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クリスマス市のグリューワイン

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feat: Elijah 第十七話

翌日アハブは戦場に出た。出る前、イゼベルは彼の顔を見て不安そうにしていた。
「わが君様、何故そのように、苦しそうなお顔をなされるのです」と彼女は言った。
「ミカヤの言葉を気にしているのですか。あれは、エリヤ以下の存在ではないですか」
「……何でもない。気にせずともいい。イゼベル」彼は彼女にそう言った。
ミカヤの言葉が気にならないわけではない。自分は死ぬ、と預言されたアハブなのだから。そして、アハブ自身もその運命を感じて生きていたのだから。いよいよその時が来てしまったのかと言う思いもあるにはあった。
しかし、やはりミカヤは信じるに足るものではないように思えた。エリヤの預言とミカヤの預言では言葉が食い違っているというのもあり、完全にそれに押され戦いを躊躇する気分でもなかった。結果、何とも中途半端でもやもやした気持ちだけが残った。
「(私はどうすればいいのだろうか?)」アハブは自問自答した。
「(だが……踏み切るしかなかろう。私がしようと決意した戦だ。アラムに舐められたままではいけないのだ。私のためではない。私の息子、私の子孫が治め、神を崇めるイスラエルの未来のため、私には戦が、勝利が必要なのだ)」


ヨシャファトとアハブがラモト・ギレアドに上っている時、ヨシャファトはアハブに提案した。
「アハブ王、あの預言の事が心配でしょう。私も気にならぬわけではありません。そこで、私は貴方の友として貴方を守るため一つ考えました。豪華な姿をしていれば王とばれましょう。貴方は普通兵のお姿をなさり、王とわからぬように戦場にお出になればよいのです」
ヨシャファトの優しい言葉を聞いて、アハブも少し心が落ち着いた。同時に彼は、心の底からヨシャファトに感謝した。
「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます。ヨシャファト王。貴方のお心遣いは、言葉にも表せません」
彼らがそのようなやり取りをしている頃、ちょうどアラム王ベン・ハダドも密偵からイスラエルの進軍の事を聞き、兵を集めて彼らを迎え撃ちに向かっているところだった。



「ミカヤ、なんと言うやつでしょう。あそこまで快進撃を続けるわが君様に、よりにもよってあんな不吉な預言を」
アハブの立ち去った王宮で、イゼベルはそう言った。彼女の前には、牢獄の番人がいた。
「ですからお前、わが君様は情け深くもあれに食べ物と水をわずか与えろとおっしゃったのでしょう」
「はい、イゼベル様」
「わが君様の意見はあくまで守られるべきでしょう。しかし、わずかがどこまでとはあの方は言っておられなかったわ。良い事、彼には一日に、コップに半分にも満たない水と、鳥の餌のようなパンくずだけ与えなさい。これは私からの命令です」
その言葉に彼はいささかぎょっとしたものの、イゼベルの睨みつけるような視線に抗うことはできず、それを聞き入れた。

「ミカヤ?」
ミカヤは自分の声が呼ばれたのを聞き届け、牢獄のところに酔った
「オバドヤさん」
「ミカヤ、なんてことになってしまったんだ」
そう言うオバドヤに、ミカヤは笑って言った。
「オバドヤさん。もう出陣は終わったの?エフーも出陣した?」
「ああ、したとも」
「よかった。あいつ、戦大好きだもんね」
「ミカヤ、今からでも遅くない、謝らねば」オバドヤは言った。「イゼベル王妃は、お前に水もパンも、ほとんど与えない気だぞ」
「知ってるよ。その覚悟くらいあったもの」
「ミカヤよ、お前は私にお前の父と祖父を失い、さらにお前までも失わせる気かね」
オバドヤは牢の格子から手を入れ、ミカヤの肩をつかんだ。
「オバドヤさんも疑うの?ボクが神様の言葉を聞いたっていうこと」
「そうじゃない……そうじゃない。だが、知っているだろう。私も、預言者たちをかくまった。主のためにだ。借金をし、必死に彼らを養った。だが、彼らのうち、何人も死んでいった。君の父や祖父も同じだ。そのたび私は、同じような苦しみを味わった。私は怖いのだ。誰かを失う苦しみに、私はもう耐えたくない。ミカヤ、君はまだ若いのだ。イゼベル王妃の言葉通りになれば、数日ばかりしか生きられないだろう。まだ生きてくれ。せめて、私が死ぬまでは」
オバドヤはそう言いながら、泣いた。彼の疲れ切った中年の肌は張りがなく、涙がじんわりと吸い込まれた。ミカヤはそれを見ながら、彼に言った。
「オバドヤさん。でも、オバドヤさんの庇った人たちも、それに、父さんとおじいちゃんも、こんな状況になれば喜んで死を選んだはずだよ。だって、神様の言葉を告げるのが、預言者だろう」
彼は笑って言った。
「オバドヤさんを寂しがらせちゃったのは、ごめんね。それと、エフーがもっと偉くなるのを見られなかったのも。エフーにそう言っておいて。ボク、死ぬのは怖くないよ」
「死んだら、もうエリヤにも会えないんだぞ。それでいいのかい」
「うん。ボクはもう、大丈夫だよ。もう、エリヤがいなくても大丈夫。だって、ボクはエリヤの隣に立っているんだ」
「隣に?」
「そうだよ。ボクもエリヤも、預言者だ。神の言葉を聞く、同じ存在なんだよ」ミカヤはにっこりと、目を細めた。
「ボクは、あの人の後ろに居たかった。でも、ボクは今、後ろじゃないんだ。隣に立っているんだよ。それがね、すっごく嬉しいし、満たされているんだ」
彼の顔はすがすがしかった。あと数日もせず、この顔も飢えと渇きに満たされ惨めなものになるだろう。そう考えて、オバドヤは悲しくなった。それでも、彼の顔は誇り高いと、オバドヤはそう思えた。
彼はもう、説得する気にならなかった。オバドヤは「ミカヤ、大人になったね」と言った。そして、格子ごしに、彼の肩を抱けるだけ強く抱いた。
「旅先で、何があったんだい」
「エリヤに会いに行ったんだ。そしてね。話を聞かされたの。ボクは……エリヤにつくものじゃない。預言者は、一人一人、イスラエルに、神様にとって必要だから選ばれたんだって。だから、ボクはボク。ボクに来た預言はボクのものだ。ボクは、それに誇りを持つんだ」
オバドヤはなおも泣いた。だが、それは悲しみだけからくるものではなかった。ミカヤは、細い指でそれをぬぐった。



イスラエルとユダの連合軍がラモト・ギレアドについたころ、アラム王は一足先に戦場についていた。彼らは出会うなり、たちまち開戦した。
ベン・ハダドは彼の自慢である戦車隊の長たちに言った。「あのアハブは許しておけん、私の顔に一度泥を塗っただけでは飽き足らず、なおも牙をむこうとしているのだ。良いか、雑魚はどうでも良い。兵士も将軍も無視しろ。アハブのみを狙うのだ」
戦車隊長たちは、それに忠実に従った。戦が始まるなり、彼らはアハブ王目指して集中砲火を浴びせた。戦車隊の殆どが、彼に向かってやってきたのだ。
だが、それはヨシャファト王だった。アハブが王の服を着ていなかったので、彼らは見事な王の服と鎧に身を包んで出てきたヨシャファトをアハブ王だとばかり思い込んで、彼に狙いを定めたのだ。ヨシャファトは予想外に自分に攻撃が集中したことに驚き、自分の護衛兵たちにそれを迎え撃たせながら戦車で戦場を逃げまわった。

ベン・ハダドはさっそくその様子を見て、ヨシャファトがアハブだと思って上機嫌になった。アフェクでも見られた彼の油断する癖がまた出たのである。
「なんだ?あいつら、バランスの悪い攻撃しやがって」エフーはそれにいち早く目を付けた。そして、自分の率いる五十人隊の部下たちにすぐさま言った。
「あいつら、何故かしらんがオレたちをわざと無視してヨシャファト王を集中砲火してる。と言うことは、守りが手薄だ。この隙に攻め込め!」
「はい、隊長!」彼らは答えた。

アハブは遠目でヨシャファトを見ながら、起こったことに戸惑いつつ彼を心配した。だが、彼がせっかく与えてくれた機会を不意にするわけにもいかないと、兵達に混ざって遠くから戦車に乗り矢をうっていた。


アハブに間違えられたヨシャファトは、しばらくの間逃げ回っていた。兵達の口ぶりから、彼らが自分をアハブと思っているのだとはほどなくして彼にも分かった。まさかベン・ハダドがこれほどまでアハブを恨んでいるなどとは思ってもみなかった。
ついに、アラムの将軍の一人、ナアマンの戦車が、彼に近づいた。彼はぎょっとしたが、ナアマンはたちまちヨシャファトの護衛兵たちを切り裂き、彼に肉薄した。
「イスラエル王、お命をいただく!」ナアマンは高々と叫び、ヨシャファトの護衛の血の付いた剣を、彼に振りかざした。
その時、ヨシャファトの心は一瞬のうちに恐怖に満たされた。彼は、ナアマンの声にも負けない大声で叫んでしまったのだ。
「待ってくれ!助けてくれ!私はアハブではない、ユダ王ヨシャファトだ!」

「なに!?」ナアマンはその言葉を聞き、剣を緩めた。
「嘘ではない!わ、私はユダ王のあかしも持っている」
彼はそう言って、うろたえながら指にはまった赤い指輪を見せた。赤いルビーにユダ王家の祖であるダビデの紋章、六芒星の模様が掘り込んであるそれは間違いなくユダ王のみが持つものを許されたものであった。
「頼む、見逃してくれ、私はお前たちが狙っているものではない」
ヨシャファトは必死でナアマンに命乞いした。ナアマンはその言葉を聞き、少しの間考えていたが、やがて「わが主ベン・ハダドはアハブのみを狙い、その他すべては無視するようよう我々に命じられた。攻撃の意志もないようであるし、お前の事は見逃そう」と言った。
「だが、アハブがどこにいるかを教えてもらおう」
「そ、それは私にもわからない。兵士に混ざっているのだ」
「それで十分だ!」
ナアマンは戦車隊に向きかえり、「このものはアハブの偽物だ!本物のアハブは兵の装いをしている!」と、高らかに告げた。

その言葉は一瞬で戦場を駆け巡った。
「アハブは兵に紛れているぞ!」と次から次へと伝言される様子を、アハブは戦地の端で聞いていた。彼は肝が冷える思いだった。なぜこうもすぐばれてしまったのだ。ヨシャファトがばらしたのだろうか、と。
アラム軍はアハブがどこに居るかわからない、となったことで急に散り散りになり乱戦状態となった。
このままでは自分も流れ弾をもらう可能性がある、いったん前線から身を引こうか、とした時だった。一人の馬に乗ったアラムの少年兵が、彼の前に立ちはだかった。年齢はとても若いが、ただならない気迫を持た目つきをしている少年だった。彼は、ハザエルと言う軍人だった。
「イスラエル王アハブだな」彼は言った。
「な……」
「ごまかしても無駄だ。私は戦場でお前を見たこともある。お前の顔は知っているぞ」彼はすっと剣を抜いた。「死ぬがよい!」
アハブは応戦しようとしたが、一瞬遅い事を悟った。だが、その時だった。
アハブの真横から刃が飛んできて、大きな音を立ててハザエルの剣とぶつかりあった。アハブが顔を上げると、エフーがそこにいた。
「エフー」
「アハブ様、いったん引いてくださいよ。あんたが戦うのにはちょっと強いらしいから」彼はハザエルの剣を受け止めつつそう言った。
「き、貴様、卑怯だぞ!」
「戦争に卑怯も何もあるか、勝てばいいんだよ」
ハザエルは彼の剣から逃れ、エフーに切りかかろうとした。だが、彼はそれをもいなし、高い金属の音が響く。エフーとハザエルは激しく切り結んだ。
そのさなか、エフーは余裕を感じる口調でアハブに言う。
「アハブ様、早く!それと、指令をお願いします。ヨシャファトが奴らを引き付けている間に、オレの隊がアラム軍の奥まで攻め込みました。戦いはオレらの優勢に進んでいます」
「な!?」
エフーは動揺したハザエルが一瞬攻撃を緩めた隙に、激しく自分の剣を打ち付けた。アハブはそれを聞いて「ああ、分かった!」と、戦車を翻して勢いよくその場から去った。
「ま、待て……」
ハザエルがそう言った途端、彼の剣がついに彼の手を離れ、大きく宙を舞ってから遠くの地面に落ちた。その隙に、ハザエルも倒れる。
エフーは彼に追い打ちをかけようとした。だが、ハザエルが致命傷を負うその一瞬前、さっとやってきた戦車が彼をさらっていき、エフーの刃は虚空を切ることになった。戦車に乗っていたのは、ナアマンだった。
「ナアマンさん、ありがとうございます」ハザエルは言った。
「かまわん。ハザエル。それよりも、悪い知らせだ。偽のアハブを追っているうちに、すっかりイスラエル兵にやられた。陛下を守るために引き返すぞ」
「はい、ナアマンさん!」

エフーの言うとおり、ヨシャファトには大変気の毒な思いをさせたが、戦はイスラエルとユダの連合軍の有利に進んでいるようだった。アラム軍が押されているのは見ても明らかであった。
「どうやら、この戦もすぐに勝ち戦になりそうですな!」と、将軍たちは口をそろえてアハブに言った。アハブも、それに元気づけられミカヤに言われたことを忘れかけていた。
アハブは御者付きの戦車に乗りなおすと、アラム軍を迎撃するために改めて攻め込んでいった。
彼は弓兵たちに矢を大量に打たせ、アラム軍を牽制した。そして、自分は戦車隊に混ざって攻め込んでいったのだ。「イスラエルの勝利は目前だぞ!」彼は叫んだ。その言葉に、彼らの士気は最高潮に昇り、戦いは激化した。

だが、ある瞬間だった。

弓兵の一人が打った矢が、勢い余り、飛ぶべき方向に飛んで行かなかった。彼の矢はアラム軍でなく、味方であるイスラエル軍の戦車隊の中に飛んで行ったのだ。彼はそれに気が付かなかった。誰も気が付かなかった。
だが、矢はまっすぐに、ある人物をめがけ飛んで行った。そして、鎧の隙間をすり抜けて、彼の肺を射抜いたのだ。

その人物は、アハブであった。



アハブは胸の鋭い痛みに、自分の身に起こったことを悟った。彼はそれを見て、茫然とした。
「陛下?」御者が、いち早く主人の異変に気付いたらしくアハブに声をかけた。
ここで死ぬわけにはいかない、と、アハブは思った。ぜっかく高潮しているのだ。自分が傷ついたことを悟られてはならない。彼らが士気をくじかれ、敗走してしまう。
「何も問うな」彼は御者に命じた。「戦車を反転させ、敵陣から脱出させろ」
御者も何かを悟ったと見えて「はい。ただいま」とだけ言うと、その通りにした。戦いはますます激しくなっていった。

アハブの傷は深かった。彼は矢を引き抜かれたが、出血が止まらなかった。
心配そうな眼をする軍医に、彼は言った。
「行かねばならない」
「陛下、戦いは無理でございます」
「だが、戦場には立つ必要があるのだ。私が怪我をし敗走したとでも知れてみよ、イスラエルの負けだ。負けのみならず、恥だ。私はせめて、少しでも長い間兵士たちを鼓舞せねばならん。私はイスラエル王だ」
彼はそう言い張り、傷を負いながらも鎧を着て、戦車の上に立ち、少し離れた場所から兵たちを見守った。兵たちはアハブが見ているのを知り、王は無事だ、と認識を持って戦った。戦はなおも激しくなった。


彼らを見つめながら、アハブは死を覚悟した。すでに、自分が助かる気はしていなかった。
だが、彼らは戦っている。自分のために。自分が生きていることを士気の糧として、戦っている。そのことに、アハブは幸福を見出していた。
誰からも尊敬などされないと思い込んでいた。長い間、ずっと。自分は裏切り者の家系のものなのだから。
だが、違う。自分は誇り高い王として死んで生ける。あの日、神に願ったことが、今、なされようとしているのだ。
「(ああ、主よ、感謝します)」彼は思った。と、その時だった。神と言う言葉から、彼はあることを思い出した。

『奇跡が起こらないと、貴方は神を信じないの?』
ミカヤの言葉だった。
そうだ。自分はミカヤに、なんという真似をしたのだ。そのことが思い出された。彼は正しかった。戦場で、アハブは死んだのだから。
『神は確かに、絶対的に甘い存在ではない。でも、だからと言って神を邪悪とするなんて、短絡すぎます』
『神様はなあ、てめえのための道具なんかじゃねえ!』
エリシャとエリヤの言葉も、彼の頭に浮かんだ。思えば、この三つの言葉は似ている。彼はそう思った。
宗教に振り回されるようではだめだ。神は道具だ。自分はかつて、そう思ったこともある。神は自分に厳しかった。しかし、このような最期をも、また、与えてくれた。それだけではない。王家としての豊かな暮らしも、愛しいイゼベルや大勢の子供たちも、与えてくれた。
自分はそれをわかっていなかったのだろう。アハブはそう思った。自分の悪を悔いはしても、神の与える華やかな勝利に酔うあまりミカヤの言葉を信じられなかったのだから、死の間際まで、結局は分かっていなかったのだ。
しかし、ミカヤの話を信じなかったのも、やはり神の意志ではなかろうか。だって、自分が戦場に出なければ、結局この運命もなかったのだから。
「(主よ)」
いつしか、時間は夕方になっていた。ラモト・ギレアドの空にも、真っ赤で大きな夕日が沈もうとしていた。
「(この愚かなしもべを、お許しください)」
そう願い、アハブは戦車の上に立ったまま、目を閉じた。それは、ミカヤの預言からちょうど三日目が終わろうとしていた時だった。



日が暮れた時、戦はいったん終わり、各々の軍は自分の陣地に帰っていった。イスラエル軍はその時初めて、彼らの王が死んだことを知った。アハブの血は包帯で食い止められることはなく、大量に流れ出て戦車の床に溜まっていた。
イスラエル軍は王の死を嘆いた。紛れ込んでいたアラムの諜報員も、急いでその情報を彼の主のもとに送った。
「アハブは死んだ。各々、自分たちの町に帰るがよい。戦は終わりだ」そのような声が、ラモト・ギレアドの地に響き渡った。


アハブの死体はサマリアに運ばれた。
エフーはアハブの死体になど構わずミカヤの監禁されている独房に行った。彼が見たのは、独房に横たわる小さな体だった。ミカヤは彼らの帰る前日に、息絶えていたのだ。
「ミカヤ……」彼は言った。ふと気がつくと、後ろにオバドヤが立っていた。オバドヤは番兵から預かったという鍵で牢を開けた。彼はミカヤの牢に入り、彼の死体を抱き上げてくれ、私には少々力が足りないと言った。
「もちろん、そうしますよ」
エフーはひょいと、彼の体を抱き上げた。脱水症状になって死んだその体は、悲しいほどに軽すぎた。
「エフー君、君は、落ち着いているのだね」
「落ち着きますよ。オレは軍人ですからね」彼は答えた。
「男らしい死にざまじゃないですか。こいつは戦って死んだんだ。誰か一人でも多く誇りに思ってやらなきゃ、気の毒ですよ。オバドヤさん」


アハブの戦車は、イズレエルにある彼の別荘に持ってこられた。彼の血で真っ赤に汚れたそれは、イスレエルのとある池で洗われた。
すると、やがて彼らは狼狽した。野良犬が何匹も集まってきて、水に溶けたアハブの血を舐めはじめたからである。
アハブがラモト・ギレアドで死ぬというミカヤの預言とナボトの死んだところで犬が彼の血を舐めるというエリヤの預言、そして、さらにはエリヤがかつてアフェクで下した、殺すべきベン・ハダドを生かしておいたため彼に代わってアハブが罰を受けるという預言は、すべてここに成就したのである。その池はのちに、売春婦が身を洗う場所となった。

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