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クリスマス市のグリューワイン

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feat: Elijah 第二十三話


エリシャはエリヤがいなくなった後、預言者として活動した。ツィドキヤなど預言者の仲間たちと一緒に、神の言葉を聞き、それを述べ伝え、神の奇跡を執り行い、イスラエルの宗教を守っていった。エリヤの捜索を行うものもいたが、エリシャはそれを無駄だと言った。そして事実、エリヤは二度と彼らの前に姿を現さなかった。
神はなぜ、自分を選んだのか?神に従う、神を理解する、とは結局何だったのか。
確固たる答えなど、何もない。神は貴族を選ぶかもしれないし、乞食を選ぶかもしれない。エリヤ、ミカヤ、アハブにエフー、オバドヤ、ツィドキヤ、皆、立場も主義も違った。しかし、誰もかれも、自分なりに神と向き合い、覚悟を固め、神は、彼らに何かしらを返したのだ。
人間が考えるだけ無駄なことかもしれない。エリシャは最終的に、そう考えた。そして不思議なことに、そんな空虚な結論に何の寂しさも感じなかった。そう思わせるのもまた、神の力ではないか、とエリシャは考えていた。特別な理由などないのだ。神はいて、そして、覚悟を固めた人間に、何かしらを返してくれるのだ。



ベルゼブブの一件もあり、もはや宗教改革は不可能になっていった。アハズヤには子供がいなかったので、彼の弟であるヨラムが後を継いだ。ヨラムはアハズヤよりは状況のわかる男だったので、イスラエルからめぼしいバアル神殿を取り払った。ただ、母に逆らいきれないのは彼も同様で、彼も結局イスラエルの神に仕え続けることはなかった。そして、彼も父同様に、人民を顧みることのできない王だった。そのおかげで、人民の心はどんどん、王家から遠ざかっていった。
イゼベルは、バアル崇拝をやめなかった。彼女は、自らの崇める「バアル」にすがり続けた。そして、息子と、自分の腹心のものたちにそれを強要したが、もうイスラエルをバアルの国にすることは不可能であると彼女もわかっていた。彼女が他人にそれを強いるのは、ただただ、自分が少しでも心穏やかにありたいためだということは彼らにも分かった。彼女は来る日も来る日も亡くなってしまった夫と息子を嘆き、そして、バアルに向かって祈った。彼女はエリヤに向けていた憎しみをエリシャとほかの預言者に向け続けたが、エリシャはそれを意に介しはしなかった。


それは、ある日の事だった。
イスラエルはアラムと戦争をしていた。あのベン・ハダドはすでに誅殺され、アラムの軍人であったハザエルが王権を握った時の頃だった。
前線となっていたのはラモト・ギレアドで、戦場に出ていたヨラム王は当のハザエルに傷を負わされ、イズレエルで療養をしている最中の事であった。軍の長たちが会議をしていた中に、一人、現れた影があった。それは、エリシャであった。
軍の長たちは当然驚いたが、エリシャは静かに「将軍、貴方にお話があります」と言った。それを言った先は、すでに将軍に上り詰め、のみならず、彼らのうちでも頂点に立つような存在となっていたエフーであった。


「どうしたんだ?エリシャ君」
二人きりになった時、エフーは彼に、彼らの少年時代の時のような話し方で語りかけた。エリシャは少しエリヤに似てきたと、エフーはその時思った。
「僕が昔、師匠から聞かされたことがあるんです」エリシャは言った。「師匠は立派な人でした。しかし、神から命じられたあることをせずにこの世からいなくなりました。と言うのも、その時期が来ないままだったからです」
「と言うと?」
「エフーさん、貴方を、イスラエルの王として任命する事です。アハブの王家に代わり、イスラエルを治める存在に」エリシャは言った。
「神様はこう言われます。『お前はお前の主君、アハブの家を打たねばならない。イゼベルの手にかかって死んだ私のしもべ達、預言者たちの血の復讐を為すためである。アハブの家を、ネバトの子ヤロブアムの家のようにする』」
そして、懐から清め油の壺を取り出した。
エフーはそれに対して当然しばらく戸惑っていたが、追及の言葉は決して発さなかった。彼は静かにその場に跪いて、エリシャのそそぐ油を頭に受けた。


エリシャが裏口から帰り、エフーが仲間の将軍たちのところに出て行ったとき、将軍たちは「あの気狂いに何を言われたんだ」と、彼に詰め寄った。彼はにやりと笑いながら言った。
「俺が王を打ち、代わりに王になる、と言うことを言ったのさ。そして、油を注いだんだ。この俺に」
それにうろたえる彼らに、エフーは高らかに告げた。
「アラムとの戦はやめだ。王家は今、イズレエルに居る。俺はイズレエルにいって、クーデターを仕掛けてこよう。お前たち、王につくか、それとも、この俺につくか、どちらだ?」
彼らにとってそれは考えるまでもない事だった。戦いに優れたエフーは、彼らの信頼を十分すぎるほど集めていた。彼らはエフーの前に跪き、角笛をついて「エフーが王になった」と宣言した。

エフーは部下を連れて戦車に乗り、イズレエルに向かった。誰も、先回りして王家にこの事を知らせようという忠誠心のあるものはいなかった。
イズレエルにある見張り塔が、それを見つけた。狂ったように全速力で戦車を走らせるその走り方は、エフー独特のものだった。そのため、彼らにはすぐ来た人物がエフーだとわかった。
ヨラム王はそのことを聞くと、戦場で何かあったのかもしれないと心配に思い、自分も戦車に馬をつないで彼を迎えに行った。ちょうど彼を見舞いに来ていたユダ王アハズヤ、彼の母はアハブとイゼベルの娘だったので彼の親戚にも当たる存在、とともにだった。

彼らが合流したのは、ちょうど、かつてのナボトの所有地だった。
「エフーよ」ヨラムはエフーがやってくるのを見て言った。「無事か?」
「無事だと?」
エフーは遠く離れた場所から、駆け寄りながら、叫んだ。
「貴様の母の破廉恥な不信仰があいも変わらず行われていて、何が無事なものか!」

その声を聴いて、ヨラムははっと気づいた。エフーは、自分にクーデターを仕掛けるため戻ってきたのだ。
彼は慌てて手綱を引き「アハズヤ、逃げよう。裏切りだ!」と言った。そして、一目散に宮殿に逃げ帰ろうとした。だが、その時だ。
エフーはさっと弓をつがえ、一瞬でそれをヨラムに向かって打った。矢は、正確に心臓を射抜き、ヨラムは戦車の中に崩れ落ちた。
エフーは部下に命じた。「この男はナボトの畑に捨てておけ。預言者エリヤの預言が、これを持って成就されるように」
そして、それを見て怯えながらも一目散に逃げるアハズヤをも見て、言った。「アハズヤも逃がすな、彼も一緒に殺してしまえ」
彼のその指示に従った彼の部下たちによって、アハズヤも懸命にメギトまで逃げたが、殺された。彼の遺体は、そののちにエルサレムに運ばれた。


イゼベルはそのことを聞いた。エフーがすぐそこまで迫っていることも、彼が二か国の王を殺したことも。イゼベルはそれを聞いて、自分の侍女を呼んだ。そして急いで、自分に化粧を施させ、髪を結わせた。彼女はすでに老婆と言って差しさわりのない年になっていたが、彼女は自分を、少しでも美しい存在にしようとしたのだ。それが、彼女のプライドであった。

彼女はバルコニーに出た。ちょうど、エフーは城門に入ってきたときであった。
「ご無事ですか、主人殺しのジムリよ」
彼女はエフーに、よく通る声でそう言った。ジムリとは、イスラエルにあまたあった裏切り者の一人の名前であった。アハブの父オムリが、それを討った。
イゼベルの声は誇り高く、エフーを心の底から見下している様子であった。それは、誰がどう聞いても、王女として生まれ、王妃として生きた、途方もなく高貴な女性の発言だった。

しかし、エフーはその言葉に眉一つ動かさず、うろたえることは少しもなく、言った。
「虚勢を張っても無駄だ。お前の味方なんぞ、もういない。そして、もしもそれが虚勢じゃないなら、お前はただただ、本物の馬鹿だ」
そして、イゼベルの方を指さした。
「そこに、俺にくみする者がいるはずだ。お前たちに命ずる。そのイスラエルを堕落させた阿婆擦れを、突き落せ」

イゼベルはその言葉を聞き、そしてふと背筋が寒くなったので後ろを向いた。そして、彼女は絶望した。その場にいた宦官や侍女たちが、全員、自分を突き落そうと迫って来ていたからだ。
「止めなさい」
イゼベルは言った。しかし、彼らはやめようともしなかった。とうとう、宦官の一人が彼女に触れた。
「おやめなさい。私はイスラエルの皇太后。お前たちの主君です」
自分の体に触れた宦官に、彼女はそう言った。彼女はあくまで誇り高かった。しかし、その宦官は言った。
「イゼベルよ。私の眼を見なさい」

イゼベルはその言葉にはっとし、彼の眼を覗き込んだ。彼女は驚いた。その瞳は真っ白だった。目の前にあるのは、アスタロトの顔だった。
「あ……アスタロト、様……」
「イゼベル……貴様が使える奴だと思ったからこそ、私はお前を選んだのだ」
アスタロトは彼におびえるイゼベルにそう言った。言葉の出ない彼女に、彼は続けた。
「だが、違ったな。お前たちはいつもこうだ。やはり、人間は使えない」
彼は白い唇の底で、そう言った。そして、エフーと同じように眉一つ動かすことなく、イゼベルをバルコニーから突き落した。
数秒もしないうちに彼女の高貴な体は石で覆われた地面にたたきつけられ、イゼベルは息絶えた。彼女の血は、壁に、床に、そしてエフーの馬に飛び散った。馬はそれを嫌がってか、彼女をその前足で踏みつけにした。エフーは戦車を降りて、イゼベルには目もくれないまま、主のいなくなったイズレエルの宮殿に入っていった。


エリシャは、夕方、そこに訪れた。夕焼けに染まったイズレエルの象牙の宮殿は、主が変わったにもかかわらずその姿を変えはしなかった。宮殿の表には誰も出ておらず、門番すらもおらず、宮殿の前に居たのはエリシャだけだった。
イゼベルは、そこに死んでいた。どこからかはいってきた野良犬が彼女の死体を貪り食い、彼女の美しかった顔面は頭骸骨となり、肉が残っているのは両足と両手首だけだった。犬たちは、それらも先を争って食べていた。その残った手は、一つ、小さな黄金でできた偶像を握っていた。それはバアルの像で、彼女がイスラエルに嫁ぐとき、親から貰ったものだった。
「これが、イゼベルの末路か」
エリシャはそう呟いた。かくして、アハブの家のものがイズレエルで犬に食べられるというエリヤの預言は、完全に成就したのである。


その後、イスラエル王エフーが行った血の粛清によって、アハブの家の者、そしてバアルの神官たちは、一人残らずイスラエルから消えた。



(完)

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