クリスマス市のグリューワイン

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feat: Elijah 第十二話

ナボトの死から数日が過ぎた。
「馬鹿じゃない!?そんな話信じられるわけないでしょ!?」
「やっぱそう思う?オレも同意見だよ」
イスラエル王宮の中で、若者が二人話している。ミカヤと、エフーの二人だった。
アハブは前々から所望していたナボトの葡萄畑を自分の地所にするという手続きを終えて、妻を連れてつい先ほどイズレエルの別荘に下ったところだ。
ナボトの噂は詳しい話はイズレエルを出ることはなく、ただ彼が主の前に罪を起こした罪で処刑されたという話のみがサマリアに届いた。
「ナボトってそんなに不信心な人じゃなかったってのボク知ってるよ。イズレエルに行ったこともあるし」
「ああ。怪しいよな。ひょっとすりゃアハブとイゼベルの陰謀かもしれねえ」
エフーは冗談のようにそうケラケラ笑う。
「声、大きくない?聞こえたらどうすんの」
「聞こえねえよ。大丈夫。ま、証拠ないしな。結局俺の発言は推測にすぎないわけだし」
笑うエフーに比べ、ミカヤの表情は深刻である。
「エフー、なに笑ってんの?冗談じゃすまない事だろ」
「悪かった、悪かったよ」
「もしもさ、もしもこれで本当に、王の陰謀だったとしたら」
ミカヤは壁を殴りつけた。
「また一人、死ぬんだね。アハブとイゼベルのおかげで、主を信じていた人が。……ボクは許せない。絶対に、許せない」


朝露に輝く深い緑を見て、アハブは感嘆した。ナボトの葡萄畑は、やはりいい土地だ。
ナボトが死んだという話をイゼベルから聞いたとき、彼は半信半疑だった。しかし確認してみれば、確かに彼は亡くなっていた。死刑にされたというのだった。
それからは簡単だった。アハブは畑を自分のものにするという手続きをすませた。ナボトの息子たちは死刑になった父親を恥じてか、彼の意思を尊重しようなどとはせずあっさりとアハブに畑を譲り渡し、代わりにアハブから与えられた畑に移った。
「なんと美しいのでしょう。わが君様に相応しい高貴な土地ですわ」イゼベルは彼に、笑顔でそう言った。
「ああ、そうだな」アハブは少し非現実的な思いで、妻の言葉にそう返した。手に入らないとばかり思っていたものがいざ手に入ったという事実に、頭が追いつけなかったのだ。
それに、あのナボトがまさか、死刑になったなどと言うのは彼にとってあまり現実味のある話ではなかった。しかし事実として、死刑にはなったのだ。人間は見た目ではわからないものなのだ、とアハブは思った。そのおかげで結果、アハブはほしかったものを無事に手に入れられたのだ。
イゼベルはそばにあるアハブの別荘を指さして言う。
「さあ、わが君様。一休みいたしましょう。畑をじっくり巡るのはその後からでも十分ですわ」
アハブは妻のその優しい言葉にうなずいて、再び彼女の手を引きつつ馬車に乗った。
ふと、結い上げた彼女の髪に刺さっている簪が目に留まった。ごく普通の簪である。自分がまだ若いころ、彼女に買い与えたものだ。
あの日、彼女の結い髪に刺してあった黒い薔薇はなんだったのだろうか。アハブはそのことを思い出した。聞くタイミングもなく、結局問うことはできなかったし、イゼベルもその後黒い薔薇を頭に刺すことはなくなっていた。疲れた余り何かを見間違えたのだろうか、とすらナボトは思っていた。
アハブの伴に来ていた数人も、めいめい馬に乗るなりなんなりしてアハブの後に続いた。ただ、アハブとイゼベルは、その中にある一人の顔色が非常に悪い事には気が付かなかった。


「まあでもよ、気持ちを直せよミカヤ。ナボトには不幸だったけど、俺たちにとっては不幸中の幸いが起こるかもしれないだろ?」
「もうしゃべるな」
サマリアでは相変わらず、ミカヤとエフーが話していた。冷たく彼を突き放すミカヤに、エフーはにやりと笑って言う。
「もしもアハブがこれを起こしたってんなら、あのエリヤは黙っているかな」
エリヤの名前を聞くや否や、ミカヤは今までの憮然とした態度を引っ込めてピクリと反応した。エフーはそれを面白がって、からかうように続ける。
「ひょっとしたら、サマリアに来たりしてな」
「エリヤ……エリヤが、サマリアに……」
彼の意識はあっという間にエリヤに行ってしまったようで、エフーはそれに苦笑した。
なにも、エフーにとってもミカヤを冷やかすための言葉だけでもない。指名手配されている男、アハブとイゼベルの陰謀だということを知る由がないどころか事件が起きたことを知っているかも怪しい男がサマリアに来るなど、普通なら考えない。
だが、エフーはぼんやりと、エリヤならやりかねないと思っていたのだ。

エフーは、あの日、エリヤがカルメル山で起こした事件の後に、後片付けに駆り出された。彼の眼には今でも鮮烈に残っている。あれほど威張り散らしていたバアルの預言者たちが、全員物言わぬ死体になり、枯れ川に積みあがっていた。彼らの汚らしい血は、雨水に混ざって流れていた。バアル像ですら、ただの石以下の存在になっていたのだ。
非常に刺激的な光景だったが、同時に、エフーはそれに感動を覚えた。イスラエルの神を信じているという理由だけで自分たちを迫害してきたものも、所詮は肉塊になってしまうのだ、と。エフーにとって、それは常識を覆す光景であり、また、希望でもあった。
エリヤが姿をくらまして、一部の人々がエリヤを英雄視しだした時、エフーはそれを当然とすら思っていたのだ。あの殺戮は、本当に心地よかった。殺されたものに同情など、一片たりともエフーはしなかった。そのような感情を覚えるまでもなく、殺戮自体が非常に神秘的だったのだ。
エフーは、自分もまたエリヤが来ることを期待していると知っていた。


昼下がりの事だった。
ツィドキヤは、冷静にふるまわねばと思いつつ、手の震えを止められなかった。イズレエルの長老に、不審に思わせてはいけないというのに。
「(こんな……こんな、ことが!!)」
「ツィドキヤ様、どうかしましたか?」
「い、いえ。良いのです。旅の疲れがまだこたえていまして。長老殿。この手紙は必ずや国王陛下にお返しいたします。では、私はこれで」
「は。国王陛下並びに王妃殿下によろしくお伝えください」
その声を聴き、ツィドキヤは彼の目の前を去る。そして、彼の家の門を出るや否や、大急ぎで馬に乗って自分の止まっている宿まで駆け抜けた。

荒い息を必死で整え、窓の外に誰もいないことを確認してから、ツィドキヤは長老から受けとった『手紙』を広げた。
全部で三枚。預言者や祭司、王の名前までサインしてあり、その中にツィドキヤのサインもある。だがツィドキヤは絶対に、こんな文書に署名した覚えなどなかった。
勿論、その手紙と言うのは、イゼベルがナボトの畑を奪うにあたってイズレエルの長老や貴族たちに向けて送った手紙だった。

あの日、イゼベルが手紙を書いた日、ツィドキヤは少し思うところがあって王宮に残っていたのだ。するとどうだろう。イゼベルが真夜中だというのに、密使に手紙を渡していた。こんな人目をはばかるように手紙を渡すというのは不自然だと、ツィドキヤは胸騒ぎがした。そして、彼は耳を凝らした。手紙は、イズレエルに遅れとのことだったのだ。
彼は嫌な予感に襲われた。つい前の日に、アハブがナボトとの交渉に負けて帰って来たばかりで、そのようなタイミングでこそこそとイズレエルに送る手紙と言うのは、どうも穏便なものとは思えなかった。
そして数日後、ナボトが死刑されたという話が届いたとき、ツィドキヤの中の嫌な予感は膨れ上がった。まさか、あの手紙は、と。
だから、今回、ツィドキヤはアハブに同伴することを願った。事の真相を確かめたい一心でだった。
彼は思い切って、カマをかけることにした。あの日イゼベルが密使を送った日付を上げて、「その日にこちらから送った手紙の事ですが」と、彼は話を切り出した。すると、大当たりだったのだ。「ああ、あの手紙が、どうかしましたか?」と、長老は返してきた。
ツィドキヤは激しく波打つ胸の鼓動を抑えつつ、「実は、国王陛下が、その手紙を回収してきてくれと私に命じたのですが……手紙は、まだありますか?」と、途切れ途切れに嘘を言った。長老は彼を疑うことなく、あっさりとその手紙とやらを持ってきたのだ。
その場でそれを広げて、そこに書いてあった内容に、どれほどツィドキヤが打ちのめされたことだろうか。嫌な予感は当たっていたのだ。全ては、仕組まれていたことだったのだ。ツィドキヤはそれを知ってしまった。

彼は宿屋の床に三枚の手紙を広げ、特に三枚目に目を通す。ナボトに無実の罪を着せ、殺してしまえ。恐ろしいことがそこには書かれていた。
冷や汗が流れ落ち、ぽとりと手紙に落ちた。王はこのことを知っているのだろうか。王のサインも印章もある。知っていてもおかしくはない。
だが、違う。おそらくアハブは知らない。ツィドキヤはそう確信していた。このような計略を使ったにしては、アハブには罪悪感がない。彼は本気で、たまたまの偶然でナボトの畑を手に入れられたと思っていることは、臣下として王に仕える身のしての視点から、よく分かった。
おそらくは、イゼベルの手引きだ。あの日密使に手紙を託していたのもイゼベルなのだから。印章は王妃であるイゼベルならばいくらでも借りられるだろうし、ツィドキヤのサインをここまでそっくりに書くのなら王のサインを捏造できてもおかしくはない。
ツィドキヤは恐ろしさに吐き気がした。これは、明らかに罪ではないのか。しかも、当のアハブはこれを知らないのだ。
彼は、何かに突き動かされるような気持ちで王宮のアハブのもとに向かった。


「王よ!」
軽い宴会を終えて休みに向かおうとするところをツィドキヤに呼び止められて、アハブは驚いた。隣にはイゼベルもいて、「おや、なんですの、ツィドキヤ」と彼に代わって返事をした。
「王妃殿下、申し訳ありません。こればかりは国王陛下にじかに……」
ツィドキヤの顔色は目に見えて悪く、声はかすれている。不信感を抱かないはずがなかった。だが、彼はあまりに鬼気迫る顔をしていたので、アハブはそれに気圧され、「イゼベル、お前は先に休みなさい。私はツィドキヤと話さねばならぬようだ」と、妻を引き下がらせた。

暗い執務室にろうそくの明かりを数本ともし、アハブは「何があった?ツィドキヤ」と問いかける。ツィドキヤは「王、これをご覧ください」と、例の手紙を三枚、彼の前に差し出した。
アハブは怪訝そうに、それに目を通す。だが、読み進めるうちに、彼にもその真の意味が解ってきたようだ。
自分がナボトの畑を手に入れられるようになった、その真相。
「陛下、ご存知でしたか」
「いや……全く、知らなかった」
アハブの顔も、ツィドキヤ同様に真っ青になっていた。そうだ。あの日確かに、イゼベルは、自分の妻は言っていた。アハブのために、必ずナボトの畑を手に入れると。律法に触れない行動を持って。
手紙がばさりとアハブの手から離れた。
アハブは、何かに打ちのめされたようになった。イゼベルは、確かに自分のためにこれをしてくれたのだろう。彼女は、自分のせいで無実のナボトが死んだことに等少しも心痛めることなく、自分とともに美しい葡萄畑を散歩して微笑んでいたのだ。自分とは違って、その手で、この計画を遂行していた彼女が。
アハブの中で、何かが壊れるような感覚を彼は感じていた。
神がいるというのなら、なぜ、ナボトは死んだのか。自分を救わず冷たくあたった神は、神に忠実だったナボトさえも救わなかった。かえってバアルに心酔している異教徒のイゼベルの願いが、叶ったのだ。
そしてイゼベルは、純粋にアハブのために、これを行ったのだろう。ナボトを殺したとて、彼女には何の利益もなかったのだから。曖昧な神などと違って、彼女の思いのなんと鮮烈に輝いていることか。異教徒と批判された、一人の人間にすぎない彼女の。
全てが空しく思えてきた。アハブは心の中が真っ白になった。

「陛下?」
ツィドキヤの声は、届かなかった。
「(何が神だ)」
アハブは心の中で、そうつぶやいた。呟きは彼の体中に反響した。
「陛下。このことについて……」
「私はこのことについて、何もせんぞ。ツィドキヤ」
アハブはぼそりとそう言った。
「ナボトの畑は私のものだ。ナボトは処刑された。私は誰も殺していない。殺したのはイズレエルの人民だ。私が畑を手に入れることに、何の不都合がある」
「王妃様は、このような恐ろしい計画を……」
「あれも私のためを思えばこそだ。良いではないか。夫のためにここまでの事をする妻など早々得られるものではない。私は果報者の夫と思わざるを得ないな」
口をパクパクさせるツィドキヤを、アハブは見下ろすようにしていった。
「よいか。ナボトは死刑になったのだ。私は、その畑を受け継いだ。起こったことは、ただのそれだけだ」
「王よ」ツィドキヤは、なおも言った。
「神は、このようなことをお許しになりますまい」
「神だと」アハブは起こったように言う。「どうでもよいではないか。どうせ神は、私のために何も行ってくれなかった。ならば私が神に従う義務などどこにある。敬いたいものは勝手に敬え。だが私はそうしはしない。神を敬う意味などあるか。旱魃を起こし、大軍を死なせ、神はただ、暴力をよこすだけだ」
アハブはぴしゃりと、冷酷な表情でそう言い切った。
「このことを他言すれば、お前の一族にどのようなことが起きるかは分かっているだろうな」
アハブはそれだけ言い切ると、執務室にツィドキヤ一人を残して、自分は去って行ってしまった。


数日たって、アハブの一行はサマリアに帰った。ツィドキヤは結局、誰にも彼の知ったことを他言せず、手紙は焼き払われた。正真正銘、証拠と名のつくものはなくなってしまった。
これでいい、とアハブは感じていた。宗教と言うのは、道具の一つで十分なのだ。振り回されるべきものはない。酒などと一緒だ。宗教に振り回されたらおしまいだ。アハブはもはや、そう思っていた。元から希薄だった彼の宗教意識は、ナボトが死んだということを持って、あっさりとないに等しくなってしまった。

アハブが帰ってきたとき、大広間には誰もいなかった。公務の時間ではないのだから、当たり前である。
アハブは手持無沙汰にそこに座った。そして、ぼんやりと天井を眺めていた。
と、その時だ。
「お前は人を殺しといて、その持ちもんを奪うのか。泥棒と変わんねえな」
聞き覚えのある声だった。忘れるはずがない。彼は前の時も、このように玉座に座り自分の前に現れた。彼は視線を下ろした。
毛皮の服に、ボロボロの頭巾。房にして束ねた髪。そして、鴉の羽のような瞳。
「エリヤ……」
「久しぶりだな、アハブ」
良く見れば、彼に後ろに少年が一人ついてきていた。アハブはエリシャを初めて見る。彼も、エリヤほど落ち着いてはいなかったが、それでも毅然とした態度でそこに居ようと努めていた。
「どこから入った?」
「どっからでも入れるぜ」
「私の敵め」
アハブはあらん限りの敵意を込めて、エリヤにそう言った。
「私をまた見つけたのだな」
「ああ、そうさ。お前が悪いことをしたのを、神様は見ていた」
「悪いこと?何がいけないんだ」アハブは言った。
「私自身はナボトを殺していないぞ」
「強いて何が悪いかと言えば、お前が自分自身を売り渡したことだ」エリヤは言った。「悪魔にな」
「悪魔だと」
アハブはエリヤを睨みつける。
「もしもだ。もしも悪魔の手管によって私がナボトの畑を手に入れられたのならば、私は悪魔を祝福しよう!神は私に何一つしなかった。悪魔はこのように、はっきりと私を祝福した。どちらがいい存在か、どちらが崇拝するに足るべき存在かなど明白だ!無学で頭の悪いお前にはわからんかもしれんがな!」
「神様が、お前に何一つしなかった?」
「そうだ。……お前にはわからんだろうな。神のために生きる、などと言えるようなお前には」
アハブは震える声で言った。
「誰も私を尊敬しない。人民は私を嫌う。諸国の王は私を侮辱する。イゼベル以外、誰もが!私を馬鹿にするのだ!ダビデやソロモンのように、神は私を祝福された存在とはしてくれない!乞食坊主に過ぎないお前にわかるか!私の苦悩が、分からんだろう、分からんからそのようなことが言えるのだ!」
「ああ、お前の苦悩は、俺にはわからん」エリヤは髪の毛の房を指ではじきながら言った。どことなく、遠い目だった。
その時だった。
「師匠……僕も、少し、言っていいですか」
エリヤの後ろに控えていたエリシャが口を開いた。エリヤは「良いぜ、言いな」と、彼を促す。
エリシャはエリヤの後ろから出てきて、礼儀正しくアハブに一礼する。しかし、視線は彼をしっかり見据えていた。
付添いの少年が口を開いたことに、アハブも少々面くらう。エリシャはゆっくりと話し出した。
「僕は……師匠のように、何年も人里離れて暮らしてきた存在じゃありません。ただの農家の出です。王としての貴方を、ずっと見ていました。アハブ王、貴方に言いたいことがあるんです。僕たちは、確かに宗教の面で貴方を嫌っていました。師匠があの事を起こす前はバアルに従っていた人たちも、貴方を嫌うようになりました。でも理由がなかったわけじゃない。僕のお爺さんや年上の世代が伝統的な宗教を守りたいと言っているのに、イゼベル王妃が無理に宗教改革を進めるのを、貴方は黙認していました。イスラエル人の僕たちにとって、イスラエル人であってなおかつイゼベル王妃を止められる貴方が一番頼れる存在だったのに、貴方は僕たちよりもイゼベルをとりました。だから嫌いだったんです。貴方も王としていろいろやらなければならないこともあったんでしょう。そこまでは学のない僕にはわかりません。でも、貴方はあまりにも、イスラエル人である僕たちの声を聴いてくれなかった。貴方はシドンの王じゃなくてイスラエルの王なのに。だから嫌いだったんです。その不満が、表に出ただけなんです。貴方が嫌われるのだって、ちゃんと理由があるんです。もしも、僕たちの声を聴いてくれて、僕たちの事を少しでも気遣ってくれたら、僕たちだってあなたをもっと尊敬していた。それに貴方が外国に甘くみられるのも、貴方があまりにも弱気な姿勢だから舐められているだけなんじゃないんですか?それなのに、勝手に誰にも一方的に嫌われて軽蔑されているなんて思いこんで、その上なんでも神様のせいにしないでください。……神様のせいじゃありません。結局、貴方のせいなんです」
「な……」アハブが言う。
「農家ならばよく知っているだろう?あの干ばつを!あれも言うなれば神が起こしたものだ。お前は神を憎んでしかるべきではないか?その男に影響され、理性が麻痺しておるのか!?神は暴力しか行わん!干ばつを起こし、戦を起こし、ナボトを殺した!そのような神の、どこの敬うところがある!」
「でも、神様は雨を降らせてくれました」エリシャは言った。
「神様は、自ら追い出したアダムとイヴに毛皮の着物を与えました。弟を殺したカインに許しを与えました。罪深い人間を見捨てても、ノアやロトを生き残らせました。それに……神様は、人を、生き返らせたんです。僕は、それを見ました」
エリシャの頭には、彼の隣人、弟のように可愛がっていた少年が浮かんでいた。
「それは一面的な意見にすぎません。神様は確かに、絶対的に甘い存在ではありません。でも、だからと言って神を邪悪とするなんて、短絡すぎます。神様は、大勢殺すように、また、大勢を助けているではないですか。そもそも今こうして、イスラエル人が自分の国に居られるのは、神様のおかげではないですか。貴方は結局、神様のあら捜しをしているにすぎないんです。その理由は、義憤じゃない。ただの八つ当たりです。そうではないのですか。貴方は悪いことが起こっても、それを直接やった人を責めず、神様を責めた。でも、それってやっぱりおかしくはないですか。貴方は自分の見たいものしか見てはいないんです。神様に救われた人がいるっていうことを、貴方は見ようともしていないんですから」
エリシャの声は、三人しかいない大広間によく響いた。その言葉を聞いてアハブは、目を瞬かせていた。

「よし、よく言ったなエリシャ。偉いぞ」エリヤはエリシャの頭を撫で、再び彼を庇うように後ろに立たせる。
「聞いての通りだ、アハブ。ガキじゃあるめえし、なんにでもかんにでも神様に愛されなかった、なんて言って、ましてやらだから神様を崇拝しないなんて、そんなわがままほざくんじゃねえ」
エリヤは彼に言った。
「アハブ。お前は勘違いしてるぞ。この世は、誰か一人をちやほやするために神様が作ったものなんかじゃねえ。ましてやお前ひとり、何も苦労しなくても気を配らなくても都合いい人生を送れるなんてそんなことあるわけねえだろ。お前が雲の上の存在と思っているダビデやソロモンだって、血反吐を吐くほど苦労もしたし嘆きもしたさ。奴らだって神様の助けがもらえなくても頑張ったんだ。なのになんで、自分に問題があるってことをわかろうともしないお前が、そんなに都合よく神様に特別扱いしてもらえると思ったんだよ?」
「だ」アハブは呻くように言った。「黙れ……黙れ、黙れ!」
「黙らねえ!お前は神様を侮辱したんだ!神様はなあ、てめえのための道具なんかじゃねえ!」
アハブは手元の鐘を鳴らした。
「狼藉ものだ!出会え、衛兵ども!」
「アハブ!聞け!主の預言だ!」
衛兵がドタバタと欠けてくる音にはざって、エリヤは大声で、以前と同じように、王宮に響き渡るような声で言った。
「神様はこう言われる!『見よ、私は貴方に災いを下し、貴方の子孫を除き去る』!!お前の血筋の男子は全て死に絶えるんだ!ヤロブアムと同じように、バシャと同じように、裏切者のオムリの家に生まれたお前の家系は、裏切者に相応しい末路をたどるんだ!」
衛兵が集まってくる。その中には、イゼベルも混ざっていた。
「わが君様!」イゼベルは金切り声を上げて、彼の方に向かっていく。「おのれ、乞食坊主。また私たちの前に現れるとは!」
「ああ。アハブ。お前よりももっと悪い存在がいたっけな」エリヤはイゼベルを睨みつけた。
「イゼベル、お前はナボトを殺した。ナボトを無残に殺した罪を、てめえらは負うんだ。ナボトと同じ末路をたどるんだ。聞け、イゼベル」
エリヤはイゼベルに向かってはっきり言った。
「お前はナボトと同じく、イズレエルで死ぬ。お前の死体は犬の餌になるのさ!ナボトの死体が犬に食われたようにな!アハブ、てめえの末路もおんなじだ。てめえの血はナボトの血が流れたところと同じところに流れて、ナボトの血がそうされたように犬がお前の血を舐める。これは、神様のお告げだ」

過激な言葉を受けて、イゼベルはわなわなとふるえる。
「よくも……よくもそんな侮辱を。真実の神の加護があるこの私に」
そして、彼女はアハブを差し置いて命令した。
「この者達をとらえて、処刑しておしまい!」

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