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クリスマス市のグリューワイン

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feat: Solomon 第三十四話


真っ青になって自分のもとにやってきたベナヤの姿を見て、ザドクが驚いたのは言うまでもない。ベナヤがここまでおびえた表情をしているのを、彼は初めて見る。
「ベナヤ、何があったのだ?」彼はあくまで自分だけでも冷静さを失わないように努めて言った。しかし、無言で、彼が震えるままに差し出したものを見て、彼もひどく驚いた。ベナヤが握っていたのは、ダビデの王権の指輪だった。ベナヤの動揺を全く意に介さず、六芒星を刻み込んだルビーは暖かに、呑気に光り輝いていた。
「ベナヤ、これをどうしたんだ!」ザドクの質問は至極まっとうなものであった。しかし、そうは言いつつ彼自身にも大体の見当はついていた。
イスラエル王宮は、アドニヤ王子の部屋に泥棒が入ったということで大騒ぎだ。今、使いが急いでアドニヤを連れ戻しに城を出発したところだ。目撃者であるヨアブは、筆舌に尽くせない怒り具合だ。見ないまでも、中庭から離れたところであるここからですら「どこだ!?コソ泥、卑怯者め、出て来い、八つ裂きにしてやる!」というヨアブの叫びが届いてくる。その恐ろしさに、犯人でもないのにすくんでしまいそうになる。
そして、この指輪がいまだにあるとすれば…それは、アドニヤの部屋だ。アドニヤが、ソロモンから奪い取ったものなのだから。つまり。
「お前……ヨアブ殿が言っている泥棒は、お前の事なのか?」
震えながら、ベナヤはコクリとうなずいた。
「ベナヤ、お前と言うやつは、どうしてまた……!」
その言葉に、ベナヤは同様のあまりすぐ言い訳などできないようだった。彼がやっと絞り出したのは、ちぐはぐな言葉だった。
「……ザドクさん。俺、イスラエルから逃げます」

「イスラエルを逃げる!?」
ザドクは言った。
「馬鹿な事を云うんじゃない!ベナヤ、盗みの罪は盗みの罪だ!律法から外れた行いだ!それから逃れることなど、私は認めん!」
ザドクはあくまで、厳しく、叱りつけるような口調でそう言う。
「ベナヤ、お前のような男が、どうしてまた宝石をとるなどと言うことをしたのだ。何かあるのかもしれんし、私もお前を可愛く思っている。見逃してやりたくないわけではない。だが、やはり、罪は罪だ!」
外の喧騒にかき消されて、彼らの話はだれの耳にも届いていないようだった。ベナヤは震える声で言う。
「これを……これを、取られるわけにはいきません」
「なんだって?」
「これは……証拠ですから。アドニヤ王子と言う人の、証拠です」
気が動転している余り十分な文章になっていない彼の言葉を拾いつつ、ザドクにもようやく、はっとひらめくものがあった。ベナヤの意志を理解できた。
「な、なんだと、つまりお前は、それを、アドニヤ殿下による、ソロモン殿下の殺害の証拠にしようというのか。……それでまた、泥棒を?」
「はい。……これしか思いつかなくて」
「そ、そんな、どうして、またこんな……焦ったことを?」
確かに、あの時期にソロモンを教育していた人間は、皆ソロモンがこの指輪を持っていたことを知っている。それがダビデ直々に貰ったものだということも、当のダビデ自身の口から聞いていた。それがアドニヤの部屋にあったというのは、確かに有力な証拠にはなりそうなものだ。
事実、当のアドニヤも、この指輪を持て余していたのだ。弟から借りたという名目にしてしまおうとも思ったが、いくらなんでもそこまで重要な意味合いのある指輪を他人に貸すというのも嘘くさいと思い、彼は指輪をなかったことにしようとした。だが捨てるにも惜しく、宝石箱の中に持て余していたのだ。
ベナヤは冷や汗をだらだらとかいている。かれは服の袖で、自分の額と顔をぬぐった。
「もう……もう、持て余しておけないんです。あの王子を」
「どうした、ベナヤ、何があったのだ!?」
ベナヤは震える声で、断片的に語った。即ち、自分があの夜見た一瞬の出来事をだ。バテシバとアドニヤの間に起こっていたあの出来事。
それを聞くと、ザドクも同様に真っ青になり、「まさか、そんな……」と言った。アドニヤは、はた目には真面目に母の喪に服しているように思えたからだ。
「信じてください。俺は見ました。もう一度、見ました。アドニヤ王子が、どんな人間であるか」
「それで、お前……これからどうするんだ」
全てが呑み込めた今、ザドクもさすがに、正直に白状しろとは言えない気持ちになっていた。なんといっても、母が死んでいくらもたたないうちに新しく自分の母となった女と寝るなどと、信じがたい背徳だ。聖職者であるザドクが許容できるはずもない。
だがしかし、このまま指輪を持って言って訴えたところで、うまく言いくるめられるばかりかベナヤの行為が露呈するだけだ。どうにもならない。ベナヤは死んで、口封じされてしまう。そうでなくともヨアブは、自分の尊敬する王子に狼藉を働いたものと言うことがわかるだけで、彼を殺そうとするだろう。
「だから俺、その……逃げます。幸い、アドニヤ王子はまだ帰って来てないですから。今すぐ、着の身着のまま逃げます」
ベナヤは酷く思いつめた表情だった。確かに、彼が今とれる道などそれしかないだろう。
それにしても、なんという狂気だろうか!ベナヤの言葉を聞いて、ザドクの心にも義憤が巻き起こった。若い彼の熱気と正義感に影響されるような気持ちだった。
ザドクも、常々、異常になってしまったイスラエル王宮の雰囲気を感じていた。どこか、おかしいのだ。ダビデの病気もそうだし、ナタンが変わり果ててしまったことも、バテシバがああまで取り乱したことも。挙句の果てに、これだ。いま外で泥棒を必死で探すヨアブの姿すら、忠誠心以上のものがあるように思えた。ヨアブはまるで理性のタガが外れたようにわめき散らし、出てこいと叫び続けている。もはやそう思ってみれば、ザドクの眼にヨアブはただの縄でつながれた狂犬のように見えた。
どこから変わったのだろうか?それは……やはり、あの踊り子ベリアルからだ。ザドクはそう思った。あの日、彼の呪いに充てられた人物は、ダビデ一人ではなかったのだ。

ザドクは決心した。「待ちなさい」と、彼はベナヤに言った。
「行くのならば、私も連れていきなさい。私は、ソロモン殿下が王位継承者であったと知らされたうちの一人だ。その指輪と並んで、いい証人になる自信はあるよ」
「ザドクさん!」ベナヤは言った。
「ザドクさんには、家族があるから……」
「ああ……妻子には申し訳なく思うが、この際気にしてはいられん。神が我らの行動を是としてくださることに賭け、私はだめ亭主になろう。どうにせよ、ダビデの家をこのままにはしておけない」
それに、このままここにとどまり続けていたら、自分たちまで狂気に取りつかれてしまいそうだ、と言う恐れも、彼の中にはあった。


外出からいきなり引き戻されたアドニヤは、自分の部屋を急いでかき回した。後ろでは、召使や部下たちが心配そうに見ている。
泥棒と言う割には、全く部屋の中は荒らされていない。高価なものも取られていない。彼の着物や剣は、全くそのままだ。
「妙だな」彼は、召使たちに言い聞かすような、すこし大げさな口調でそう言った。
「何も取られていない。本当に、泥棒だったのか?」
彼は視線でヨアブを呼んだ。ヨアブはうろたえたように「は。はい。確かに私は目撃したのですが……」と言った。
「ふうむ……もう一度、調べてみる。お前たちがいると邪魔だ。出て行ってくれ」
アドニヤはそう言って、部屋の前にたむろする大勢を引き下がらせようとした。ヨアブも申し訳なさそうな表情になり、去ろうとする。だが彼は、アドニヤの、自分をそれとなく引き留めようとする目つきと手のしぐさを見逃すほど注意力に欠けた男ではなかった。
彼はそれとなく王子の部屋にとどまり、内側から扉を閉めた。
「いかがいたしましたか、アドニヤ様?」
「……あの指輪が、取られている」
アドニヤの顔からは、血が引けていた。
「指輪が!?」
「そうだ。……ぼくがソロモンからとった、あれだ」
アドニヤは、ヨアブの前で宝石箱を広げて見せた。確かに、一番目立つルビーの指輪が消えていた。
ヨアブは戦慄した。アドニヤは真剣な表情で語る。
「ぼくの他の持ち物はそのままだ。そのほかの宝石も、全部ある。もの取りじゃない。最初から、この指輪が目当てだったんだ。……この意味、分かるか?知ってるやつは知ってるんだぞ、この指輪が、ソロモンのものだったって」
アドニヤの顔は一応きりりとした表情を崩すまいとしているも、明らかに不安におびえているのが見て取れた。
「誰かが、誰かが疑っているんだ。ぼくがソロモンを殺したことを。そして……その証拠を握ろうとしてきたんだ。しかも!見事に成功されてしまった!」
「ア、アドニヤ様!」
ヨアブの声もうろたえていた。アドニヤはそんなヨアブに詰め寄る。
「このことがばれたらぼくは破滅だ!いくらなんだって、これでもなお貴方を王と信頼します、なんていう奴いるわけがない!ダビデの息子はまだまだいるんだぞ!他の王子が祭り上げられて、ぼくは処罰を受けるだけだ!ヨアブ、お前に命令する!この指輪をとったやつを何が何でも見つけ出して、口をふさげ!そうしないとぼくの王としての人生は終わりだ!」
「私の部下に、すぐに知らせます」
「ああ、そうしろ!一刻も早く!」


部屋を出たアドニヤは、間もなく自分のもとに走り寄ってくるアビシャグを見た。
「アドニヤ様、アドニヤ様!」
彼はそう言いながら、アドニヤに抱きついてくる。彼女の体は震えていた。「どうしましょう、どうしましょう、ああ……」
アドニヤは一気に自分の心が苛立つのがわかった。どうしようかなんて、そんなもの、こっちが言いたい台詞だ!自分は今、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされているというのに!
「ウジウジするんじゃない!なにがどうしましょうだ!甘ったれるな!いい年して!」
そう言って彼は、アビシャグを乱暴に引きはがした。
彼女は、アドニヤの態度に戸惑っているようだった。こういうとき、彼はいつも彼女を優しく抱きしめ返して、優しい声音で自分を落ち着けてくれて、何があったか聞いてくれたのに、と。初めて見る彼の態度に、彼女は面喰った。彼が勢いよく突き飛ばしたせいで、彼女はいささか壁に背中を打ちつけてしまった。
「あ、アドニヤ様。ひどいですわ」
まだ、いつも通りのアドニヤならこのあたりではっと自分が感情的になっていることに気が付き、ごまかしの言葉を述べただろう。だが彼には、そんな余裕すらなかった。
「何がひどいだ!ぼくの部屋に何が起こったか知ってるだろ!?泥棒が入ったんだぞ!どうしようかなんてこっちが言いたいくらいだ!いい加減にしろ、こっちの気も知らないで甘ったれやがって!ひどいのはそっちだ!」
人が変わったように怒鳴り散らすアドニヤを見て、アビシャグは怯えた。「申し訳ありません……あ……あの」と、彼女は当初言うはずだった予定を切り出した。
「ダビデ陛下の……陛下の部屋においでください。陛下の容体が、急に……」
「何?父上が!?」


この上またどんなややこしいことが起こったのかと、アドニヤは怒りの感情すら覚えて父の寝室に踏み込んだ。寝室にはバテシバがいる。彼女のすがるような視線すらも、彼は鬱陶しく思っていた。
「アドニヤ、陛下が……」と、やはり自分にすがろうとしてくる彼女の手を苛立ちを込めて振り払うと、彼は医者に「何があったのです?」と聞く。その声すらも、怒声を含んでいた。
医者は事情を知らないので、彼の剣幕を怪訝に思った。「ごれをご覧ください、殿下」と、彼は真っ青な顔でアドニヤの前に、毛布の中のダビデの体を見せる。
彼は覗き込んだ。その時だ。焼石のように苛立ちに満ちていた彼の体が、一気に恐怖に冷え切った。もはや、怒っている場合などではなかった。

ダビデの指先が、黒い。あの竪琴をつま弾いた指が、剣の柄を握った指が、真っ黒になっていた。
アドニヤは恐る恐る、触る。もはや死体のようだ。人間の手の温度ではない。
「壊死です」医者は言った。
「雪山などで遭難するなどして体温が下がりきると、最後に、このようなことが起こるのです」
「でも……でも、ここは雪山などではないじゃないか」
ダビデの冷え症は、倒れてからずっとひどかった。彼の体は氷のように冷え切り、全く温まることがなかった。
もはや、それが末期症状になってしまったのだろうか。
父は寝ていた。苦しそうだった。アドニヤはもう一度、父の真っ黒に腐った小指の先に触れた。
と、その時。
ぽろりと指の先が離れ、それは床の上に音を立てて転がった。ダビデは全く痛みを感じていないようで、寝たままだった。
アビシャグやバテシバは、その様子に絹を引き裂く声で叫ぼうとした。だが、彼女らが叫ぶ前に、その場にアドニヤの恐怖の叫び声が響き渡った。ダビデは、それでもなお起きる気配がなかった。


数日が経過した。
「歩けますか?大丈夫ですか?ザドクさん」
「平気さ、心配しないでくれ」
そうは言いつつ、ザドクは限界に近いようだった。ベナヤのほうが若いし、軍人なのだから体力も数倍あって当然だ。それに付き合って悪路の旅をしているのだから当然だろう。
彼らはイスラエルを離れていた。追っ手からは何とか逃げ切れたようだった。ベナヤは、ザドクの心配をしていた。
水筒に入れた水を彼に飲ませて、励ますような口調でベナヤは言う。
「ザドクさん、見てください。アンモン王国にもう直着きますよ」
彼は視界の先を指さしてそう言った。彼らはひとまずの行き先として、近い国であるアンモンを目指していたのだ。
「あ、ああ。そうだな」
「ザドクさん。アンモンについたら俺、また兵隊になりますよ。手持ちの金もなくなってきたし、まず金を稼がないと」
「ベナヤ。ありがとう。すまないな、足手まといで」水を飲み終わって一息ついたザドクはそう言った。
「何言ってるんですか。俺と貴方の仲でしょう」


ほどなくして、彼らはアンモン王国についた。彼らは宿を探して最低限の身だしなみを整えると、まっすぐ王宮に向かった。
アンモンはイスラエルとは違う言葉を使ってはいたが、非常に近い言葉なので何とかベナヤにも言っていることは分からないではない。それでもやはり、より学のあるザドクのほうがこう言ったことには向いていると見えて、彼のほうが綺麗なアンモンの言葉を話した。そのため、ザドクのほうが話を通す役に徹すると彼らは決めた。
「私の息子を、兵隊として雇ってほしいのですが」と、ザドクは王宮の門番に言った。門番はいぶかしそうにじろじろとベナヤを見たが、確かに軍人然とした彼のたたずまいと二人の人のよさそうな様子から一応話を聞いてやる価値はあると判断したのか、「目通りをしろ」と、中に入れてくれた。
「国王陛下は今、病床に臥せっておられる。お前たちが会うのは、国王陛下ではなく、陛下の代理の婿殿だ」
「奇遇ですね」と、ベナヤはこっそりザドクに耳打ちした。ザドクは苦笑いする。
門番の部下に連れられて、彼らは大広間に通された。広間の中ではちょうど裁判が行われていて、順番待ちのようだ。

人ごみが多く、あまりそのアンモン王の代理とやらがよく見えない。しかし、声が聞こえた。
「……以上だ。そちらの者の訴えを認める。兵隊、こちらのものを連れて行け。ただちに処罰を与えよ。男よ、お前の家に、のちに賠償の支払いをしよう」

ふと、ベナヤは不思議な感覚になった。これは?この声を、聞いたことがあるような気がする。やはり、宮殿の大広間で。このように、大勢の観衆がいる。
観衆がため息にも似た声を上げている。彼の裁きに感心したというように。なんだ?いよいよ似ている。何かに。自分が味わったことのある何かに。
「次の者は?」
同じ声が聞こえた。ザドクとベナヤを連れてきた門番は「殿下!」と、彼を呼んだ。
「失礼いたします。兵隊になりたいという外国人が、父と一緒に来ております。お目通りを」
「分かった。通せ」
その声とともに、人ごみが割れて、ザドクとベナヤは通された。彼の目の前にあるものを見て、ベナヤはぎょっとした。そして、目の前の光景が信じがたかった。

イスラエルの宮殿と同じで、アンモンの宮殿の大広間も、光をよく吸い込む構造になっている。しかし、そのような明るさにもかかわらず、彼は真っ黒なマントを、背の高く細そうな体に頭からかぶせていた。
その下にあるのは、異常なほどに真っ白な体。土地柄の白さではない。人間として、ありえないほどに白い肌だ。まるで、血の気が抜けたような。
そして、こちらを値踏みするようにじっと見据える鋭い目は、鮮血のような色をしていた。

隣に立つザドクも、目を白黒させている。まさか、彼が、生きているはずはない。
しかし……しかし、間違いようがない。

「こちらへ来い。兵になりたいとな。一応、安全のためにいくらか話を聞こう」
ベナヤはぐらぐらする頭を抱えて、その言葉を聞くか聞かないかと言った体で、よろめきながら彼のもとに向かった。
似ている。確かに、あの日切りつけられていたあの少年と。それに、パッと見た年齢から考えても、成長していればちょうどこのくらいの年齢だ。
違うことはと言えば、代理とはいえ玉座につき、王の仕事をこなす彼の持っている威厳と貫禄くらいなものだ。あの日切りつけられた少年には、そんなものは全くなかった。それくらいだ。
何故だ?あの日死んだ彼が、アンモン王の婿?どういうことだ?なぜ生きている?なぜ、ここにいる?
ベナヤは考えた。彼と話をしなくては!でも、どうやって?こんなに人の眼のあるところで、そんな話をまさかするはずもない!
「どこの国から来た?」
ベナヤははっとひらめいた。この方法ならあるいは、話ができるかもしれない。
彼は、懐に手を入れた。
「殿下……これを見れば、お分かりになるはずです」
彼が取り出したのは、ダビデの紋章が入った王権の指輪だった。

彼、ソロモンの赤い目が一瞬揺らぐのが見て取れた。彼自身も、非現実性に戸惑っているかのような。ベナヤは確信した。
ソロモンの目が、ザドクのほうに泳ぐ。彼も、彼がザドクであるということを分かったようだった。
ソロモンはベナヤを見据えて、彼にしか聞こえないような小さな声で言った。
「私の名前を知っているか?」
「イスラエル王国王子、ソロモン殿下、でございましょう」
ベナヤはなんとかアンモン風に直した話し方ではなく、完璧なヘブライ語でそう言った。
ベナヤは、ソロモンの眼を見るのは初めてだった。こんな色の眼をした人間がいるのか。と彼は思った。目の前にいるのは目が回りそうなほど、不思議な存在だった。
「……その通りだ。お前が誰かは知らんが、どうやら、なにやら大したことが起こっているようだな」
彼は声色をはっきりとしたものに変え、「良い。それをしまえ」と言った。
「兵隊よ。この親子を待たせておけ。私は彼らと個人的に話し合ったうえで、彼らの処遇を決めようと思う」
ソロモンはそう言って、ベナヤにひとまず引き下がるように言った。ベナヤも、言われる通りにした。
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