませんの?」
「指輪?」ソロモンは自分の指を見る。
「ダビデ王家の紋章の方ではございません。貴方がはめている三つのうち、桃色のルビーがはまった指輪ですわ」
「ああ、これですか……!」ソロモンは左手にはめた、スリランカ産のルビーの指輪を見せた。
「ご名答で。さすが我が友たる女王陛下。いかにもこれはヒラムが私のため作ってくれたもの。私にとってはかけがえのなき友との思い出の品の一つです」
「お美しいこと……この蓮の花のような愛らしい色合い、スリランカ産のルビーでしょう?」ビルキスはそれも、あっさりと言い当ててしまった。
「ただでさえ美しい蓮の花が、朝露にぬれて暁の光を受けているように輝いておりますわ……その美を熟知した熟練の技もさながら、やはり職人ヒラムが貴方と言う友のため作ったものだからこそ出せる美しさなのでございましょう。この神殿の美しさとそっくりそのまま同じですわ」
「ええ、ええ、まさしく!それにしても美と言うものが顕現したかのような貴方にそこまでの心をかけていただけるとは……彼も、遠いティルスの地に眠りながら、喜んでいることでしょう」
彼女に褒められれば褒められるほど、ソロモンは胸の高鳴りを感じた。この神殿を見てケチをつける者はそうそういない。それでも彼女ほど、この神殿にかけた自分たちの思いを、愛を、何もかも認めてくれる人物に出会ったのは初めてだった。
「いいえ、買い被りはおよし下さいませ!私はいっそ嫉妬すら覚えますのよ。貴方とその職人の魂の結び合い、それからもたらされたこの芸術に!私はそのようなものなど得たことがないのにと思えば、わがままな小娘じみた焼き餅の心すら湧いてきてしまいそうですわ」
嫉妬。
先日自分を悩ませた感情の一つだ。文脈は違えど、彼女も嫉妬を覚えることなどあるのか。ソロモンはそう思いながら、シバの女王と神殿について言葉を重ねた。彼女は神殿の、固く閉ざされた至聖所の扉をちらりと見た。
彼女はもう一度、ため息をつく。
「素敵な場所……これほど煌びやか、賑やかでであるというのに、なんと心の休まる場所でしょう。神が住まう場と言うのも納得ですわ。まるで、人間の作った世界ではないみたい……」
「それでこそ、神の住まう神殿たる意味があるのです」
ヒラムが人ならざる者の手を借りて、この神殿を作ったことは自分以外誰も知らない。だが、それ以上に自分もこの空間に対して思い入れがある。
「イスラエルの神は全てをお創りになられました。神の手によって創られし者が全て、神の手のうちに戻り休まれるような場。神殿とは、そのような空間でなくては意味を成しません……」
孤独な自分を、人間として認められていなかった子供の自分を、空想の中に現れるこの空間だけがいつも受け入れてくれたのだ。
「分かりますわ、異教徒の私すらも、優しく包みこんでくれるかのよう……」ビルキスの声が聞こえる。
この空間を実現させるのが、小さなころから自分が持っていた使命だった。その使命を与えもうたのは、やはりイスラエルの神ではないか。これは、いわば悪魔の携わった空間でもあり、神の携わった空間でもあるのだ。

外に出ると、外は相変わらず晴れていて、シクラメンの花弁が踊っていた。
「イスラエルのシクラメンは不思議ですわ」ビルキスは言う。
「季節を問わず、陰ひなたを問わず、咲いているんですもの……」
「しかし、私はこの花が好きです」ソロモンは呟く。「美しいのに、慎み深くうつむくこの花が……」
「ええ、素敵なご趣味ですわ!」ビルキスは言った。
「薔薇や、睡蓮や、あらゆるその華麗な美によって名前を知られた花よりも、シクラメンの花が貴方の治めるイスラエルを飾るのにはよく似合っている、そう私には思えますわ……貴方は愛していらっしゃいますのね。神殿も、シクラメンも、ヤツガシラも……」
ビルキスは黒檀のような黒髪をそっと書き上げた。そして、じっとエルサレム神殿を見つめる。
愛。その言葉を、ソロモンはかみしめていた。
自分の感情がまだ何もわからない。まるで無知な童子だ。だが、ソロモンはシクラメンの花に歓迎されるように包まれるビルキスを見て、思う。イスラエルのシクラメンは、みんな彼が愛するものだ。だが、ここまで彼ら彼女らが自分以外の誰かを受け入れたことなど無いように思える。彼女は、彼の最愛のシクラメン畑の中に、幻想的なほどに溶け込んでいた。
彼らはそのとりどりの花弁をもって、この女王を全力で祝福しているかのようだった。その光景は、美しかった。彼女が自分とヒラム・アビフに与えてくれた数々の賛辞をそっくりそのまま返したいほどに、美しいと彼は感じた。
感情にまだ名はつけられない。だが、広義的な言葉を使って言うなら、自分は間違いなく、彼女を愛しているのだ。どんな女にも感じたことがない程に、理由もろくにわからないまま、ただ自分は、彼女を愛している。


昔の夢を見ていた。しかし起きた彼の目に映るのは、年老いた白いひげだった。
アンモン王ハヌンは午睡から目覚めたところだ。枕元には、先日送られてきた娘の手紙。いつもの通り、差しさわりない内容の手紙だ。元気にやってはいるらしい、と。
夢の記憶はすぐ消える。そうと知りつつハヌンは、しばらくその記憶に浸っていたいと切に願った。
若かった。あのころは自分も、若かった。自分は、ダビデに対抗できるだけの人物だという確固たる自信があった。それが誇りと言うよりも見苦しい高慢であったとしても、今この年になってみれば、もはやすべてが輝かしく、懐かしい……。
そんな中だった。一人の部下が彼を呼びに来た
「王よ、客人が参っております」
「だれだね」少し寝ぼけた声で彼は言い返す。恭しく入ってきた若い護衛兵は、有るものを渡した。
「何でも、それを渡せば分かってくれるだろうとのことで……」
ハヌンは首をかしげながら、言われるままにその護符と思しき門を小見る。だがそれを見た瞬間、愕然とした。ずいぶん昔の記憶だが、忘れるはずはないものだった。
「すぐに、とおしなさい!」眠気など既に吹き飛んだ。部下はばたばたと走っていく。しばらくの沈黙ののち、足音が近づいてきて、扉が開かれた。
「お久しぶりですな。アンモン王、ハヌン陛下」
恭しく挨拶をする男は、自分の記憶よりもずいぶん大人になっていた。彼と最後に会ったのは少年の頃なのだから、無理もない。しかし、それでも彼であるということははっきりわかった。
ハヌンは恐る恐る、彼から渡された護符、エドムの伝統の護符を渡しつつ言う。
「何の用で来たのかね……ハダド君」
ハダドはにやりと笑いながら言った。
「まあ、久々に会ったのです。急な話もなんでしょう。お時間さえよろしくば、積もる話でも致しましょう」

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