クリスマス市のグリューワイン

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feat: Elijah 第十六話



エリヤは焚火のもとで、ミカヤの話を聞いた。自分のもとに神のお告げが下ったということと、その内容、そして、自分がここに来たわけを。
エリシャも、そばで全てを聞いていた。

ミカヤは一気に話し終え、エリヤは話が終わるまでじっと神妙な顔をしていた。ようやく話が終わると、ミカヤは来た時に差し出された水を、それまで手を付けていなかったものの一気に呑み込んだ。

「こういうわけ。どう……エリヤ」
「どうって……ミカヤ……」
エリヤは一瞬間をおいたが、意を決したように「俺は信じられる」と言った。
「お前が神様の言葉を聞いたってんなら、嘘じゃねえはずだ。俺はそう確信する。それに、お前が見たとおり、俺も神様の言葉は聞いた。アハブが死ぬまで、イスラエル王家に不幸は及ぼさないって内容のことはな」
「ありがとう、エリヤ。貴方が信じてくれて、それが一番うれしいや」
ミカヤははにかんでそう言う。
「信じてくれたんなら、ボクと一緒にサマリアに来てくれるよね?このことを、アハブやイスラエル人に知らせなきゃならない。アハブの命を助けるためなんかじゃない、神様の言葉、ご意志をはっきりとさせるためだ。アハブの取り巻きは、いつもみたいに嘘の預言をするに決まっている。それで神様のご意志が蹂躙されることは許されない。エリヤ……貴方なら、そう言うはずだよね」
戦争をするにあたって、預言者たちからの意見を聞くことはイスラエルでは伝統であった。ミカヤも無論、それには駆り出されることになるだろう。だが、アハブが死ぬなどと言うことを言ってしまっては命はないのは明らかであるのは先ほども述べたとおりだ。
エリヤはミカヤの問いかけに対して黙っていた。ミカヤは不安げな顔になり「どうして黙ってるの?」と言った。
「ねえってば……それにだよ。ボクはこうして、神様の言葉が聞けるようになった。もう、似非預言者なんかじゃないんだ。貴方と一緒の存在なんだよ。ねえ、エリヤ。このエリシャと一緒でいいよ。お願い、僕も貴方と一緒に居させて。ボクはこの力をアハブやイスラエル王家のためなんかに使うもんか。だってそうだろ。あいつらは……ボクの家族や仲間の仇なんだ。ボクが……ボクが味方するのは、貴方だけだよ。エリヤ」
ミカヤはそう話しながら、その目から涙をぽろぽろ流した。
「貴方にとっては、ボクなんてなんでもないかもしれないよ?でも、ボクにとっては、本当に……本当に、貴方一人が救ってくれたんだ。貴方がいたから、ボクは生きることができた。この世が、まだ生きるに足るものだって思うことができたんだ。神様はいるって、そう思えたんだ。ねえ、一緒に居させてよ!ボクはもう、貴方の足を引っ張る存在じゃないんだ!貴方が必要なんだよ!貴方がしろと言うなら何でもする、人を殺せと言われたら殺すよ!死ねと言われたらすぐ死ぬさ!だからお願い、そばに居させてよ……」

ミカヤの言葉の最後は、涙ぐみながら、ほぼ、ぐずりながらのものだった。エリヤはそれでも長い間、黙っていた。何かに衝撃を受けたようでもあった。ミカヤはそれ以上催促することはなく、黙っていた。
「ミカヤ」
エリヤが重い口を開いたのは、しばらくたってからの事だった。
「…話しに来てくれてありがとう。俺も、同じ思いだ。このことは話されるべきだ。知らされるべきでないことなら、わざわざ神様はお前に預言を下しはしない」
「だろう?」
ミカヤはがばっと顔を上げて、短く言った。
「だが、だ」
エリヤは厳しさとやるせなさが混ざり合ったような顔で、ミカヤに向かって言った。
「俺はお前と一緒に行くことはできない。お前を一緒に連れて行くこともだ。この預言は、お前のものだ。お前ひとりが、アハブに向かい合って言うものだ」
その言葉を聞いて、ミカヤは一瞬、信じられない言葉を聞いたとでも言ったように固まった。何も言わなかった。だが、少し落ち着いてきたとみるや、彼は「なんでさ!」と泣きわめいた。
「なんで!?なんでこのエリシャが大丈夫で、ボクはだめなの!?なんでだよ!ボクは……ボクは、こんなに、貴方の事が好きなのに!」
「落ち着いてくれ、ミカヤ。…お前が嫌いなわけじゃない。ただ……お前は、預言者になったんだな。正真正銘の。そうだからこそ……お前についていけないんだ」
エリヤは同じような表情のまま言った。そして、エリシャに向かい合うと言った。
「エリシャ。すまん。少し、場を外してくれ。俺はミカヤと一対一で話すことがある。預言者と、預言者同士で、だ」
預言者同士。その言葉が、非常な重みをもっているようにエリシャの耳には響いた。断るという発想はなく、エリシャは言われるがままに、その場を一礼して立ち去った。

エリシャは二人から遠ざかるために夜の荒野を、松明を持って、迷わない程度にさまよい歩いた。非常に晴れた夜で、満月や星の明るさも、空気の冷たさも鮮烈だった。昼間のように明るい気さえした。
エリシャは一人きりになって、考えた。
「(預言者が、預言者に告げる事……)」
ミカヤは、預言なんてできないと言っていた。エリヤのような人間ではないからと。しかし、そんな彼も神の言葉を聞くことができた。
自分もミカヤと同じだ。エリヤは、自分にとって特別な人間だった。近くに居ても、そう感じる。普通の人間のように生きず、自由奔放に生きる彼と、普通に育ってきた自分は全く次元の違う存在だという思いは捨てきれなかった。それに、おそらくそれは当たりだ。彼と自分は違う。彼と同じ生活をしても、彼と同じ存在ではない。そしてミカヤも同様だ。
白い息を吐きながら、エリシャは毛皮の外套にくるまった。
エリヤと同じようにはなれない。だが、それでも、預言の力は共有できる。エリシャの頭にふと、そのようなことが思い浮かんだ。
エリヤは、エリシャの故郷で彼と語り合った時言っていた。自分を後継者にするために、自分の前に現れたと。エリヤの後継者とは、当然、預言者であるはずだ。だが、自分はそれにはまだ遠い。そのことが、ミカヤと自分を比べることでひしひしと感じられた。自分に足りないものはなんだろうか?エリヤとミカヤにあって、自分にはないものとは。神がその言葉を伝えようと選ぶ人間とはどのような人間であるのか。
神、という言葉にたどりつき、エリシャはふとアハブの宮殿で自分が言ったことを思い出した。思い出してみても、よく言ったものだと思う。仮にも王の前であのようなことを発言できるとは。
神は絶対的善ではなく、同時に、絶対的悪でもない。神とは何か。預言者とは何か。エリシャは考えた。しかし、考えても結論は出なかった。


いくらか時間はたったろうと思い、エリシャはこっそりとエリヤとミカヤのもとに戻った。ちょうど、話が終わったようだった。
「エリシャ!」彼の気配を察してか、エリヤが、振り返って声をかけた。エリヤと同時に、ミカヤも彼の事を見ていた。
「あ……師匠。ミカヤさん」エリシャは気まずそうに言った。「お話は終わりましたか」
「うん……今ね」というミカヤの声で、エリシャは自分の感が間違っていなかったことが分かった。
ミカヤの顔は、先ほどのように落ち込んではいなかった。かといって大きな歓喜があるでもなく、何かが洗い流されたようなすっきりとした表情だった。
「ボクは帰るよ」彼は言った。
「ねえ、エリヤ。最後に抱っこして」彼は薄く笑って言った。「ボクが勇気が出るように」
エリヤは何も言わず、背の低い彼をぎゅっと抱きしめた。そして、頭を撫でた。少しの間そうして、離れたのはミカヤの方からであった。彼は「ありがとう」と言った。
ミカヤは次にエリシャに向かい合うと、彼に向かっても言った。
「エリシャ、君はエリヤの後継者なんだろ。……イスラエルを、よろしくね。君がイスラエルの信仰を守るころ、僕は、そこにはいないから」
ミカヤの言葉は重々しかったが、言い口は不思議と軽かった。エリシャは不思議と明るい気持ちでその言葉を受け止め、「はい」と言った。
「それじゃあ、さようなら」
ミカヤは三つ編みの髪をふわりと夜風にたなびかせ、馬にまたがるとそのまま真直ぐに去っていった。後には冷たい夜風が吹き荒れた。



「戦争をするにあたっては」
イスラエル王宮で、ヨシャファトはアハブにそう語った。
「主の言葉を聞くことが必要です。それが我々の伝統だ」
アハブとヨシャファトはあの後、数日間で戦の準備を整え、塀も戦車もいつでも出撃できる段階にした。しかし、預言者に言葉を求める段階がまだだった。
アハブとて、忘れていたわけではない。しかし、彼の直観が不思議と、預言使者たちの言葉を聞く気にさせていなかったのだ。彼も、自分の運命を薄々と感じ取っていたのかもしれない。
だがヨシャファトにそう言われては、先伸ばしにしておくこともできなかった。アハブは「無論のこと、そのように致しましょう」と、四百人ばかりもいる宮廷預言者を招集した。その先頭には、ツィドキヤがいた。
彼らが預言を聞いたのは、サマリアの城門の前にある、アハブの所有する麦打ち場だった。アハブとヨシャファトは預言の言葉を聞く儀式にあたって盛装し、預言者たちに向かい合った。

「預言者たちよ。私はラモト・ギレアドに行って戦いを挑むべきか、それとも控えるべきか。お前たちが主に伺った言葉を聞かせるがよい」アハブは言った。
宮廷預言者たちは、無論のこと口をそろえてアハブに出陣するように、吉の預言を告げた。「攻め上るべきでございます、陛下。主は、陛下の御手に必ずやラモト・ギレアドをお渡しになるでしょう」と言った。
「ツィドキヤ、お前はどうだ」アハブが言った。ツィドキヤはびくりとしたが、やがて懐から何本かの鉄の角を取り出し、言った。
「ご覧ください、陛下よ。主は言っておられます、これを持ってアラムを継ぎ、彼らを殲滅させよと」
「お前の口を通し告げられた主の言葉を、言葉を私は嬉しく思うぞ。ツィドキヤ」
アハブの言葉に恭しく礼をして、ツィドキヤは自分の定められた席に座りなおした。

彼は、この日にあたって考えるところがあった。アハブのしたこと、イゼベルのしたこと。そして、自分にただ一度臨んだ神の言葉を。
神を信じられないと言い、アハブは罪に身をゆだねた。彼は神を無視した。それで結果、彼は成功した。だがしかし、神もまた確かに存在した。
彼は、自分自身がかつてしたような預言に、もう自信が持てなかった。
しかし、神は彼に今度、預言を下してはくれなかった。自分に許されているのは、ただアハブの期待するままに、彼を賛美し、鼓舞する事のみだ。
神の存在を信じるべきか、アハブを信じ身をゆだねるべきか。ツィドキヤは悩んだ。悩んだまま、ついに結論は出なかった。彼はただ、悩んだまま、その気持ちを覆い隠し、アハブに吉の言葉を述べたのだ。
「(神がわからない!神は私に何を望んでおられるのだ)」彼は、四百人の預言者とともに席に着きながら、じっとそのように考えていた。
自分がアハブに差し出した鉄の角を眺め、やがて彼は半ば、捨て鉢になった。神が何も言わないのなら、それでもいいような気にもなってきた。アハブはあのようなことをして生きているのだ。自分がただ流されたとて、それが罪に当たりはしないだろう。自分は、弱い存在なのだから。アハブよりももっと、弱い存在だ。流されることで今の今まで生きてきたのだから。

「預言者たちはこれで全てですか」ヨシャファトは、一連の言葉が終わった時アハブに言った。アハブは、ヨシャファトに嘘をつく気にはなれなかったが、それだとしても気の進まないことを言う羽目になった。
「全員ではありません。その……イムラの子、ミカヤと言う宮廷預言者が一人、この場におりません」
それに対して眉をひそめるヨシャファトに、アハブは早口で言い返した。「だがしかし、彼の言葉を聞く必要はないでしょう。彼はまだ年端もいかぬ若造ですし、預言者の中でも未熟なものです。おまけに今、どこぞに行っておりまして。それに……私は彼が気に入らんのです。彼は私に一々生意気な態度をとりますので」
そう言ってアハブはその場をやり過ごす気でいた。事実、生意気なミカヤの言葉を聞く気にはなれなかったし、彼がどこかへと外出していってしまったということを聞いたのをいい機会と思い、彼の預言は無しで済まそうとしていたのだ。
だが、ヨシャファトはこだわりの強い男で「アハブ王、そのように言うべきではありません。預言者の全ての言葉を聞かなくては」と言ったので、彼はしぶしぶオバドヤに「ミカヤを探して連れてこい」と言うことになった。


その命令を受けたオバドヤが困ったのは言うまでもない。ミカヤは何処かに行ってしまったのだし、連れてこいと言われてすぐ連れてこれる気もしなかった。
だが、その予想に反して彼はすぐミカヤをみつけることになった。と言うのも、彼が馬に乗ってサマリアに帰ってくるのを、彼は城門の外に見つけたからだ。
彼は慌てて城門を出て、ミカヤを迎えに行った。
「ミカヤ!どこに行ってたんだ!」
「ああ、オバドヤさん。ちょっとね……大丈夫。もうどこにもいかないから」
「今すぐ付いてこい、お前を呼ばなければならんのだ」
「何が起こってるの?」
「アハブ王がアラムとの戦の開戦にあたって、預言者の言葉を聞いているのだ。お前も預言者として、その場に立たねばならん」
「そう……じゃ、ギリギリ間に合ったんだ」ミカヤは呟くように言った。
「念のために言っておくがな」オバドヤは釘をさすように言う。「預言者は皆、口をそろえて吉の預言をしている。頼むから、お前もそうしてくれよ。お前が生意気故に余計な言葉を言わないか、私は心配でな」
「……オバドヤさん、お言葉だけどね」ミカヤは言った。「主は生きておられる。神様はいるんだ。ボクは、預言者として、神様がボクに伝えたことを言う」
その言葉に、オバドヤはもちろんぎょっとした。「ミカヤ!?お前が、預言など……」
そう言って、ミカヤの言葉を遮ろうとしたが、オバドヤはそれを最後までできなかった。昼間の日光に照らされたミカヤの顔は、彼が見たこともないほど、大人びた表情だった。


すぐにやってきたミカヤを見て、アハブや預言者たちは当然、驚いた。ミカヤはどうせすぐには帰らないし、今日は解散となるかと思っていたのだから。
ミカヤは大きな外套をたなびかせながらアハブのもとにすたすたと歩み出た。そして彼に礼をした。
「イムラの子ミカヤよ……よくぞ、来た」アハブは一応、穏健な態度をとって見せる。「お前に問おう。我々はラモト・ギレアドに攻めのぼり戦うべきか、それとも控えるべきか、神はお前になんと言った」
「戦うべきか控えるべきかと言ったら」ミカヤは言った。「それは戦うべきです」
だが、ミカヤはその言葉を皮肉っぽく笑って言った。とても、他の預言者と同じ調子ではなかった。アハブも敏感にそれを嗅ぎつけ、ミカヤが次の言葉を言う前に「その態度はなんだ!」と言った。
「ああ、失礼!でも陛下、戦うべきであることは真実です。なぜなら、ボクは見ました。イスラエル人が、羊飼いを失った羊のように山々に散るのを、です。ボクが旅から帰り、ここに向かう道中、神はボクにそれを示されたのです。主はそれを見ておっしゃっておりました、『彼らには主人がいない。彼らを彼らの家に帰らせよ』と。兵士たちは、無事に家に帰りました。ただ一人、貴方様を除いて。どうですか、陛下。これが神の預言です。攻め上らなければ、これが成就することもない。ですので、貴方は攻め上るべきなのです。主のご意志で、貴方は……三日以内にラモト・ギレアドで死ぬでしょう」
アハブはその言葉に、息を詰まらせた。「いかがですか」彼はヨシャファトに向かい合って言った。
「この調子なのです。ろくでもない若造です」
ヨシャファトもそれを見て、少し呆れの混ざったような表情だった。だがミカヤは意に介していないようだった。
「アハブ陛下、主の言葉をどうぞお聞きください」
ミカヤはそのまま、続けた。自分が見た天国の光景を。主が天使に、アハブをラモト・ギレアドに上らせるように預言者たちを仕向けたということを、全て話した。
「……ですから、主は貴方に災いを告げたのです。そして、それは全て、予定されていたことでした。貴方は国を異教に染め、悪に心を売った。預言者エリヤの口を通して語られた貴方の運命が、今ここに成ろうとしているのです」
ミカヤの言葉は、堂々としていた。それに、多くの人間が圧倒される思いだった。女の子のように背が小さく、か弱い美少年である彼の外見に一切の変化はないはずであったのに、彼は不思議ととてもたくましく、頼りがいのある大人の男のように思えた。
アハブは静かに、頭を抱えた。心なしか彼もそれに気圧され、顔色を悪くしていた。その時、立ち上がったものがあった。ツィドキヤであった。
ツィドキヤは黙って、ミカヤのもとに大股で歩きながら向かった。そして、彼の頬を、先ほどの鉄の角で殴った。

「ミカヤよ」彼は言った。「お前が預言を聞いた?お前ごときが?お前に、主が預言を下したというのか?」
ツィドキヤの心に、沸き立つものがあった。ミカヤのそのような姿を見て、彼は急に心穏やかではいられなくなった。とてつもない不快感が彼を満たした。自分とて、神に、言葉を授けてくれるように頼んだのだ。しかし、何も与えられなかったからこそ、自分は結局日和見な言葉を与えた。
なのに、なのに、この小生意気な少年に、神の言葉が与えられたというのか。あの、一度だけ自分に臨んだきり、後は与えられなかったものを。こんなに若く、未熟な者に。思い悩んだ自分ではない者に。嫉妬と絶望のもと、彼はミカヤを攻撃した。認めたくなどなかった。ミカヤが自分よりも正しいことを言っているという可能性を。彼はその感情を止めることができなかった。
「主の霊は私にあるのだ!」彼は言った。「お前の言うように、私が嘘の言葉を言わされたなど、そのようなことがあるものか。私にある主の霊が、なぜお前に移ったというのだ」
「いずれ、貴方にも分かるよ」ミカヤは言った。「ツィドキヤ。貴方はもうじき、今いる家を離れて、別のところに移る。イスラエル王家から身を隠すためさ。その時に、貴方にも全てが分かる。主はボクに、そのことも告げられたんだ」
「黙れ……黙れ!お前の妄想だ!全て、お前の妄想だ!妄想でなければ、悪魔がお前に見せた幻覚だ」
ツィドキヤはそう言い切ると、アハブに「陛下!」と言った。
「ミカヤの言葉など信じませぬように。彼に預言の力なんてない、あるはずがないのです……ああ、そうだ!王よ、その証拠があります!」
「証拠とな?」
「エリヤを覚えていますでしょう」ツィドキヤは言った。「エリヤは言いました。貴方の血が、ナボトの死んだ場所、イズレエルで流れることになると。どうです!ミカヤがでたらめを言っているのは明らかだ。あのエリヤは忌々しい存在ではありますが、それでもバアルの預言者を打ち滅ぼしたその力は本物です。ミカヤよりも、ずっと信じられる。ミカヤは貴方が三日以内に戦場で死ぬと申しましたが、この二つの預言がどうして同時に成り立つものでしょうか」
その言葉を聞いて、ミカヤは「それはボクにもわかりません。考えたけど、結論は出ませんでした」と言った。
「ですが、神様の預言を、ボクも受けたのです」
「まだ言うか!」ツィドキヤは言った。そして、とあることを思いつき、にやりと笑うともう一度例の鉄の角を振りかざした。
「アハブ陛下、よいことを思いつきました。この者が真実の預言者であるか、一つ試しましょう。貴方もご存じではありましょうが、かつてヤロブアム王は、自分に不吉な預言をした預言者ヤドンをとらえるよう命じました。だがしかし、主の力ゆえに、彼に向かって伸ばしたヤロブアム王の右手は一瞬で萎えてしまったものです。真に彼が預言者であるのなら、きっと同じことができるはずだ」
そう言って、彼は鉄の角で何度もミカヤを打ち据えた。ミカヤの肌はところどころ裂け、彼は血まみれになった。それを見てツィドキヤは、満足感に満たされすらした。おまけに、彼の右手は萎えるどころか、少しも痛むことすらしなかった。
ツィドキヤは言った。「ご覧になりましたか、陛下。エリヤは雷を降らせましたが、ミカヤは私の腕を萎えさせることすらできぬのです!」
アハブはやはり一向にツィドキヤに害が及ぶ様子のないのを見ると「もうよい、よせ、ツィドキヤ」と言った。ミカヤは血まみれになっていたが、意識をなくしてはいなかった。
「ミカヤよ。どういう意思かは知らないが」アハブは言った。「この戦は、イスラエルにとって非常に重大なもの。そして、イスラエルのための事は、神のための事なのだ。私は神に仕えるイスラエル王として、この戦を執り行う。それにあたって、その士気をくじくような発言をした罪は重い。お前には処罰を与えねばならぬ」
そして、今度は護衛隊長の方を振り返って言った。
「ミカヤを連れていけ。町の長アモンと、わが王子ヨアシュのもとに。そして彼らに命ずるのだ。この小僧を牢獄につなぎ、私が帰ってくるまでわずかな食べ物と水しか与えるな、とな」
その言葉を聞き、護衛隊長は静かに敬礼をして地面に倒れているミカヤを起こして引き立てようとした。だが。ミカヤは「ボクに触るな」と強い口調で言った。「自分で立てるから」
ミカヤはその言葉通りよろよろと起き上がると、全く先ほどと変わらない口調で高々と告げた。
「アハブ、それならボクは、永遠に牢から出られることはなさそうだな」
「お前の見たものは預言などではない。お前は奇跡を起こすことすらできんのだ」ツィドキヤは言う。
「奇跡?奇跡が起こらないと、貴方は神様を信じないの?神様はあなたたちにとって、助けてくれるだけの、都合のいい存在かい?神とは、信仰とは、そんなものではないはずだ。ボクたちが神様を作ったんじゃない。神様が、ボクたちを作ったんだから」
ミカヤはそう言い残すと、最後にアハブに向かって、のみならず、四百人の預言者たち全員に向かって言うように言った。
「もしアハブ王が無事に帰れるのなら、主はボクにこのような預言を託したはずがない。全ての民よ、君たちも聞くんだ。主のお言葉を。預言者とは、その為にあるのだから」

その言葉を最後に、ミカヤは護衛兵たちとともに、逮捕されるため市中に向かっていった。

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