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クリスマス市のグリューワイン

The Princess of Sheba 第十二話


キルアブは部屋に入り、そして寝台に腰かけるとニカウレに「そばに来てくれ」と短く言った。
「……はい。なんでしょう?」
「どうしてあんなところにいたんだ。今日も来てくれるって言ったのに……」
「お待たせしてすみません……」
彼女がそう言った瞬間、キルアブは精一杯、彼女の肩を掴んだ。
「ニカウレ……」
息を荒く吐き、彼は彼女を抱き寄せる。ふわりと香る女性特有の甘い匂いに、気持ちが苦痛を感じるほど高揚する。
「もう無理だ……もう限界だ。君を見るたび……私は欲望で死にそうになる」
彼はすがるようにそう呟く。きめ細かい、温かい彼女の肌の感触を精いっぱい感じながら、彼は今にも泣きだしてしまいそうな声で呻いた。
「抱かせてくれ……君と寝たい……」
震える声でそう縋るキルアブの頭に、ニカウレはそっと手をまわした。か細い声で、しかし、しっかりとキルアブに告げた。
「わかりました……大丈夫です、キルアブ様。泣かないで」
キルアブの頭を撫でながら、彼女は言う。
「キルアブ様がお望みなら、私なんだってできますわ」
「本当かい……」
わなわなと震えながら、キルアブは笑う。心の底から嬉しそうに。体中が熱く染まる。彼はニカウレの柔らかい、桃色の唇にむしゃぶりついた。甘い。柔らかい。気持ちがいい。この子は私のものだ、私だけのものだ!彼はそう心の中で確信した。
「服を脱いで見せてくれ」彼は興奮を必死で抑えながら言う。
「君の体を見たい……いいだろ」
分かりました、とニカウレは静かに言ってひらりと衣服の帯を解きにかかった。キルアブの下半身に血がみなぎる。あの時はアブサロムに邪魔されてしまった。でも、今日は、今日こそは……。
パラリとドレスの上衣が落ちる。あの時と同じだ。彼女は少し自分の視線を恥ずかしく思うようにしながら、それでも服を脱いでいく。それがさらにキルアブを興奮させた。彼女は肌着を脱ぐ。ふわりと軽く、薄い生地で作られた肌着が落ちた。彼女は自分の上半身を恥ずかしそうに庇いながら、「キルアブ様……これで、よろしいですか?」と言う。キルアブは息をするのも苦しいくらいに激しく息を吐き、「いいよ、いいよ、ニカウレ……」と言う。男性器はすでに痛いほど固くなって立ち上がり、裾の長い衣服の布を持ち上げていた。彼女はそれを直視はしなかったが、あからさまに怖がりもしなかった。彼女はそっと、下ばきに手をかける。するりとあっけなく、二本の細い足に従って小さな布が落ち、彼女の秘所があらわになった。
キルアブはろくに息を吸い込めなくなるほどに息を荒げて、心臓を張り裂けそうなほど動かし、そこを凝視した。自分が初めて見るもの、自分の体しか見るもののないこの世界、この自分の私室において、到底見れないもの。それも、ニカウレの、あの自分が初めて見たほど美しい少女の……。
あっ、と彼は小さく声を上げた。「どうしましたの?」と心配そうに言うニカウレ。いると、先ほどから張りつめていた股間部の布が、じわりと濡れていた。
「キルアブ様……大丈夫ですか?」
「大丈夫だ……」
彼は自分も、病人用の薄い着物を乱暴に脱いだ。
「ニカウレ……おいで」
彼は寝台の上から、そう言う。「はい」とだけ彼女は言って、素直にしずしずとやってきた。身を守るものが何もなくなってしまった彼女の体から、香料の香りだけがふわりと香る。
どさりと寝台に身をうずめて、彼は必死で彼女の体を抱きしめた。素肌越しに伝わる彼女の体温は、本当に温かかった。自分の、病んで乾き切ったような体とは違う、潤った、きめ細やかな少女の体と、今自分はふれあっている。
彼はもう一度キスをした。今度は彼女の唇ではなく、首筋に。余すところなくキスをしたい。この体を全部味わいたい。彼は彼女の脚をまさぐり、はち切れそうな太ももに指をうずめてその感触を楽しみながら、心からそう思った。鏡越しにでもいい、ここに触れたいと思った。ただそんなものがなくても今自分は触れている。自分のやせて肋骨の浮いた胸を、彼女の柔らかく丸く膨らんだ胸が埋めてくれるようだ。自分の冷たい体温を癒してくれるような、暖かく、優しい温度を感じる。
体中の血が生まれて初めてと言うほど勢いよく駆け巡る。五感全てが、目の前の少女に支配される。彼は必死で自分になされるがままの少女の真っ白な体をまさぐった。この子は私のものだ。この女の操は私のものだ。
太ももから、さらに奥の方へ……彼の指が、ある場所に到達した。自分の男の体にはないところ。柔らかく、湿っていて……それに触れた時、ニカウレは小さく声を上げた。キルアブの心臓がはねた。彼は激しく興奮する。先ほど出てしまったばかりの男性器が、またすぐ熱を持って固く張りつめていく。彼は指を取り出し、先端の湿ったそれにしゃぶりついた。ニカウレの見ている前で。
「ニカウレ」
彼は荒れる声で言った。
「君に、婚約者はいるのかい……」
「いません」
彼女は静かに呟く。
「そうか、そうか……じゃあ、私のものになってくれるな?私の子供を産んでくれるだろうな?」
彼は男性器から透明な液をほとばしらせ、ニカウレの太ももを汚しながら、そう迫った。この少女を孕ませたい、彼女と子供を作りたい、と、彼の体全体が言っていた。
彼女はまるでキルアブをじらすように少し黙っていたが、やがて彼の顔を抱き寄せ、言った。
「お好きなように、キルアブ様……私は、貴方のものです」
キルアブはその言葉に、意識が飛びそうなほど興奮した。彼は一層彼女にはげしくむしゃぶりつく。この子の、この子の中に私の子種を撒きたい。一刻も早く……。
既に彼の男性器は早くしろと言わんばかりに、苦しそうに張りつめていた。キルアブはうめき声をあげ、彼女を抱こうとした。

耳をつんざくような、大きな音がした。

彼とニカウレはぎょっとして振りかえる。何事だと思ったら、静止の声を振り切りこちらに昇ってくる者がいるのだ。
「離せ!私を止めると容赦せんぞ!あいつの所に居るのは分かっているんだ!」
そう言ってくる声には聞き覚えがあった、アブサロムだ!
アブサロムはものすごい勢いで、ドスドスと階段をのぼり、廊下をかけてくる。そして……扉が勢いよく開いた。長い黒髪を化け物のようにふり乱したアブサロムの姿が現れた。
彼は鋭い目をきっと見張り、そして……寝台の上で裸で抱き合っているキルアブとニカウレを見て、一瞬、心が壊れそうなほどのショックを受けたように固まった。
だが、それすらもつかの間だった。彼は腰に刺した真剣をすらりと抜く。「貴様……よくも、よくも……!」
ようやく使用人たちが追いついてきた。しかし、アブサロムの剣を見て誰もかれもすくんでしまう。
「……殺す!殺してやる!……よくも私の妹を!」
だが、キルアブの方も、今度は怯えなかった。代わりにアブサロムに対する怒りが爆発する。手持無沙汰になり、ただなさけなく、空しく勃起したままの性器を抱え、彼は呻いた。
「……やかましい!そっちこそ、そっちこそ、なんでいつも私を邪魔するんだ!」
あの時だって。そうだあの時だって自分を邪魔した。そしてまた今回も……せっかく、せっかく今頃、ニカウレと一つになれたはずだったのに!
彼はアブサロムに怒鳴った。
「私は王位継承者だぞ!邪魔するな、弟のくせに!」
だがそれで引き下がるアブサロムでもない。彼は銀色の剣を振り上げた。
「黙れ!私の妹を汚す奴は……父であろうと殺してやるんだ!」
使用人たちが恐怖に目をつぶった。だが、ギインと金属同士のぶつかり合う音が聞こえた。
目を開けてみると、アドニヤが盾を持ってキルアブ達を庇っていた。
「アドニヤ……」
驚いて目を見開く兄の隙をついて、彼は兄の腕をひねる。彼がしまったと思ったころにはもう遅く、剣はアブサロムの手を離れ、激しい音を立てて床に落ちた。
アドニヤはそれをすかさず拾い上げ、使用人たちに「これを持って行け」と渡す。アブサロムが対応する暇もなく、彼は一目散に引っ込んでいった。
「やれやれ。また兄弟同士で刃傷沙汰を起こす気ですか」
「どういうつもりだ、このろくでなし……!」アブサロムは怒鳴った。
「そこをどけ!そいつは……そいつは私の妹を辱めたんだ!生かしてはおけない……生かしておくものか!」
「まず、あそこにいるのは兄上の妹ではありませんよ。シェバ王国の姫君、我々とは赤の他人です。兄上、自分が愛した妹の髪の色も忘れてしまわれましたか?」
彼は淡々とそう言ってのけた。
「なっ……」言葉を詰まらせるアブサロムを堂々と下がらせながら、彼は「アブサロムの兄上、俺はちょっとお話ししたいことが」と言う。
「お前たち。何を見ている。見世物じゃないぞ」そう言い放って使用人をさがらせた後、アドニヤは最後に後ろを振り向き、「それでは兄上たち。失礼いたしました。ごゆっくり続きをなさってください」と言って激しく抵抗するアブサロムを何とか引きずっていった。
「どういうつもりだ!離せ!私はあそこに……!」
そう怒鳴り散らすアブサロムに、アドニヤは肩をすくめながら言った。
「あのねえ、そもそも兄上、あなたは大変な勘違いをしておられます。あの姫は、貴女が思い浮かんでいられるような純朴な姫、まるでタマルのような純粋無垢の世間知らずの小娘などではありませんよ」
「なんだと……」震える声でアブサロムは言う。「私の妹を侮辱するな!」
「あなたの妹の事はしませんよ!しかしあの女はあなたの妹じゃありません」
「なぜ、そう言い切れる!」
「なぜって、俺もあの子と寝ているからですよ。それも、あの子がイスラエルに来たその日から」
それを聞いて、アブサロムはぎょっとして瞳孔を開く。
「う、嘘をつくな……」
「こんな嘘をついてなんになるんです!」アドニヤは呆れたように言った。「本当ですよ。あの子は俺が誘ったらすぐについてきた。今でも良く寝ます。俺のなじみの店にも何回も遊びに行きましたよ」
「そんな、そんな、バカな!あの子が……あの純粋な子が……!」
「兄上も一度あの子と寝てみればお分かりになる」アドニヤは面白そうに笑って言った。
「いくら年齢相応な穢れない少女のようにふるまえても……体まではごまかせません。初めてあの子と寝た時、驚きました。あの子の股は……十や二十の男を受け入れた程度じゃあ、到底、ああはなりません」
その言葉に、アブサロムは目をちかちかさせた。
「嘘だ、嘘に決まっている……」
「野暮なことはするもんじゃありませんよ。だいたいあなたは女性に変なものを望みすぎるんだ」
アドニヤは床に崩れ落ちた兄に、そう吐き捨てた。

「大丈夫ですか?キルアブ様……」
騒動が収まった後、残されたキルアブに、ニカウレはそっと話しかける。キルアブは「大丈夫だ……!」と言い張った。
早く彼女を抱きたい、彼女と交わりたい、続きをやりたい、体がそう言っている。彼は再びニカウレを抱きしめた。しかし、その時だ。
肺と喉に激しい違和感を感じる。彼は激しくせき込んだ。そして次の瞬間。ニカウレの純白の体に血しぶきが付着した。
彼はそれに目を見張ったが、耐えきれずもう数度咳をする。すると、今度は咳を抑えた自分の手に血がわいた。
ニカウレは悲鳴を上げた。
「お医者様を呼んできます!」
彼女は急いで立ち上がり、服をさっさと着てしまった。キルアブはそれを見て、ぎょっとする。
待って、行かないでくれ、大丈夫だ、ここにいてくれ。そう言いたいのに声が出ない。出てくるものは血だまりばかり。体すら、咳き込むこと以外の行為を許してくれなかった。
走って部屋を出ていくニカウレを見て、彼は待って、と手を伸ばすことが精一杯だった。当然彼女の輝く目は、そんなものを捕えなかった。
違うんだ、ここにいてくれ。このまま死んだって良い。君を抱いて死ねるならそれでもいいんだ、と、彼は心の中で呻きながら、ただ一人残された。みっともなく、だらりと露出したままの男性器が、彼をこの上なく惨めな気持ちにさせた。


一人きり屋敷に戻り、アブサロムは慟哭した。信じられない。ニカウレが、そんな……。
だが幻滅と言う感情はわかなかった。彼は相変わらずニカウレの事を愛おしく思う。だからこそ現実に打ちのめされたような気がして、心が狂いそうだった。
今頃キルアブ達は何をしているだろう。だが自分がそんな心配をすることなど恐らく意味がない。何より体が動かない。もう彼らのもとに殴り込んでいく気力すらわかない。
涙が出てきた。
自分はなぜこうでなくてはならないのだろう。何故いつも、失って、一人で勝手に嘆かなくてはならないのだろう。
せめてあの子だけでも守りたいのに、ずっとそばに置いておきたいのに……。
寝台の上に長い髪を泳がせて、ひたすらアブサロムは泣いていた。だがそんな彼の屋敷に来客があった。
「下がらせろ」その連絡を聞いたとき、彼はそうきつい口調で言った。「今は誰とも会いたくない……」
だが、取次ぎに来た使用人は「どうしても今お会いしたいと……」と渋るように言う。
「……どこの誰だ」
「それが……」彼は震える声で言った。「シェバ十三世様なのです」
シェバ!?
ニカウレの父がなぜ自分に。彼は驚き寝台から跳ね起きた。ぼさぼさの髪のまま、「よろしい、会うだけあおう」と発言した。

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