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クリスマス市のグリューワイン

feat: Solomon 第九十七話

「昨日、イスラエルの星空を眺めていたんです」
マケダは次ん日、ソロモンの向かってそう切り出した。
ソロモンはここの所、気分がすぐれないので人前に出る必要のある公務はザドクなどの代理に任せて、休んでいた。その際は、たいていマケダが側にいた。その時も、そうだった。
「ほう……」と、ソロモンは反応する。
「どうだね、面白いものは見れたかい?」
「私、空だけは変わらないものだと思っていたので……エチオピアを思い出したかったんです」マケダは言う。
「でも、少し違うのですね……エチオピアの空と、イスラエルの空は」
「どちらの方が、美しいと思った?」
「あら、美しさはどちらも同じですわ」マケダはさらりと返した。
「これは失敬……星が好きなのかね、マケダ」
「ええ……私は、昼より、夜の方が好きなのです」マケダはボソリと語った。
「夜って、何かに守られているような思いがして……」
「奇遇だね、私も同じだ」
星一つない夜空のような真っ黒なマントをふわりと揺らして、ソロモンはうなずいた。
この王女といて、こうしてたわいもないことを話す。今の自分にはこの程度しか、癒しがない。

昼を回り、マケダがエチオピア側の用事で一回部屋に戻ったころ、ソロモンのもとに「お父上!」とやってくる声があった。レハブアムのものだった。
レハブアムは、今朝起きてこなかったと聞く。今も、酷い熊ができていた。
「どうした?昨夜ろくに眠れなかったのか?」ソロモンはそれについて言及した。「自己管理くらい、しっかりとしろ」
「お父上、僕はそんな話をしに来たんじゃないですよ!」レハブアムは焦り気味に怒鳴る。よく見てみれば汗もかいて、息も上がっていた。ずいぶん急いでここに来たらしい。
「では、なんだ」
「その……ぼ、僕の、結婚の話なのですが」
「お前の婚約者はマアカだ、変えるつもりはない」ソロモンは間髪をいれずにそう言いかえす。レハブアムは怒ったように「ぼくの話を聞きもしないうちに、それはないでしょう!と言い返してきた。
「お父上!はっきり言います、僕は、マケダと結婚したいのです!」
その時、ソロモンは自分自身に驚いた。レハブアムが思いつめた様子で来た時点でこのようなことを言うとは分かっていたのだし、だからこそ間髪を入れずに先ほどのような返答ができた。
だから、まさにこの言葉を言われても、冷静にいられる気でいたのだ。それだと言うのに、ソロモンは損言葉を聞いた瞬間、反射的に息子をぎろりと睨みつけていた。
レハブアムが一瞬、びくりとなって、ソロモンは初めてその事実に気が付いた。
「……できると思うか、そのような事」
その事実に気が付いたところで、ソロモンはひとまず平常心に戻った。
「お前は私の跡取りだ、イスラエルに留まる必要がある。当然、妻もイスラエルに留まる者でなくてはならない。マケダは、エチオピア女王になるため、帝王学を積みにここにきているのだぞ。そんな彼女が、イスラエルに嫁入りなどできるものか」
「で、でもイスメニー様には何人もお子さんがいらっしゃるじゃありませんか!そこを何とか……」
「くどい。イスメニー殿が我々を信じて娘を任せたのだぞ。こちらの勝手な都合で裏切ろうものなら、イスラエルの信用にかかわる」
ソロモンは極力、取りつく島もないようにふるまおうとした。
「それにアブサロムの家の始末もつけねばならん、私の王子はお前一人、替えがおらんのだぞ。もう少し責任感という物を……」
「……うそ、ばっかり……」
ソロモンの声を遮るように、レハブアムは呻いた。
「なんだと?」
ソロモンも父として、威圧し返す。だが、レハブアムはもうそれでひるむ様子ではなくなっていた。
「全部うそでしょ、そんなの!父上だって、ぼくと同じだけだ!
「なに……?」と、ソロモンも言い返す。だが、彼がどうこう言う前に、とばかりに、レハブアムも必死で食いついてきた。
「父上だって、あの子を独り占めしたいだけなんじゃないですか!あの子を、僕や、他の奴に取られたくないんでしょう!後宮に妻が千人もいるくせに、まだ更に欲しいんですか!よりによって……よりによって、なんで、あの子なんですか!僕よりも年下の子ですよ!」
レハブアムは怒鳴りながら、ぽろぽろと泣いていた。劇場のあまりに。片一方のソロモンは、無論、涙など出なかった。そのようなものを流している時間も惜しいほど、息子の言葉に対してふつふつと怒りが込み上げて来ていた。
「なんで……なんで!父上は何だって持ってるでしょ!もうこれ以上はいらないじゃないですか!僕は……僕は、初めて女の子を好きになったんです!それなのに……」
「煩い!ごちゃごちゃ泣き言を垂れるな!」とうとう、ソロモンの方もレハブアムの言葉を打ち消した。彼よりもさらに大きな声を出して。
「そこまでめそめそ言うのならはっきり言ってやる、彼女はお前ごときに釣り合う程度の女性ではないわ、身の程をわきまえろ!」
ソロモンにとっては、その言葉もまぎれもなく本音であった。
あの憎いナアマが産んだということを差し置いても、自分の才覚などろくすっぽ受け継いでいない、わがままで世間知らずで、ただ子供っぽいだけのバカ息子。それと、自分を救ってくれたあの勇敢で聡明な王女が釣り合う二人だなどと、思えるはずがない。
この息子には、本当に長い間がっかりさせられてきた。あまりに出来が悪くて。それもこれもベナヤが甘やかしすぎたからだ、とずっと思ってきた。
それでも、一応自分の息子だ。唯一の王子だ。おまけに、性根を叩きなおしてやりたいと思うほどの愛着もわかない。だから、それなりに好きにはさせてきた。けれどこれだけは、此ればかりは、どうしても譲れない。マケダは、こんな箸にも棒にもかからない子供の妻などに収まる身ではない。
「お前は、彼女の何を見ている。見ているのならばそんな恥さらしなこと、思えるはずもなかろう。お前程度の男が……!」
ソロモンは赤い目で、このレハブアムよりも年下だったころは皆が嘲って来たから他人に向けられるはずもなかった赤い目で、ぎろりと息子を睨んだ。けれども、ヤロブアムは、その父の目に、恐れも嘲りもしなかった。彼にとってはただ、生まれてからずっと見てきた目でしかなかったのだから。
彼は悔しそうに、歯を食いしばっていた。
「なんですか。父上も……そんなに偉そうに言えた立場ですか?」
その言葉に、ソロモンも引き続き堪忍袋の緒が切れる。
「なんだと!?貴様、それが父親に向かって聞く口か!」
「父親らしいことなんて、僕は何もされてない!そんなことより、父上こそ恥ってものを知った方がいいんじゃないですか!?もう、若くないくせに!」
レハブアムの日とことん、ソロモンも一瞬、言葉が止まった。言われるとも思っていなかった人事だった。
「今、なんと……?」
「だってそうじゃないですか?僕より年下なんですよ、あの子……!父上とはあんまりに年が違いすぎるでしょう!そんな相手の事、好きになります!?若いぼくの方が魅力的に見えるのは、当然じゃないですか!まったく……いい年して、冗談じゃないですよ!」
ソロモンは、それにも何とか言葉を返そうとした。だがレハブアムは、もう聞きたくないとばかりに、グスグスとした涙声を残しながら、その場を急いで去っていってしまった。
今から、ベナヤのもとに行くのだ折るか。昔から、レハブアムはずっとそうだ。いつまでたっても、ベナヤに甘えている。

ソロモン自身、いざ、このような状況になって自分が動揺したことに、心の底から驚いていた。レハブアムの言ったことを、自分は否定できるだろうか。あのような罵り合いの中、どうしても認めるわけにはいかなかった。しかし、はっきりしている。彼が生まれて初めて、彼の方が理解が及んでいた。自分は、嫉妬していた。レハブアムなんぞにマケダを取られたくないと、心の底から闘争心に燃えていた。
ビルキスと共に居た時ですら、ここまでの執念に取りつかれたことはない。だが、本当に彼は、仮にも自分の実の息子の心を追ってでも、マケダが他の男の物になることを許せなかった。
マケダは、自分のものだ。
誰が、なんと言おうとも。
そのような考えが、ソロモンの脳内にこだました。
だって、そうじゃないか。例えレハブアムが、自分と全く同じような優秀な息子であったとしても、許せない。
彼は、自分ではないのだから。
十四年前、あの誰よりも美しかった、誰よりも輝いていたシバの女王ビルキスと愛し合った男では、ないのだから。
マケダとビルキスが別人だ、と言う当たり前のことが、彼の頭の中から消え失せていた。あれは、ビルキスだ。そうに違いない。ビルキスがまた、自分に会いにいてくれたのだ。
神は、自分たちを祝福しなかった。祝福されていたと思っていたのは、自分だけ。
それでも、ビルキスは自分の所に来てくれたのだ。神が望まなくとも、彼女が望んで、来てくれた。自分とビルキスが、神によって引き合わされた関係でなど、あるものか!自分たちは、ただ偶然に出会ったのだ。そしてただ偶然に出会い、狂おしいほどに惹かれあったのだ。

誰にも、渡せない。
魂の結びついた恋人、ビルキスの生まれ変わりのごときあの少女を、何故、他人に渡せる。
ビルキスは、このソロモンの妻だ。誰か望まずとも、永遠に、自分たちはともにある存在なのだ。

その日の晩餐の事だった。
自分と隣り合って夕食を食べるマケダに、ソロモンは穏やかな声で話しかけた。
「マケダ」
「はい」彼女は素直に返答する。
「今夜、私の部屋においで。君にあげたい宝石がある。きっと、君が見てきたどんな宝石より、立派なはずだ」
「まあ……!」マケダは目を輝かせた。
言葉の意味だけを捕えて無邪気に喜ぶほど、物知らずでもなかろうに。彼女は、断ることもできたはずだ。伴をつけるなり、折衷案を出すこともできたはずだ。
だが、彼女は素直に「楽しみですわ、陛下」と答えた。彼女の笑顔は、本当に美しい。十四年前も、自分の隣に、このような笑顔があったのだ。

その会話を、献酌官の一人が聞いていた。ソロモンにとっても、別に隠したいことでもなかった。
だがじわじわと、献酌官から別の献酌官へ、給仕たちへ、うわさは広がっていく。ソロモンはマケダを妻にする気だ、と言う噂と絡んで、その言葉は衝撃となるには十分な器すぎた。
どんな妻でも、どんな女でも、ソロモンは自分の寝室にだけは呼ぶことがなかったのに。
そして、決して彼の耳には聞こえなかったはずのそのひそひそとした話し声がレハブアムの耳に届くのも、時間の問題だった。
レハブアムは給仕たちの驚いたようなひそひそ声を聞く形で、父の言葉を知った。そして、同様のあまり、金の盃を倒してしまった。
白絹のクロスに、赤いぶどう酒がじわりじわりと広がり、やがて床にたれていく。自分が王宮にも治められるほどの最上質の葡萄酒であることも、自分が汚しているのが外国からも継がれた白絹であるということも、何も知ることなしに、自分自身もその絹も、ただの汚物に変えていく。
もし、血が出る形で人が死んだらこう言う風になるのかな。レハブアムは、その光景を眺めながら、そう考えた。

晩餐が終わってからマケダは、早めに侍女に湯あみの準備を指せた。侍女が「できました、どうぞ」と言うと、彼女も向って、侍女にその身を預ける。帯を解かれると、現れるのは細く柔らかい、十四歳の美少女の肉体そのもの。
昔からずっとマケダを世話してくれた、老いたエチオピア人の侍女は、マケダの体を注意深く洗い、ほぐしながら言った。
「特別な香料を用意いたしました。殿方がお好きな香りを」
「うん……その方がいい」マケダは笑う。
「ようやく、ここまでこぎつけたのだ。思った以上に、用心深い王だったが……もうそれも今夜限り。一晩過ごせば、もう、こちらの物」
「マケダ様……」
「どうした?私の事を心配しているのか」マケダは、少し曇った侍女の顔を見て、柳眉をひそめた。
「お前も、母君と同じようなことを言うのか?」
「……私も、貴方様とご事情は全く違えど……貴女様ほどの年頃に、家のために体を売ったのです。その時の事を、どうしても……」
「知っている。辛い事であったな……だが、安心しろ。私と、お前は違う。私は望んでいるのだから。この復讐を……私自身、心から……」
マケダは香料の香湯から立ち上がる。膨らんだ胸、細い腰。全て、この日のためのものと知り、磨き上げてきたもの。それは間違いなく、自分の意志であったはずだ。嫌だ、と思ったことは、一回だってないのだから。
「見ていて。もうすぐ……計画が成就するから」マケダはポツリと、その場にはいない相手に向かって呟いた。

髪をふき、着物を着せる。侍女は丹念に、ソロモン王の部屋に赴くマケダの身だしなみを整えた。
式場に向かう花嫁のように、宝石時や派手な衣装などつけない。化粧も、ごく薄くしかしない。だが、その手間暇は、花嫁を飾りたてるときのそれと、遜色ない。
新婚初夜を迎える乙女の準備を、手伝っている気分だった。
「すみました、マケダ様」
「ありがとう」彼女はそう言い、ゆらりと立ち上がった。
「おい」彼女は振り返る。「どうだ。今の私は……美しいか?」
「ええ。殿方の気持ちなど知るよりもございませんが……美しゅう、ございます」侍女は純銀を磨き上げた姿見を動かし、マケダの前においた。
「いかがですか?」
「ああ……美しいな」マケダは笑う。「本当に……これほどの娘に心惹かれぬ男など、いるまいよ。若い女が好きでさえあればな……」

夜の王宮は、しんと静まり帰っていた。マケダは、侍女もつけずに明かりを持ちながら、一段一段、王の部屋に向かう階段を上がっていく。
だが、その道中、一人の男と会った。彼の持つ光が、そのあどけない、苦労など何も知らずに育ったのであろう顔を、ぼうっとオレンジ色に照らしていた。昨夜もあったというのに、昨夜以上に、悲痛な顔。軽く震えている。寒そうな様子だ。きっと、ここでずっと待ち構えていたに違いない。
「あら、今晩は、王子様」
彼はマケダを見るなり、挨拶もせずん、取りすがるように言った。
「マケダ……ねえ、お願いだよ。父上の所に行くのは、やめた方がいいよ」
こいつはこう言うやつか、と改めてマケダは思った。気の利いたことの一つも言えない。ヤロブアムに負けず劣らず、自分に心底惚れぬいているのは本当なのだろう。だが、ヤロブアムは少なくともこんな状況で、捻った言葉の一つや二つでも言ったし、こんな死にそうな顔などせず、もっと強気に構えていたはずだ。こいつは、それすらできない。
「なぜです?」マケダは、とぼけて見せた。
「なぜって……分からないの!父上は……父上はどんな時でも!自分以外の人を自分の寝室に入れる事なんて、なかったんだ。其れなのに、君には、許すなんて……」
「私、陛下に気に入られているのね、光栄ですわ」
「そんな話じゃないよ!だから、ええっと……」
彼自身、言葉を選びかねているのだろう。ばかばかしい、なんでわかっていることをはっきりと言わないのか、マケダはそう思った。
「ねえ、お願いだから……きっと、父上は、これから君にひどいことをするよ。僕……君がそんな風になってほしくない」
「酷い事?」マケダは媚態を含みつつ笑って、黒髪をかき上げて見せた。レハブアムの心がざわめいたのが、見て取れる。本当に、単純な王子だ。自分などとは、全く違う育ち方をしてきたのだろう。
「そんなこと、されません。陛下は私に、宝石を下さるんです。若い娘は、宝石が好きなものですわ。私も、多分に漏れません」
「宝石くらい、僕がいくらでもあげるよ!」レハムアムは顔をしかめて、叫んだ。だがその必死さをあざ笑うように、マケダはどこまでも、冷静だった。
自分の計画が狂わされる、とすら思えなかった。話せば話すほど、この王子の薄っぺらさが見て取れる。
むしろこれはこれで、生きづらかったろう。
イスラエルの王、と崇められる父の唯一の後を継ぐ存在として、余りに力不足すぎる。ヤロブアムもそうだが、きっといつでも、お前がもう少し優秀なら、と言葉に時に出され、時には出されずに、言われて育ってきたことだろう。ある種では、皮肉でも何でもなく、哀れな存在だ。なぜ、ヤロブアムとレハブアム、イスラエルの神はこの二人を、それぞれあべこべの境遇に置かなかったのだろう。そうすれば、お互いもっと、生きやすかったに違いないのに。
「……王子様が持っております?王子様が、陛下以上のものをお持ちになっているわけないでしょう」
ただ、そんなことは、自分には関係ない。自分が動かすのは、計画に必要な分だけでいいのだ。レハブアムにはレハブアムの幸せがあるだろう。だが、自分には自分の計画がある。目標があり、幸せがある。こんな王子よりも、十四年間とも共に生きた自分自身、そして、自分を育ててくれた「彼」の事を重視する。ただ。それだけのこと。ごくごく、当たり前のことだ。
「なんで、そんなこと……」レハブアムは涙を必死にこらえている様子であった。
「ねえ……僕、君が好きなんだよ。君がイスラエルに来た時から、ずっと、君の事しか考えられない……」
とうとう、涙がこらえきれなくなったのだろうか、レハブアムは必死に目を開きながらも、その相貌からぽろぽろと涙をこぼした。レハブアムの眼もとは、ソロモン似だ。其れなのにその目つきは、全くと言っていいほど似ていなかった。育ち、才能、性格、それらすべてが、形だけの類似など覆い隠してしまうのだろう。
「父上のもとになんて、行かせられない。君を……」
「私の事が好きだとおっしゃいましたか、王子様?」マケダは首をか傾けて、おうむ返しに聞いた。
「うん……」
「私は、貴方の事を、好きでも何でもありません」
いずれにせよ、彼の相手をするのも疲れた。自分にはソロモンと言うターゲットがいるのだ。こんな王子など、ものの数でもない。
あちらが言葉を飾る余裕もないのなら、こちらも包み隠さず、必要なことを述べるまでだ。

レハブアムはその言葉に、目に見えてショックを受けている様であった。何も言えない様子であった。
「なんで……」彼は、呻く。「僕は、こんなに好きなのに……」
「だって、貴方といても何も面白くないんですもの」マケダははっきりと、彼に追い打ちをかけた。
「ソロモン王と話していると、違います。あの方は何でもご存じですし、いつもお話しが興味深いですわ。でもあなたは、本当に教養のなさが話せば話すほどにじみ出ます。言葉を飾る術も、話を面白くする知識も、貴方には何もございません。一緒に居ても、退屈なだけ、そう言う方と共にいるなんて、願い下げですわ」
まあ、ここまで言えば追ってはこなかろう。この王子とて、悪い所ばかりではない。それは、話していてわかった。
彼はすれていない。善良、と言っていい部類には十分入るだろう。だからこう言った自分をなおも追いかけまわしたり、逆恨みするほどの歪んだ気概も、持ち合わせている人物ではない。
レハブアムは、もう返答ができない様子であった、すすり泣く声しか聞こえない。「失礼」と言い残し、マケダは階段を上った。
「どうして」後ろから聞こえる声に、マケダは振り向かなかった。最も振り向く必要もなかったかもしれない。それは、マケダに向けられた言葉ではなかったのだから。
「どうして、父上は、いつも……」

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