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クリスマス市のグリューワイン

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feat: Solomon 第九十四話

全くマアトシャレにも困ったものだ。ヤロブアムはため息を一つつく。まだ一応エジプトとの橋渡しは請け負ってくれるが、私に飽きたのか、と言う一々恨みがましい恋文の方が文量が多いくらいだ。
逆に聞くが、飽きないはずがあると思うか、とよっぽど言いたい。ソロモン王だって、お前がファラオの娘と言う立ち位置で泣ければ、なんでお前などと結婚したものか、とつくづく思う。革命のためとはいえ、なぜ、こんなヒステリーな年増女に付き合わねばならんのだ、とヤロブアムはよっぽど愚痴をこぼしたい気分だった。
まあ、それはともかく、エジプトからの手紙は彼の望む内容そのものであった。彼は拳を握りしめて喜ぶ。
ダマスコのヘズヨンも、協力してくれるとのことだった。此れも全て、ネバトが根回ししてくれたおかげだ。
ソロモン王の心がイスラエルの神を離れつつある、と言ううわさは、既に民に広く知れ渡っている。民からの不信感が、非常に強くなっているのだ。このタイミングで反乱を起こせば、むしろ民の支持も自分の方につく。
ファラオも、ヘズヨンも、当てのない革命に手を貸してくれるほど気前がよくない。だが当てがあるのならば、この通し喜んで手を貸してくれる。
何日に兵を向かわせる、と言う情報まで、しっかりと書いてあった。あとはヘズヨンの方にも手紙を送り、日程を合わせるまで。

ダマスコへの手紙を送り、ヤロブアムはしばし転寝した。
長かった。屈辱にあえいできた生活も、もうすぐ終わろうとしている。
まるで呪いか何かのように、貴方はイスラエルの王子、と言われ続けたあの日々にも、ようやくけりがつく。もしも過去と現在を行き来できるのであれば、母のぼろぼろの肌に抱かで、できものから海のしみだしているのを眺めながら、ただただ与えられるその身の程知らず菜言葉に耳をふさいでいたころの自分に、聞かせてやりたい。お前は,本当に王になるんだぞ、と。
そうしたら、昔の自分はどんな顔を下だろう。いや、変な顔を一つして、信二もせずに追い返していただろう。自分は用心深い子供だったから、しかし、それでも言ってやりたかった。自分は、ソロモン王を殺すのだぞ、と。
そうだ。もう一つ、思い出した。自分が十歳のころ、自分の以遠出入りしていた、あの革命の徒たちを。
彼らと自分との間に、一つ違うところがある。彼らは、ソロモンを憎んでいた。心の底から、憎み倒していた。
自分にとっても、ソロモンは妥当すべき相手だ。だが、自分と彼らは違う。ソロモンのことなど、全く憎くもなんともない。
むしろ、ありがたい存在であった。革命の仲間以外で、自分の能力を一番に評価してくれたのは、絶対にソロモンであった。貧民街育ちを、と馬鹿にする声など利く耳も持たず、自分を遠慮なしに徴用してくれた。
彼に、恨みなど何もない。感謝すらしている。ネバトほどではないが、尊敬に値する、由集な人物だとも思っている。
だが、それでも、自分の行くべき道に立ちはだかっているから、排除するのだ。それ以外に、理由などいらない。
自分は、王になりたい。高官以上に、王になりたいのだ。
今になって、あの噂が本当であればまるきりよかったのに、とも思う。いくら自分を重用しても、あの無能なレハブアムを退けてこのヤロブアムを王子にする、とまでは言わなかったソロモンが悪いのだ。

「ヤロブアム?」
ネバトは静かに声をかけた。だが、帰って来たのは寝息だけだった。彼は王宮の仕事も忙しく、今日は久々に安息日以外で休暇の取れた日だった。
「寝ているのか」彼は言う。24の青年になっても、彼にとってはヤロブアムはまだまだ、小さな子供だった。
「マケダさんが来てると言うのに……」
「構わない。ゆっくり寝させておいてやるがいい」マケダもフフ、と笑って言う。
「今日は、大切な話で来たのだからな」
「ああ、そうだったな」ネバトは、この同志がことさらに単刀直入な話を好むことを知っていた。だから彼女が見えた時点で何を聞きに来たかを悟り、兵の来る日程などをすべて教えたのだ。彼女も、イスメニーに連絡すると言っていた。
だから、その話は、そこで終わっていたと思っていたのだ。だが、マケダは「まあ、こいつが起きていないほうが話しやすいかもしれん」と言ったので、彼は面喰う。大切な話とは日程の事ではなかったのか、と、寝室を出つつ聞いた。マケダは「まあ、それも確かにことのほか大切だが」と言った。
「ネバト。お前は、ヤロブアムの父の事を知りたくはないか?」
「なんだ、もったいをつけるから何かと思えば、そんなことか」ネバトは致死悪笑った。
「生憎だが、別に知りたくはない。興味もない。あいつがあいつとしているだけで、十分だ」
「ところが、興味の沸かざるを得ない人間が、あいつの父親かもしれない」
なに?とネバトは眉をひそめる。マケダはくすり、と笑った。
「その反応を見るに、本当に知らなかったのだな……驚いたぞ。世間の者は、お前が知っていて初めて、ヤロブアムを王に祭り上げようとしたと思うだろうに」
面食らうねバトに向かって、ヤロブアムの父の名前を告げるより先に、マケダは工も言い足した。
「だが、お前は立派な男だ。本当に、ただの貧乏な少年でしかないあいつを、心の底から信じてきたということなのだから」


決行の日が来た。
南から、エジプトとエチオピア、北からダマスコからの援軍を迎え、夜間のうちに革命を起こす。
エルサレムの南まで、ネバトとヤロブアムは二国の兵を迎えに行っていた。ツェルアは、万が一の事も考えて、先にエジプトに送っておいた。
あんな母を送り迎えする方も大変だろう、だの別にあんな母はどうなってもいいのに、だのとヤロブアムも思うところがないではなかったが、ネバトが「ここまで一緒にいた女だ、ほうっておけはしない」と言い張るので、結局渋々従った、と言うわけだ。マアトシャレが、あんな状態の母親にすら、貴方とどういう関係のある女なのか、と嫉妬を燃やしてきたのは心底頭が痛かった。
彼らの隣には、マケダも待っている。もうすぐ、約束の時間だ。
「マケダ」ヤロブアムは言った。
「王に成れたなら、オレは……君を手に入れるぞ。何をしてでも」
「せいぜい頑張ることだな。私はこう見えても、引く手あまただ」
「ほかのどんな奴よりも、強く引いて見せるさ。……それが、惚れたということだろう。誇り高き、エチオピア王女」
マケダはフフ、と笑う、たいまつの光に、その笑顔がまぶしい。自分の生きる世界が、手に入れるべきものがここにある。心の底から、ヤロブアムはそう思った。
ざっざっ、と音が聞こえてくる。やがて、大量の松明の夢出が見えた。エジプトの兵、エチオピアの兵が混ざっている。
その中には、到底兵士とは思えない、だがどの兵士よりも誇り高く輝く顔もあった。娘の頼みと会って特別に赴くと、事前に知らされていた。
「初めまして。イスメニー様」ヤロブアムは挨拶する。
「ええ、はじめまして……娘が大変、世話になっているようで」
「はい」ヤロブアムは言った。
「お母様、来てくれてうれしいわ」
「ええ、久しぶりね、マケダ」イスメニーは上品に笑う。だがその老婦人の笑顔も、この万と言う単位の兵を率いるには十分な威厳を称えていた。これが生まれつきの王族と言うものか、と、ヤロブアムは改めて思う。
「さてと……ヤロブアムさんとやら。我々、エチオピア王家にも協力を仰ぐと言うことは……」
「ええ。無論のこと。貴方方のお望みのままにも、致します」
「それはありがたいわね」
イスメニーはそう言うと、右手をさっと揚げた。そして、それが合図だった。
予期せぬ事態が起こる。
エチオピア兵が急に動き、エジプト兵に踊りかかった。

え?と面食らうヤロブアムを前に、イスメニーは笑う。
「では、我らの思うとおりに……お前たち、我が盟邦イスラエルに背くものを、排除しなさい!」

女王の一言を皮切りに、エチオピア兵は次々に、自分たちを味方だと信じて疑ってい仲建地プと兵に切りかかっていった。不意をつかれたエジプト兵は、とても相手に等ならない。
「な。何だ。これは……」
「おや、見ての通りだが?」
ヤロブアムは隣を見る。マケダは不敵に、にやりと笑っていた。その、ヤロブアムは切望した笑顔を向けつつ。
彼女は視線をわきに移す。ヤロブアムは驚いた。馬に乗って、イスラエルの騎兵隊も着ていた。そしてその先頭には、ベナヤ将軍と、ソロモン王本人。

計画が、漏れていた?
まさか……マケダが?

「何を戸惑っている?」マケダはヤロブアムをあざ笑うかのように言った。
「本気で王になるつもりならば……もう少し、シャンとしていろ」
「マ、マケダ。君は……オレたちを……」
「マケダ王女、ご苦労だった」どもるヤロブアムの代わりとばかりに、ソロモンの低い声が響き渡った。それに続き、ベナヤが出動命令を出し、イスラエル兵もエジプト兵に切りかかっていく。二対一では、とても派など立たない。
マケダは悠々と馬を歩かせ、ヤロブアムのそばを離れ、ソロモンの隣についた。
「いつからだ?」ヤロブアムは言った。「いつから……オレたちを?」
「馬鹿を抜かすな」マケダは言う。
「このソロモン陛下のお役にたつため、エチオピア王女たる私がお前に近づく理由など、それしかあるまい……おっと、この期に及んで下手な誤解はするなよ。王は何もご存じなかった。全て、私が独断でやった事」
彼女はもう一度微笑み、そしてびしっと言い放った。
「レハブアム王子も滑稽だが、お前もなかなかどうして、滑稽な男だった。楽しかったぞ、ヤロブアム」
「そんな……」
ヤロブアムは、目を白黒とさせていた。騒ぎの中、ソロモンが「ヤロブアム」と口にする。
「お前は本当に、優秀な男だった。私の右腕ともしたかったというのに……まったく、残念だ」
王の手には、鎖が握られている。
「イスメニー様、御手間を取らせましたな」
「いいえ、なんのその」
そんな会話をしながら、ソロモンが自分の方に近づいてきた。馬鹿な、自分がこれで、終わる者か、ヤロブアムはそう思っていた。
だって、そうだろう?自分は王になる身なのではないのか、それが、こんな情けない、あっけない最期で……。こんな状況になっても、ヤロブアムの自分は王になるのだ、と言う心から確信は、微塵も消えてはいなかった。

そして、その時だった。彼の園自身に、その問いかけに、答えが与えられた。

急に、夜空に黒雲が湧き上がる。そして一瞬のうちに、誰も予期せぬ豪雨が巻き起こった。
そして、盥をひっくり返したかのような突然の雨とともに、たいまつの光が、一斉に消えたのだ!
「なにっ!?」
その声がだれの者かも、わからない。その場の全員が、驚いた。
急な暗闇と水流に襲われたその場の者は、もはやエジプトもエチオピアもイスラエルもなく、パニック状態に陥った。するどく響く、ヤロブアムの声。
「ネバトさん!」その一言で、十分だった。
「しまった!ヤロブアムが逃げるぞ!」
「お前たち!ヤロブアムを捕えなさい!」
ソロモンとイスメニーの声が響くも、イスラエル王の体を包むマントよりも暗い本物の真っ暗やみ、さらにとどろく雨の中、どうしてそんなことができるだろう。
巨大な音が響いた。そして一瞬だけ、真っ暗闇の中叩きつけるような光も。雷が起こったのだ!兵士たちは一斉に雷に当たらぬよう剣を投げ出した。もう、鎮圧戦どころではない!
様々な音がこんがらがり、暗闇の中、何の状況も分からなくなった。なぜだ、何故、このタイミングで……?
「神よ……」
ソロモンは豪雨にうたれながら、茫然と呟いた。
「これが、貴方のお答ですか……?私ではなく、ヤロブアムに、貴方は答えられたのですか……?」

「……うそでしょ」
それを見ながら、ベリアルは舌を巻いていた。
「まさか、神様が直々にこんな派手な……」
彼は黒雲を下に見ながら真珠色の翼をはためかせる。
「ま、いいや。ならボクはまず北に行って、と……」

北。ダマスコから、既にヘズヨンの兵はイスラエルの領地内に入っていた。
「気をつけろ。ヤロブアムから教えられたルートを外れるな。慎重に……」
そう言うヘズヨンの視界の前が、突如、昼間のように明るくなった。

驚いて目をみはったヘズヨンの目の前に映ったのは、世にも美しい、光輝く人物。だが普通の人間とは違い、背には大きな翼。ベリアルが、彼の前に現れたのだ。
「下がるんだね」
戸惑うヘズヨンたちを前に、彼はそう、空中に浮遊しながら言った。いつもの甘えたような声とは違う、厳かな声で。
「ここから先に行くことは、許さない」
「何者だ、貴様は……」
「ヘ、ヘズヨン様……あれは……」震える声で、部下は言う。「神のみ使いでは?」
「ほざけ!バアル神がなぜイスラエルに味方するものか!」
ヘズヨンは剣を抜いた。
「貴様が何者かはしらぬが、我々はお前など恐れはせぬ……」
だがその瞬間、ベリアルは二やり、と恐ろしい形相で笑った。今までの真珠のようなたおやかな笑顔とは打って変わったその表情に、ヘズヨンもびくりと怯む。
ベリアルがゆら、と指を動かす。そして、その瞬間。
ティルスから仕入れたタルシシュ鋼の剣に、ぼうっと火が燃え移った。そして、火柱を上げ、炎上したのだ。
夜中だと言うのに、ダマスコから繋がる道は、昼間以上に光にそまった、ヘズヨンの剣は、真っ白に燃え尽き、ぼろり、と崩れた。
目を白黒させるヘズヨンに、ベリアルはもう一度言う。
「二度とは言わないよ。下がれ……お前の父が、イスラエルにかかわってどうなったか、覚えているだろう?」
流石にヘズヨンも、もう平生を保ってはいられないようだった。歯をがちがちと鳴らし、柄だけのこったタルシシュの剣をその場にかなぐり捨てた。
「撤退だ、撤退する!」
そう言って彼は、部下たちを掻き分け井の一番に逃げ帰っていく。部下たちも、てんやわんやで後を追う。神さま、どうかお許しを!と言う声が、遠くから複数聞こえるような気がした。その様子を見て、ベリアルは笑った。
「くすくす……盗賊なのに、信心深い奴ら」
彼は少し筒光を引っ込める。やがて、道は元通り、夜の暗闇に戻った。
「けど、これでもうイスラエルにちょっかいをだそうだなんて考えないよね?ふふっ」

飴がようやくやみ、再び松明の灯がともった。
イスラエル兵達がその時理解したのが、ヤロブアムにはすでに逃げられた、と言うことだった。
「申し訳ありません、ソロモン王陛下……」イスメニー外の一番に謝る。だが、ソロモンは茫然としつつも、こう答えた。
「いいえ……貴方と……マケダ殿は、悪くはない。マケダ殿は、私を守ってくださったのです……」
マケダから、自分は裏切り者と通じている、その裏切り者はヤロブアムだ、と知らされた時、どれほどまでに驚いただろうか。そして、なぜそのようなことを、と問うた時に、彼女から帰ってきた一言に、自分の心がどれほど、満たされただろうか。
「イスラエルのため、敬愛する陛下のためならば、何も惜しくはございません」と。
「私を守らなかったものは、他に居ます。誰もが……かないもしないものが」
夜空は晴れ渡っている。その空を仰ぎ、ソロモンは呻いた。
これが、貴方の采配か。
かつて、自分の邪魔をするもの……そう、まさにあのヤロブアムの父を共に排除してくれた貴方は、今は、自分の裏切り者を助けるようになったか。
私はそこまで、貴方に嫌われてしまったのか。
ソロモンは心の中で呻いた。自分はすでに神から見捨てられたのだ、あの豪雨に打たれながら、そう悟った。
「陛下!」兵達の声。「追いましょうか……」
「……もうよいっ!」ソロモンは、鋭く叫んだ。
「もうよいのだ……!逃げおおせたのなら、それが神が望まれた道だということ!ヤロブアムは生きる運命にあると、天が言っているのだ!」
自暴自棄のような気持ちだった。ヤロブアムを無様に追いかける気にすらなれない。その時。
「ソロモン様」
そっと、自分の肩に小さな手が添えられた。
「宮殿に、お戻りください。雨に打たれては、弱ってしまわれますわ」
振り返ると、自分が心から愛した女性と同じ顔が、そこにいた。神が、自分と引き合わせてくれなかった彼女の顔が、十四年前と変わらずに、自分の王を見つめ、添いsて、自分の事を心配してくれていた。
ソロモンの赤い目に、涙がにじんだ。
もう、神は自分を愛さない。神は、ヤロブアムを生かされた。
自分のために戦ってくれたのは、この少女なのだ。

「……ビルキス……」
誰にも聞こえないような声で、呻いた。
彼女が、ここにいるかのように、自分を守ってくれているかのように、そう思えた。


「北に行っても無駄だ、マケダはヘズヨンの兵の上方も知っている」全く二人きりの荒野でネバトとともに馬を走らせながら、ヤロブアムは言った。
「エジプトに逃げよう。ファラオに匿われるほかはない」
「計画は失敗だな……」ネバトはヤロブアムを心配するような顔をする。だが、ヤロブアムは笑った。
「ネバトさん、そんな顔はしないでくれ。責任があるなら、あっさりと色に溺れて情報を部外者にぺらぺら話しちまったオレにある。オレ一人に。まったく……十四年前のハダドを笑えやしない」
ヤロブアムは頭を抱えて言った。全く、ハダドの事も、王子の事も笑えはしない。少女一人に夢中になって、人性をかけた計画を不意にしようとするなんて、笑い種もいいところだ。
「だが、オレは王になる運がやはりついてると見えるぜ、なあ?」
「……ヤロブアム、そのことなのだが」
「なんだ?」
「マケダに聞いたんだ。……お前の、父親の話を。ヤロブアム、お前には……王家の血が流れているのかもしれないぞ」
馬上で、ネバトは洗いざらい話した。ソロモンとかつて王位を争った兄、その名がアドニヤダルと言うこと。そして、彼の恋人と噂されていたアビシャグが、ツェルアであるかもしれないということ。
だがすべてを聞き終わった時、間髪をいれずにヤロブアムから飛んできたのは「はっ」と短く笑い飛ばす声だけであった。
「何を言い出すかと思えば……くだらない。あったこともない父親の血なんかどうでもいい。オレは、オレさ。よしんばそいつが父であっても、かたき討ちなんかする気はないね。オレが王位に立てれば、それでいいんだ」
「そうか……」ネバトは言った。「そうだな、くだらないことを言った」
「それにな、ネバトさん」ヤロブアムは言う。
「そんな奴、オレの父じゃねえ。母さんを孕ませたことが、そんなに偉いってのかよ。オレが昔から王になるのと同じくらい望んでいるのは……」
ヤロブアムは、一息飲んだ。緊張している様子だった。しかしそれでも、言った。
「ネバトの子ヤロブアム、って名乗っていいか、って事さ」
「何かと思えば」
やもめの子だったヤロブアムは、今までヤロブアム、としか名乗れなかった。だが、今までずっと、そんなことを望んでいたというのか。
「これから、いつでも名乗れ」
「ああ」ヤロブアムは笑う。
「よろしくな、父さん」
夜明けの時間だ。
エジプトに向かう荒れ野の道には、朝日の光が降り注ぎつつあった。


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