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クリスマス市のグリューワイン

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feat: Solomon 第二十話



空の端に赤い朝日が出てきたころに、アドニヤは目覚めた。
「アビシャグ、起きて」
彼は自分の隣ですやすやと眠っているアビシャグを軽く小突いた。彼女は眠そうに眼を開ける。
「そろそろ夜明けだ。帰らなくては怪しまれるよ」
その言葉を聞いてようやく目が覚めたのか、アビシャグはあわてた声で言った。
「そうだわ!どうしましょう、アドニヤ様、このことがもしばれたら」
「大丈夫さ、意外とみんな気になんてしてないよ。王がだれと寝たか、あるいは一人で寝たかなんて。だって気にするのも野暮なことだもの。後宮のみんなはてっきり君が父と一晩過ごしたと思っているさ」
彼はそう言って、体を起こしたアビシャグの細い裸の肢体を優しく抱きしめ、うろたえる彼女をなだめるように軽くキスをおとした。彼女はそれを受けて満足そうに微笑むと、急いで服を身にまとい始める。アドニヤは寝台に寝ているままだった。
「アドニヤ様」服を着終わった彼女が、振り返って言った。
「ありがとうございました。……幸せ、本当に、幸せな時間でした。私が生きてきてここまで幸福に満たされた瞬間なんてありませんでしたわ。本当に……素晴らしかった」
「ありがとう。…それは、ぼくにとっても言えることだよ」
彼は裸の体を寝台に横たえたまま、そう言う。
「じゃあ、またね。アビシャグ」
「はい……アドニヤ様」
アビシャグの顔にはいまだ抜けきらない恍惚の色が見て取れた。
「アドニヤ様……愛していますわ」
「ああ。ぼくもだよ」
そう言葉を交わして、アビシャグは名残惜しそうに部屋を出て行った。彼女の足音は遠ざかっていき、やがて、まるで聞こえなくなった。
そのタイミングが少し過ぎたあたりで、アドニヤはだれもいない、見張りすら外に立っていない空間で、唐突に笑い出した。最初はまるで滑稽なものを見たようにふっと吹き出し、それからゲラゲラと笑い出した。朝の冷たい空気の中、彼の声は部屋の中によく響いたようだった。
「全くこの世は馬鹿ばかり……どいつもこいつも、皆馬鹿!ははは…真実愛するもの!一生に一度しか起こりえない、破瓜の相手に相応しいもの!おれは神じゃないさ、お前にとってその相手がどんな奴かなんて知るもんか。だが一つ言えるね、おれじゃなかった!これが運命の愛と言うのなら、これが愛のとばりと言うのなら、人が愛を尊ぶものか!」
彼は笑った。ただひたすらに笑った。何もかもが愉快でたまらなかった。息子に若妻を寝取られる父も、少しばかりの甘い言葉であっさり処女を男に捧げる女も、そして人以上の能力を持ちながら、自分にいいように利用される孤独な弟も。
「そう。それにしても、あのソロモン……お前も本当に馬鹿なんだな!まるで野犬は人間を襲っても、三日飼えば忠犬になるかのように!ソロモン、お前は犬だ、おれの犬だ!おれのためなら自分の恋心すらお前は抑え込むんだな、おれはお前のことなんてなんとも思っていないのも知らないで!飢えとはかくも恐ろしいものか、父に感謝せねばなるまい!おれはそのような環境に置かないでくれていた父に、あれほどのいい犬をこの世に存在させてくれた偉大なる父に!」
彼はもう一度布団をかぶった。寝たりないと思ったのだ。


起きてしばらくしたあたりに、アドニヤは父から呼び出された。さすがに昨夜のことが露見してしまったかとひやりとはしたものの、彼は何食わぬ顔で父のもとに向かった。そして、父が何かをとがめるかのような表情をしていないのを見て、どうもばれてはいないらしいと安心した。
ダビデは彼にたっての頼みがあって彼を呼んだらしい。たっての頼みというからにはどれほどの事かと思えば、ソロモンを自分のところに呼んできてほしいというのだ。
それほどの事かと思いはしたが、ダビデからしてみれば、自分が呼んだとてソロモンが素直に来るかどうか怪しいというのだ。そう語る父の顔には、どこか自分のほうからソロモンにのこのこ顔を出すことに対するためらいや恐れのようなものも感じ取れた。
「どういうわけだか、お前には随分なついているようだから」と、ダビデはアドニヤに頼んだ。「いって来てはくれないか。お前が言うのならば、あれも素直に来てくれよう」
「もちろんです、父上様」
アドニヤが快諾しないはずはなかった。どんな話があるのかは知ったことではないが、断ることではないと思ったからだ。


アドニヤがダビデのもとに来てくれないかと言った時、ソロモンは一瞬ダビデの名前を聞いて躊躇するような色を見せた。いや、躊躇と言うよりも、怪訝そうであった。今さらあの父が自分に何の用なのかと。それに関してはアドニヤも同じ気持ちだった。
「ソロモン。父上様は、本当に君に逢いたいと言ったんだ。ぼくの顔を立てると思って、一緒に来てはくれないか」
アドニヤがそう言って、ソロモンは無言で腰を上げた。外に出るでもないのに、彼はさっさとマントを着込んだ。そして、やはり何も言わないままにぴったりアドニヤの後をついてダビデの待つ場所に向かった。場所は、ダビデの王座のある大広間ではなく、彼の執務室だった。

執務室について扉を開けた時、彼らを驚かせたものがあった。執務室には王とナタンがいた。しかし、普段ならばその場にそぐわないような人物が、まさに王のそばに控えていたのだ。美しい女性。すでに花の盛りをとうに過ぎた年齢ながらも、いまだに他の女を圧倒するほどの美貌の輝きを失いはしない彼女は、バテシバだった。ソロモンの母親だ。
ソロモンは彼女を見て、憮然とした表情を崩さないまま、彼女に冷たい視線を向けた。彼女も同じような視線を向けてくるであろうと思っていたからだ。生まれてから彼女と目を合わせたことなど今となっては片手の指で勘定できそうな気すらしてくるが、そのすべてにおいて彼女が息子である自分を見る目とはそのようなものであった。その学習の成果だ。
しかし、次の瞬間、ソロモンは石造りの仮面じみた硬い表情にはあらわさねど、動揺した。バテシバは初めて見るような視線で彼を見ていた。彼女は笑っていた。自分を見て笑っていた。慈母と言う言葉に相応しい笑いを浮かべた彼女は、普段の苦しみと屈辱にあえぐ彼女よりも数段美しい。なるほど、聞こえた美女であると、バテシバに対する憎しみを踏まえても十分に納得できる華やかさがあった。
その彼女の表情を受けて、一瞬ソロモンは、自分の知らないうちに自分の肌に色が付き、髪の毛と目が黒色になったのだろうかと思った。しかし、マントの中から出てきた彼自身の手は相変わらず痩せこけた、真っ白な手だった。引き出した一本の髪の毛も、指の触感がなくてはあるのかもわからないほど白く、細く、弱々しかった。
「ソロモン様、どうぞこちらへ」ナタンが椅子をすすめた。ご丁寧に、窓にはカーテンが引いてあって直射日光は入らない。多少薄暗いがソロモンに対する配慮と言うことなのだろうか。ソロモンは椅子に座る前に「お兄様の椅子は?」と聞いた。
「ああ、アドニヤ……ご苦労だった。彼を連れてきてくれてありがとう、感謝しているよ」ダビデはアドニヤに向かって、そう話しかける。アドニヤは恭しい態度で、礼を言った。
「だが…すまない。これからの話は、私とソロモンと、バテシバと、このナタンのみで行いたいのだ。お前は席を外してもらえないかね」
「なぜです!?」
口を開いたのはソロモンだった。
「お兄様も一緒に……」
ソロモンは若干の不安を感じながらそう言った。この場にアドニヤがいなくなることを恐れていたのだ。彼にとっては、この場に心を許せる人間はアドニヤだけなのだから、無理はない。
ダビデは少し困ったような顔で、そっとアドニヤに目くばせした。アドニヤもアドニヤで、この場で一体どんな話し合いが行われるのか多少の興味はあったが、その視線を持って、自分はこの場から確かに離れなくてはならないのだということを自覚した。
「ソロモン、お父上を困らせないでくれ。後でぼくとはゆっくり遊ぼう、ね?」
彼はそう言って、ソロモンの頭を撫でる。ソロモンは取り残される孤児のような顔をしていると彼は思った。実際のところ、彼がこれから話すのは彼の実の両親であるというのに、全く不思議な話だと彼は思う。彼は半ば振り切るように、「それでは、失礼しました」とお辞儀をして、部屋から出て行った。立ち聞きをしようかとも考えたが、ばれた時のリスクなどを考慮すると、素直にその場から離れるのが一番いいと思えた。好奇心と保身を天秤にかけるようなことはない。


アドニヤに取り残され、仕方なくナタンに勧められるままに椅子に座った自分の息子に、ダビデは目を合わせた。バテシバも彼を見つめる。
「お久しぶりです、お父上様、お母上様」
久しぶりと言う言葉に多少の皮肉の色を込めて、彼はそう言った。そして、両親にお辞儀をする。彼のそばには、彼をどこか拘束するような立ち位置で、ナタンが立っていた。
「ああ、そうだな……今、お前はいくつだったか。……なかなか、背が伸びたな。そろそろ子供でもなくなってきつつある」ダビデはあいまいな言葉で返答すると、「ソロモン、今日はお前に話すことがあるのだ。この場にはお前と、お前の両親と、お前の後見人のナタン以外はいない」
その言葉はソロモンを安心させようとするものだったのだろうか。彼は、かえって表情をさらに硬くした。心の中でベリアルを呼ぼうと試みたが、なぜかベリアルすらその場に現れる気配はなかった。彼は観念した。まさか両親じきじきに自分をなかったことにしようという決心がようやく固まったというわけでもなかろう。いや、そうだったらそうだったで別に何も困ることなどない。これ以上生きていてしたいことも特にないのだから。シクラメンの世話を誰がやるのかが多少心配ではあるが。
何も言わずにダビデの次の発言を待っているソロモンを見て、ダビデは机に置いた宝石箱を開けた。そして、中からルビーの指輪を取り出す。ダビデの紋章である六芒星の刻まれたその指輪は、ソロモンの瞳のように、透き通りすぎていっそえげつないと言うべき赤色に輝いていた。
「ソロモンよ、これがなんだか分かるかね」
「お父上様の紋章の指輪でございます」
「そうとも、私の紋章だ。これを所有できるのは私だけだ。もしくは、私を継ぐ者のみだ」
ダビデはそれを親指と人差し指でつまみ上げ、宝石箱の外気にさらす。
「ソロモン、これをお前に譲ろう」
ダビデの発言を受けて、ソロモンはすぐに言い返せなかった。状況が呑み込めなかった。思いつめたような表情のダビデと不気味なほどに明るく微笑むバテシバ。ナタンの顔は角度からして見えない。外気にさらされ少々所在なさげに輝く指輪と、彼は最も感情を共有できているかのような気分だった。

ダビデは自分の椅子をから立ちあがり、ふとソロモンの手を取ろうとした。ソロモンは反射的に、その、自分に向かって伸ばされてきた手を振り払い、平手で打った。何か考えての事ではなかったが、心臓が跳ね上がる思いではあった。ぴしゃりという音が響き、彼の手はダビデの手をはたいた。その後、少しの沈黙が生まれた。
「まあ、何をするのです、この子は」最初にものを言ったのはバテシバだった。「お父上様をひっぱたくなんて」
「よい、バテシバ。許してやれ」ダビデが鷹揚に言う。「ソロモン、指輪をはめさせてはくれないか」
「おっしゃることを理解しかねます」ソロモンは手を引っ込めないまま言った。
「その指輪は、アドニヤお兄様にこそふさわしいのではありませんか」
「ナタン、説明してくれ」ダビデはナタンに言う。横に座っていたナタンが、そっと近づいて、話し始めた。
「ソロモン様、手短に申します。私のもとに、神の預言が来たのです。内容は、貴方を玉座に据えろと言うものでした」
ナタンの言葉を聞いて、さすがにソロモンも同様の色を顔面に出すことを止められなくなった。彼は目を瞬かせて、不審なものを見るかのようにナタンを眉をひそめて睨みつける。ナタンはそれを受けて自分も表情をしかめたが、なおも続けた。
「本当でございます。玉座にあなたが座っておりました。王の清め油も、王冠も、まるで即位する者そのままに。そして…実は、昨日の今日の預言ではないのです。ソロモン様。貴方様が二歳の時にも、私は同じ預言を見ました。そして、あのアブサロム王子がまだご存命の時にも、私は同じ夢を見たのです。これはただの夢などではありませぬ、神の預言です。ソロモン様、貴方がイスラエルを継承するお方なのです。アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神が選んだ、王の器なのです」
ナタンは、預言のグロテスクなビジョンについては一切話さずにソロモンにそれを語って聞かせた。ソロモンは信じられないと言った体で、それを聞いていた。
「我々としても信じがたい」ダビデは言った。
「だが、神のお告げとあらば、お前はきっとイスラエルに相応しい王になるはずだ。私たちの思う以上に。……今日は、その話をするためにお前を呼んだ。どうだ、ソロモン。私の病は治らない。私もそろそろ、後継者を決めねばならんのだ。後継者となる気はないか」
ソロモンは黙って聞いていた。全くもって非現実的だった。たったの数分前まで、自分はひっそりと死ぬことを何よりも望まれた身だったというのに、この目の前の人物たちは自分に何を言っているのだ。後継者だって?理解ができないにもほどがある。正気のものならばこのようなことを言うはずがない。奴らは全員狂ってしまったのだろうか?
しかし、その非現実性が、かえって「神の預言」と言うことにおいて説得力を持っているようにも思えた。神とは人間とは無縁なものなのだ。人間と違う感覚を持っていたとて何がおかしいものか。現に、天使であるベリアルは人間の理解を超えた範疇の世界にいる。人間の理解の範疇において、しっかりと姿を持った物質が特定の人物には認知され、別の人物は無と同じであるということなどはありえない。そのような次元のものであれば、この理不尽もまた道理であろう。人間としての常識からすれば、ダビデとてアドニヤが王位についた方がいいに決まっているのだ。
ああ、そうだ。この話を受けたら、アドニヤはどうなってしまうのだろうか?と、ソロモンはふと考えた。しかし、あるアイデアが心の中にひらめいた。
「(そうだ……俺が王になれば、俺はそれこそお兄様の望めるものは何でも与えられる立場になるじゃないか!俺はお兄様に尽くすことができる。お兄様が王位につきたいと言えば、すぐにでも譲ればいいんだ。どうせ奴らも、俺が永遠に玉座につくことなど望んでいなくて、形式的にいやいやこのような場を設けているに過ぎないことくらい、顔と声色を見てわかるのだし、誰も損はしないじゃないか。それに、もしもお兄様が俺を許してくださるのなら、それこそ俺は全てをかけてでもお兄様の世話をしよう。それが何よりの恩返しじゃないか)」
ソロモンの頭の中にその考えが浮かんだ瞬間、彼はふっと口角を緩めて、父のほうを見た。
「父よ、私にはもったいない話でございます。……ですが、イスラエルは神の国。神の命であるというのならば、私はお受けいたしましょう」
そう言って彼は、手を差し出した。
ダビデは自分の事をどう思うだろうか?当たり前の人間と同じように、呪われた子には身分不相応な思い上がりと出世欲からこの申し出を喜んで受けたと思うだろうか?そう思われたとてなにも心などは痛まない。自分は高潔な兄弟愛によってこれを受けるのだ。いくらこの目の前の優柔不断な、父とも思ったことのない男が下種の勘繰りをしたところで自分はもっと高潔であり、彼はそれを預かり知らぬ哀れな愚か者にすぎないのだ。愚か者に恥じ入る必要などはない。ソロモンはそう考えた。
ダビデの手が彼に伸びる。今度こそ、彼はふり払わなかった。ダビデはソロモンの右手の中指に指輪をはめた。不思議に、その指輪はぴったりと彼の指に収まった。彼の指は非常に細く、ダビデの指とは似ても似つかないのだから、ダビデの指輪がはまろうはずはないのに。実に不思議な話だった。
「ソロモン様、清めの油を塗ります。マントをお取りを」ナタンの声が聞こえた。ソロモンは黙ってマントを脱ぐ。彼の髪の毛がばさりと落ちた。
髪の毛を伝って、香りのよい清め油が自分の頭、そして体を流れることを感じた。これのどこが神に選ばれた人間にのみ許された行為なのだろうか、とソロモンはあざけるような気持ちで黙ってその行為を受け入れた。
頭の上の壺が空になったと見える。頭の頂点がようやくすっかり油に侵されて油を注かれる感覚を実感できるようになったあたりで、その感覚が途切れたからだ。
ソロモンはゆっくりと起き上がった。香油の匂いが鼻につく。埃臭い部屋と香りのないシクラメンとともに年月を過ごしてきた彼の嗅覚には、その香り高さはいささか刺激的だった。
不意に、自分の体が抱きしめられたのが彼にはわかった。アドニヤの体とは違い随分と脂肪分の多いその体の正体は、視界に入った着物の色から判別できた。バテシバのものだった。
「まあ……なんと、誇り高い子かしら!私の胎から生まれた子供が、王になるなんて!夢みたいよ。ソロモン、貴方はなんて母親想いの良い子なんでしょう!夢だったのよ、私の子が王となることは!なによりもの夢だった!お前はそれをかなえてくれたのね、なんという孝行息子でしょう!ああ、香油を塗られて、指輪をはめられて!こんな立派に、本当に信じられない!お前が生まれた日からは思いもしなかった、あの十四年前からは!よく今まで耐えて、よく育ってくれましたね。貴方をないがしろにしていた私を許してちょうだい、ソロモン!あなたは私の自慢の息子よ!これからはずっと大切にしましょう!かわいい息子!」
彼女はそうまくしたてた。彼女の柔らかい体は、アドニヤの引き締まった体の抱擁を受け慣れている彼にとっては異常にブヨブヨとしていた。体温を持ったナメクジに等しいと彼には思えた。
「(俺はこんな奴に、今まで異常な体と馬鹿にされていたのか?お前のほうが、よっぽど異常だ)」
心の中でそう吐き捨てて、ソロモンは「ありがとうございます、母上様」とだけ言い、さりげなく彼女をいなした。そして、ダビデのほうに振りかえった。
「父上様、一つ、頼みごとがあります」
「申すがいい」
「私自身の呪われた外見のおかげで、私は王子としての教育を受けてもおりません。ナタンの持ってくる本は読みますが、それでも王として君臨するには不十分もよいところと心得ております」
ソロモンは淡々と話した。
「私は貴方様のように武勇をたてることができません。私の虚弱な体では。しかし、私は幸い、知性のみは人並み程度に持っております。となれば、王となるのであれば、私は智謀にたけた王でなくてはなりません。智謀で他全てを圧倒できなくてはならないのです。そうしなくては私だけの問題でもなく、イスラエルの問題にもなります。栄光の国は優秀な王のもとでなくては存続すら叶いませんから。イスラエルを栄光の王国として存続させるため、父よ、どうか私を今からでもご教育ください。貴方様の王国を私は滅ぼしたいとは思わない。私に大勢の教師をお付け下さい。王となるにあたってのすべての知識を、この十四年学ぶはずだった分、全て私に叩き込んでください。私も努力しましょう。私が王になるには、それが必要です」
人並み程度とは何を言うやら、と言うナタンの心のつぶやきを聞いたものはいなかった。ダビデはその言葉を聞き、「うむ、勿論だ。さっそく手配し、明日からでも始めさせよう」と言った。
カーテン越しの光が四人を照らした。ルビーの紋章に、彼の髪から滴った香油が垂れた。別の雫が、床に落ちて染み込んだ。彼の髪の毛から首筋、背中を伝って、彼の脚から滴り落ちたものだった。少々くすぐったいような感覚をソロモンは覚えた。

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