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クリスマス市のグリューワイン

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feat: Elijah 第九話

アラム軍に大勝利をおさめたとあって王宮ではにぎやかな宴会が開かれていた。
「ミカヤ、どうしたんだ?不機嫌そうな顔して」
ふと、部屋の端でむすっとした表情で暇そうにしていたミカヤのもとに、一人の少年が顔を出した。まっすぐな黒髪と、鋭い目つきを持った彼はミカヤよりも一、二歳ばかり上のように見える。
「なんだ、エフーか」
ミカヤは面白くなさそうな表情を崩すことなく答えた。
「だって実際に面白くもなんともないもの」
エフーはイスラエル軍に仕える軍人である。若いながらも、凄まじい腕前の持ち主で、将来を期待されている身だった。
「そうか。オレも面白くないよ。面白くないもの同士、仲よくしようじゃないか」
「寄るなよ」ミカヤは不愛想に、エフーのほうを振り向こうともせず返す。「君は勝手に楽しんでりゃいいじゃないか。ほら、踊り子が踊りを始めた。君の上官と一緒に楽しんできたらどう」
「あんな奴ら、可愛くないからな」エフーは笑ってミカヤの顎に手をかけた。「なんなら、お前のほうがずっとかわいい」
「寄るな、うっとうしい」
「不愛想にしてると、可愛い顔が台無しだ」
「気持ち悪いんだよ。ボクに構うな」
ミカヤはその手を乱暴に振り払うと、宴会場から出て行こうと、大きすぎる外套の裾をからげて踵を返した。
「おい、どこ行くんだよ」
「ボクはボクが行きたいところに行くだけだ、邪魔するな」
「どこともわからないところに?」
「今度こそは分かる気がするんだ」
エフーはくすくす笑って、廊下に出たミカヤに小走りで近づくと、わざとらしい声音で言った。
「鴉が何羽も洞窟に集まっているのを見たって言う情報があるんだ、知りたくないか?」
その言葉を聞くと、ミカヤは速足でその場を去ろうとしていた先ほどまでの態度はどこへやら、ぴくりと動きを止めたかと思うと、すぐに元の道を引き返してエフーのほうに寄ってきた。エフーは面白そうに笑った。



荒野の真ん中で、エリシャは一人、川の水で鍋を洗ってきた。どういういきさつか知らないが荒野に転がっていた壊れかけの鍋である。おそらく、昔ここも戦場になるか、あるいは遊牧民が来るかなどして、そのまま打ち捨てられたものではないかとエリシャは思った。彼らは今、小さな川が近くにある洞窟にとどまっていた。

結局あの後、エリシャは太陽が落ちて昇るまでその場においておかれ、朝が来るや否や鴉が一羽迎えにやってきて、この洞窟にたどりついた。エリシャがたどりついたとき、エリヤは洞窟の奥に身を横たえて、疲れたように眠っていた。起きる気配はなかった。彼のわきには、肉をむしって食べられたような野生のヤギの死体が転がっていた。おそらく、エリヤとカラスが食べ散らかしたものだろうとは推測できた。荒野で生きるたくましさだろうか、エリヤは時たま狩りをする。それも、彼はほとんど荷物らしい荷物は枝でできた杖くらいしか持ち歩かないので、刃物など無しに素手で野生動物に立ち向かうのだ。それで勝つのだから、初めて見たときエリシャは混乱してしまい、自分の師が今何を行ったのかしばらくは理解できなかったほどだ。
おまけに、エリヤは当たり前のように生肉を食べる。調理するということをしないのだ。だからきっと、こんな無造作に肉を引きちぎって食べたんだ、とエリシャには簡単に想像できた。エリヤの周りにいる鴉たちは、そのヤギをつついていた。ふと、エリシャには、荒野に寂しげに転がった壊れかけの鍋が目に入った。

「ん……ああん?なんかすげーいい匂いすんな、なんだこれ、おいエリシャ、なんだこれ、ってああ、エリシャいねえのか……ってうわ!いるじゃねえか!おはようエリシャ!」
「おはようございます……凄い独り言ですね」
「まあな。場所分かったみたいでよかったぜ」
彼はにっこり笑うと、エリシャのほうに「ところで、何してんだ?」と寄ってきた。エリシャは、たき火を起こして鍋で何かを煮ていた。
「師匠が寝てる間に、料理してたんですよ。ちょっと勝手ですけど、あのヤギ、使わせてもらいました。あと雑草と木の実で適当につくったんですが……」
「マジかよ…料理?」
「はい。たまには生肉じゃないものを食べたほうがいいですよ、師匠」
エリヤは煮えた鍋を覗き込んだ。「すげえ……旨そうだな」と彼は感心したように言った。
「お召し上がりになります?」
「もちろん!」
彼はそういうが早いが、「あ、熱いから気を付けて……」といったエリシャの言葉が終わらないうちに煮えたヤギ肉を食べ始めた。かと思うと次の瞬間、目を真ん丸に見開いて、感嘆したかのような声で言った。
「すごいじゃねえか!お前、こんなに料理うまかったのかよ!?うまい!すげえうまい!」と、エリヤは目を見開いて物凄い勢いで食べた始めた。
いつのまにやら鴉たちも集まってきていて、ひとかけらも他に渡してはなるかと必死で食べ散らかした。エリシャは嬉しい半面、少しばかり戸惑わざるを得なかった。
「やー……マジでうめえな。すげえよお前……」
「ありがとうございます。でも師匠……師匠が普段ろくなもの食べてないだけのような気もするんですが……」
そんな会話をしつつエリシャも自分の分を食べ始めた。午前中の明るい光とたき火の光の両方にに照らされたエリヤの顔を、エリシャは見ていた。彼と出会わなければ、彼のような暮らしをする人間の存在など夢にも思わなかっただろう。修行者とて、さすがに食べ物に火は通す。一緒に旅をするだけでも、彼は本当に普通の自分達とはかけ離れた感覚を持っている。それが彼を神がかりの人間とした理由の一つなのだろうか?あるいはそれは結果のほうなのだろうか?
エリシャはそのようなことを考えながら、疑問に思っていた一つの事を口に出してみることにした。
「師匠」
「ん?」
「あのミカヤって人は、誰なんですか?師匠と知り合いのようでしたけども」
ミカヤの名前を気うと、エリヤは少し困ったような顔をした。
「んー……誰って言われると説明しにくいんだが……平たくいやあな、二年前からずっと、俺についてきたい、って言ってるやつなんだ」
「そうですか……確かに、そんなことは言っていましたが……」エリシャは怪訝そうな表情で言った。「あの……それは分かったんですが、師匠、彼に追われて凄く焦ってましたけども」
「言ってくれるな」
「どうして彼から逃げようとするんですか?付いてきたいのなら、それでいいのでは……」
「んな単純な問題でもねえんだよ、エリシャ」エリヤは言った。
「俺がお前を連れてるのは、神様が俺についていく存在がいる、って言われたからだ。それがお前だった。ミカヤの時は、そんなことは言われなかった。……と言うか、それどころか、あいつを連れて行くな、とまで言った」
「そうなんですか……?」
「おうよ。とにかくそう言ったことで断ったんだが、引き下がろうとしなくてな……言っても言っても聞いちゃくれねえから、結局逃げることにしてるんだ。あいつもいつか諦めてくれるだろうと思って」
エリヤは、少し困ったようにため息をついた。エリシャは、少し不思議な気持ちだった。エリヤの言ったこと、神の言ったこと、あまり納得がいかないように思えたのだ。エリヤとしては神の決定に従っているのだろうが、やはりその決定の根拠がないことに納得がいかないのだ。あの少年はそこまで邪悪そうにも見えない。それほどエリヤに付き従うものとして不適切だろうか?
エリヤはもうこの話はやめと言わんばかりに食べることに戻っていた。エリシャもそれ以上、何か問いかける気にはなれなかった。
あらかた食べてしまった後、エリヤは「エリシャ、まだ肉のこってるよな?」と言った。
「おなじ奴を、今日の夜も作ってくれるか?」
エリヤは、母親に好きな料理をねだる子供のような無邪気な顔でそう言った。エリシャも「はい、もちろん」と返した。


そんなわけで数日して、エリヤはすっかりエリシャの料理が気に入ってくれたようで、今日はヤギ肉が切れたからと言うことで獲物探しに出かけているのだ。エリシャは留守番である。
鍋を洗い終わった彼は、一人川の水の冷たさを楽しんでいた。ギラギラと太陽が照る中、川の水がとても冷たくて気持ちいい。そういえば、故郷でも暑い日は家族や隣の子供と一緒に水遊びをして楽しんだな、とエリシャは思った。
ふと、水をいじる手に影が落ちた。エリヤかと思って彼は振り返ったが、いつの間にかそこに立っていたのは、別の人物だった。
エリシャは顔を上げて、はじめ、彼が男だか女だか分らなかった。だがサイズが合っていないとはいえ男の服を着ているのでおそらく男だろうとは思った。長い髪を三つ編みに編みこんでいて、あまり高くはない背で川べりにかがむ自分を見下ろしていた。何か、敵意を含んだような視線だった。
「あの…」エリシャは立ち上がって言った。「どちら様……ですか?」
「…ねえ、君誰?」
その少年、ミカヤはエリシャの答えに返答もせず、不躾にそう言った。
「……え?」
「君誰って言ってるんだよ。……ここ、エリヤがいるんじゃないの?ねえ、エリヤはどこ?」
彼は怒ったような口調でそう言った。エリシャが立ち上がればエリシャのほうが背は高いが、ミカヤは全く彼に目線を合わす気もなく、周りをきょろきょろ見渡した。
「え……えっと、その……なぜ、師匠がここに……」
「ああ!?そう言ったってことは、やっぱりエリヤはここにいるんだね!ねえ、君誰なの!?なんでここにいるのさ、エリヤがいるところに!」
エリシャは戸惑った。全く会話が通じない。彼の問いに答えたほうがいいのではと、彼は判断した。
「え、えっと……何故と言われても、僕は師匠の弟子だから……」
「何言ってるの!?エリヤは弟子なんてとらないよ、嘘つくな!」
彼は掴み掛るようにエリシャに寄ってきた。エリシャはようやくそこで、彼があのミカヤであるということに気が付いた。
「ねえ、変なこと言ってるなよ!なんで君、エリヤについて回ってるの?何が目的なのさ?」
エリシャは完全に当惑した。何を言っても話を聞いてくれそうにない。いったい何をどう説明すればいいのか、と言うか説明したとして、この目の前の彼はそれをまともに聞いてくれるのだろうか……。
その時、「おおい、エリシャ!」と陽気な声が聞こえた。振り向くと、エリヤが自分の体より大きい巨大な鹿を背中に背負って意気揚々と帰ってきたのだ。
「見ろよ、こんなでかいの捕まえ……って、あれ?」
彼は鹿を地面にドサリと落として、目をぱちぱちさせた。
「え……ミカヤ、なんでお前がここに!」
「エリヤ!」
ミカヤはそういうと、エリヤのほうに駆け寄った。エリヤも不意を突かれたのか、逃げることができずに、ミカヤに着物の袖をつかまれた。
「ふふ、つかまえた!」
そう笑うミカヤの顔を見て、エリシャは、エリヤが彼を連れていけない理由が少しわかったかもしれない、と内心でつぶやいた。


「あの……ミカヤ……」
「エリヤ、会いたかったよ!久しぶりだね、こうやってお話しできるの!」
どうしようもないので、結局エリヤとエリシャは彼を洞窟の奥に通した。彼は笑顔でエリヤに話しかける。
「あの……とりあえず、まず言っとかなきゃなんねえんだが……ここにいるエリシャは俺の弟子だ。そこは本当だから……勘違いしないでくれ」
「うん、ボクそこを聞きたかったんだ」ミカヤは言った。「ボクが貴方と初めて会った時のこと覚えてる?貴方、ボクに言ったよね。『俺は一人で十分だ、誰もついてくる奴なんていらん』って!ねえ……それなのになんで、こんな田舎臭い男の子を連れてるわけさ?」
「神様が言われたんだよ……そいつを連れていけって」エリヤはため息をつきながらそう言った。エリシャとしては、全く置いてけぼりで、隅の方で黙って二人の会話を聞いていた。話しを聞く限り、エリヤとミカヤの関係は確かにエリヤから聞いていた通りだった。ミカヤは再三再四エリヤについていきたいと言い張り、エリヤは神様が駄目と言ったから連れて行くことはできない、と言い張っていて、その押し問答が延々と続いていたようである。そして今に至るというわけだ。
ただ、今話をややこしくしている要因として、エリシャがあるということなのだ。ミカヤはエリヤが自分を連れて行かない理由は、かつてエリヤが弟子など取らないし誰も連れて行かないと言ったことを根拠にしているのだ。そこになぜか見知らぬエリシャがいるから、彼は全くもって面白くないらしい。
「でもさ、エリヤ、弟子を連れて行けるようになったんなら、ボクだって一緒に連れていってくれてもいいでしょ!?あ、もちろん宮廷預言者なんてきっぱりやめるよ!だって、アハブなんかについていくの正直もうイヤだし……」
ミカヤがふと、切り返すように発言する。
「それとこれとは話が別だ。俺はエリシャ以外の弟子は取らねえ。頼むからわかってくれよ……」
「それは無理。だって、ボクが付いていくべき人なんて貴方しかいないもの」
ミカヤはエリヤの言葉を遮るように、きっぱりとした口調でそう言った。
「エリヤ。貴方だけが、ボクを救ってくれた。貴方、ただ一人だけが」

ふと、ミカヤの言葉が重々しい響きを持って洞窟の中に反響した。彼は、それ以上は言わなかった。
一体どういう意味なのだろうか、エリシャにはもちろんわからない。ただ、彼から見えるミカヤの女性的で優美な横顔は、確かにエリヤ一人を心のよりどころとしている色が見て取れた。どこかしら、男にすがる女のような艶っぽさも見て取れて、エリシャは思わず何か照れくさい気分になった。
「ねえ、お願い。良いでしょ、そばにいても。ボクこそ、この世で一番、貴方を…」
ミカヤがそう言ってエリヤに近づこうとした途端、外の方から蹄の音が聞こえた。エリシャがそちらの方を見ると、「すみません、ミカヤはこちらにいますか?」と、また別の少年の声が聞こえた。

「エフー!?」ミカヤは驚いて声を上げた。
「ミカヤ、もう充分だろ?さ、王宮に戻ろうぜ」
「やだよ!ボクはこの人と一緒にいるんだから!」
「どーせそれを許可してももらえなかったんだろ?」
エフーは笑って、洞窟の中に入ってきた。入ってきたかと思うと、ミカヤをひょいと持ち上げて、自分の肩に乗せた。小柄なミカヤは、あっさり背の高い彼の方に収まった。
「離せ、こら!」
「あー……ひょっとして、あんたが預言者エリヤ?どうも、はじめまして。なんか、オレの友達が迷惑かけましたね」
「友達なんかじゃない!お前が勝手に名乗ってるだけだろ!」
肩に少年一人を載せておきながら、全く余裕そうな顔でエフーはエリヤに言った。その体制のまま膝をついてお辞儀の姿勢すらとった。
「いや、別に……君は?」
「エフーと申します。アハブに仕える軍人見習いですよ]
「エフー……」
「……ああ、安心してください。アハブに仕えるったって、オレはあんたの居場所をアハブにたれこんだりしませんよ。オレは、あんたを応援してるんで」
エフーは隙のない顔でにやりと笑いながらそう言った。
「オレの家は代々宗教には保守的でしてね。バアル信仰の際にもずっと反対し続けてたんです。あんたのおかげであの糞忌々しいバアル信仰が消えたばかりか、オレたちみたいな保守派の家も復権することができて、ほんとに助かってます」
「あー……そりゃ、どうも。だがそりゃ、俺じゃなくて神様の力だ。そのことも忘れないどいてくれ」
「はい、それももちろん」エフーは笑ったままそう言った。
「ま、オレがたれこむかを信じるか信じないかは、あんたの自由ですけどね」
「いや、俺は信じるよ」エリヤは即答した。「君が嘘つくとも思えん」
エフーは満足そうに笑って、暴れるミカヤをものともせず立ち上がった。「んじゃ、オレたちは帰りますから」
「ボクは帰らないよ!」
「帰るんだよ。……ああ、そうだ、預言者。あんたに一つ、言いたいことがあるんだ」
「ん?なんだよ?」
「オレなあ、二年前の事件のときには来てなくてあんたを見るのは初めてなんですが……あんた、どんな野獣みたいな無骨な男かと思ってたけど、なかなかどうしていい男ですね」
エリヤはその言葉を聞いて少し冗談めかして笑うと、「はは、どうも。んじゃあな、エフー君」と手をヒラヒラ振った。エフーはエリシャのほうに向かうと「ああ、お弟子さん」と声をかけた。
「手土産がてら豆とか麦とかもってきたから、おいてくぜ。後でとって食べてくれればうれしいな」
彼はそれだけ言って、馬に乗ってさっさとサマリアに帰っていった。ちなみにミカヤはずっと彼に担がれたままで、ミカヤの乗ってきた馬は彼の馬の後ろを無理やり縄でつないで走らされた。


その日の夜は、エフーの持ってきてくれた手土産のおかげで豪華なものに仕上がった。エリヤも鴉たちも大喜びで食べた。
「師匠」
「なんだよ?」
「あの……ミカヤには、彼には、何があったんですか?」
エリシャは神妙な顔で、そう言った。ミカヤは過去に何かあって、エリヤを慕っているという風だった。その理由を知りたいと彼は思った。
「……知りたいのか?」
「はい」
「もしそうなら」エリヤは言った。「今は話さねえほうがいいかもな。……というのもだ、エリシャ。この話は、絶対奴の口から聞いた方がいい。……お前がより深く心にとどめておく必要は、おそらくあるだろうから。だから、俺じゃなく、当事者であるあいつの口から聞いた方がいい」
「そ、そうなんですか」エリシャは言った。エリヤは焚き火を消す。周囲は真っ暗になった。
「大丈夫、ひょっとすると、そう遠くねえかもしれねえから。あいつとまた会うのは」
「え?どういうことです」
「ひょっとすると俺たち、サマリアに向かうかもしれねえ。……そういう神様の声が聞こえたんだ」



サマリアの王宮では一つ、小さな問題が発生していた。しかし、アハブにとって、それは非常に大きなストレスであった。



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